*** june typhoon tokyo ***

脇田もなり @Motion Blue Yokohama



 夜景煌めく横浜で、感謝を綴った歌のギフト。

 ソロ歌手としての始動以来、脇田もなりが“憧れの場所”と語っている横浜赤レンガ倉庫にあるモーション・ブルー・ヨコハマでのステージは、昨年3月15日のワンマンライヴ〈Almost a Lady Live〉から約1年ぶり。2020年は聖ヴァレンタインデーとなるフライデーナイトに、文字通りの〈バレンタイン・ライブ〉を開催。昨年末より東京・日比谷のBillboard cafe & diningでのバンド・セットとDJセットそれぞれでの〈Almost a Lady Live〉や、自身の誕生日となる1月28日に行なわれた東京・渋谷のJZ Brat SOUND OF TOKYOでの〈Birthday Live〉など、スタイリッシュなカフェやジャズバーなど大人の薫りを漂わせる空間での公演が続いていたが、この一連の流れを締めくくるのは、彼女が憧れてやまない、夜景が煌めくロマンティックなロケーションでのステージとなった。自身としてはバンド・セットでのBillboard cafe & dining公演以来の観賞となる。

 今回はギターのラブアンリミテッドしまだんをバンドマスターとし、ベースに越智俊介、キーボードにKAYO-CHAAAN、ドラムに山下賢という“Up&Coming”バンドでの布陣。モーション・ブルーは1部と2部に2、30分のインターミッションを挟むことが多いのだが、開演前とそのインターミッションに脇田もなりのサウンドメイカーともいえる新井俊也と音楽ユニットのブルー・ペパーズの福田直木がDJプレイ。フロアに洒落たムードを漂わせるのに一役買っていた。

 しっとりとしたジャジィな雰囲気を纏った「遊星からのアイラビュー oh! oh!」からステージは開幕。「Thinkin' about U」「EST! EST!! EST!!!」となかなかのライヴでの“沸き曲”を続けるが、完全にジャジィに落とし込むこともなく、バンド編成ならではの上質感を重視したスタンスということもあって、個人的にはグルーヴィな楽曲たちを座って聴くには少々もどかしさも。ただ、それ以上に気になったのは、ヴォーカルワーク。彼女は元来ハスキーな要素も多少は有しているとは思うが、どちらかというとハスキーというよりも高音がやや苦しそうな掠れも散見。「Thinkin' about U」のフックあたりに特にその兆候がみられたりと、喉の調子が万全ではなかったのかもしれない。

 MCを挟んで「愛のデカダンス」「走る僕」といったミディアムが続くあたりになると、その掠れも次第に影を潜め、「TAKE IT LUCKY!!!!」では伸びやかな“らしい”ヴォーカルへと転じたところでステージアウト。福田直木のDJタイムが流れるインターミッションへ突入した。



 第二部の幕開けは、「せっかくピアノがあるので、ね」とKAYO-CHAAANの演奏を従えたアコースティック・ピアノ・デュオ・スタイルで2曲。横浜ベイエリアを意識したサウンドスケープともいえる「夜明けのVIEW」は、原曲が帯びている侘しさや切なさという音像を成熟した大人の“粋”へとフェーズを移したアレンジに。いわゆるセクシーという意味での艶やかさではなく、歌いながら見上げる余韻の隙間にちらほらと大人の色香が垣間見える、そんな姿に息を呑むような静けさが満ちる。彼女自身がよくカラオケで歌っていたという古内東子のカヴァー「誰より好きなのに」は、原曲までの切なさはないが、よく歌っていたというだけあって、彼女らしい“愛くるしいなかの苦々しさ”のようなセンチメンタリズムが散りばめられたカヴァーとなっていた。

 バンド・メンバーを呼び込んで、「LOVE TIMELINE」からフルバンド編成が再開。オリジナルは清爽な作風も薫るこの曲だが、スタイリッシュな要素とエレガントなメロディラインを持ち合わせていることもあって、リズムを削ぐことなく微かに落ち着きの雫を落としたアレンジが程よい洒脱さを醸し出す好アクトに。「今回は『AHEAD!』のアナログ盤リリースも近いということで『AHEAD!』選曲も多いのですが、『I am ONLY』からも少しはということで、ハウシーな曲を」と語ってからの「I'm with you」を経て、「CUTi-BiL」へ。しっとりとした曲調もそうだが、“明日は今日より 輝いているはず / だからすこし 背伸びをして……”と歌う姿は、その詞の“背伸び”の度合いが和らぐほどの色香も携えていた。

 「みなさん、知っている人も多いんじゃないかな」とのフリから始まったのがこの日2曲目のカヴァーとなった「今日はなんだか」。山下達郎のシュガー・ベイブの1975年発表曲だ。年齢層的にこのセレクトに歓喜した観客も少なくなかったように見受けられたが、もちろん彼女が生まれる(20年も)前の曲。正直なところ、意外な選曲という以外にはそれほど話題性は感じなかった。



 別にカヴァー企画が悪いということを言うつもりは毛頭ないのだが、個人的にはそれ以上に“今”や“未来”を予兆する脇田もなりが観たいというのが本音。前回のライヴレヴュー(「脇田もなり @Billboard Cafe & Dining」)のなかで「この日最も実感したのは、2ndアルバム『AHEAD!』で標榜した“POP-EYED SOUL”から一歩踏み出そうとしている姿だった。不格好かもしれないが、歌うことへの強い愛情と執着を見せた彼女に、期待は抱けないといったら嘘になる」と記したのだが、〈“POP-EYED SOUL”から一歩踏み出そう〉として過去・現在問わずに楽曲を漁っている努力は理解出来るし、それが将来への糧となるのだとも思う。その一方で、安易に(という言葉を使ったら語弊があるかもしれないが)過去の名曲をカヴァーする以上に、これまで築いてきた自身の楽曲やそれらをブラッシュアップするような新しい解釈へチャレンジする方が、脇田もなりという歌手のステータスを上げるのではないかとも考えるのだがどうだろうか。

 実際に、歌い慣れているということもあろうが「やっぱりいい曲だよね!」と破顔した「IRONY」などは“持ち歌”の妙が明確に描出されていたし、越智のファットなボトムとともにアダルトな濃度を高めたアレンジで、慎ましくも艶めかしさを発した「FRIEND IN NEED」から、自身の胸の内を真摯に吐露しながらアウトロにフェイクも飛び出した「passing by」への展開はこの日の白眉。彼女自身も思うところがあるだろう「passing by」は、歌唱パートはもちろん、曲間の表情や所作さえも今の脇田もなりを如実に表わす楽曲として日に日に完成度を高めていると実感したが、そういったアプローチをより一歩踏み込んだところでやることが、脇田もなりという歌手像を世に知らしめていくための最良の武器になる気もする。



 アンコールで披露した「Callin' You」では伸びやかな歌唱も響き、微笑みとともに歌う喜びを表現してくれた。“今のお仕事にも慣れて / 昔より素直に生きているのは”という詞のところで、“昔より上手に、上手になったよぉぉ!!”と替え歌にして伝えたのは、彼女の偽らざる気持ちだろう。資質に長けた歌唱力を持ち、さまざまに試行錯誤をしながら歌手としての実力を高めてきた矜持もある。だからこそ、眼前の浮き沈みだけでなく、長い歌手人生を歩むためのチャレンジを続けて欲しいとも願ってしまう。当然、それは、単なる自身の勝手な思惑でしかないのだが。

 とはいえ、ファンの多くを魅了させたステージということには異論はない。ただ、残念なのは、平日夜に都心からはやや遠めの横浜というロケーションということもあるが、ヴァレンタインというスペシャルな日のステージに6、70名の観客だけしかこのライヴを体感出来なかったということか。

 歌手としての喜びとともにファンへの感謝も綴った“歌のギフト”に包まれた夜の横浜。ギフトは贈り物という意味だが、ほかに“天賦の才能”や“天性の能力”、(ドイツ語では)“毒”という意味も持ち合わせる。実際、彼女は天賦の才を得ていることに相違ないが、それに頼り過ぎてその将来性が毒にとって変わってしまう……などということはないだろうが、己の才能を信じて、今の、そして未来の歌手・脇田もなり像を築く道への扉を開いて行くことが、よりオリジナリティを増したオンリーワンな歌手へと飛躍するカギになる……そんな気がしている。


◇◇◇

<SET LIST>
≪The 1st Section≫
01 遊星からのアイラビュー oh! oh!(*A) 
02 Thinkin' about U (*R)
03 EST! EST!! EST!!! (*I)
04 愛のデカダンス (*A)
05 走る僕 (*A)
06 Just a “Crush for Today”(*R)
07 やさしい嘘 (*R)
08 TAKE IT LUCKY!!!! (*A)

≪The 2nd Section≫
09 夜明けのVIEW(with piano acoustic version)(*I)
10 誰より好きなのに(with piano acoustic version)(Original by 古内東子)
11 LOVE TIMELINE (*R)
12 I'm with you (*I)
13 CUTi-BiL (*A)
14 今日はなんだか(Original by SUGAR BABE)
15 IRONY (*I)
16 FRIEND IN NEED(*R)
17 passing by (*R)
≪ENCORE≫
18 Callin' You(*A)  

(*I): song from album『I am ONLY』
(*A): song from album『AHEAD!』
(*R): song from album『RIGHT HERE』


<MEMBER>
脇田もなり(vo)

ラブアンリミテッドしまだん(g)
越智俊介(b)
KAYO-CHAAAN(key,p)
山下賢(ds)

DJ:
新井俊也
福田直木(BLUE PEPPERS)


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