
2005年5月にduoで観て以来2回目の彼のライヴとなる。
duoは、ジャミロクワイのJKがプロデュースしたプチ“ブルーノート”スタイルのライヴ・ホール。
上階にO-EASTなどのライヴ・ホールがあるためか、フロア中央に大きな柱が2本ドーンと立っているので、ここをスタンディングにすると、多くの人がステージの様子が良く見えないという最悪のシチュエーションになる会場で、その時もスタンディング。
ピアノを弾くためにジョンが座ると、ジョンのおでこしか見えなかった…。
そんな前回のライヴに打って変わって、今回は国際フォーラムホールA。さすがに2階席の後ろ一杯までは埋まらなかっただろうが、3000人が約1時間30分彼のパフォーマンスに酔いしれた。
まず、何が良かったって、前回よりもバンドの所帯が増えて、音が格段に良くなったこと。
国際フォーラムは、音響が素晴らしくいいって場所ではないと思うけど、それでも、前回のバンドよりも巧かった。
(ということは、さらに会場やバックを変えればこれ以上によくなるということでもあるのだが)
ステージ左から、キーボード、コーラス3人(真ん中にジョンの弟Vaughn Anthony、その左右に女性ヴォーカル)、ギター(サウスポー)、ドラムス、オルガン、ベース(兼キーボード)。そして中央にジョンという布陣。もちろん、生ピアノが置いてある。


暗転してスタートは、19時30分前。
Jay-Z『キングダム・カム』から「Do U Wanna Ride」を軽くカマした後、そのまま『ワンス・アゲイン』から「heaven」へ。
“Heaven Only Knows,Heaven Only Kno-o-ows”のバック・コーラスも忠実に再現。ゴスペル感をしっかりと演出していた。
引き続き「stereo」へ。
今回のステージは、純粋にソウルな音楽の魅力を堪能出来ることに特化した演出で、実にシンプル。
いい楽曲とアーティストとそれを共有するオーディエンスがあれば、余計なものはいらなんだとでもいいたげなステージングだ。
あえて、凝った演出というなら、ステージへのライティングだろうか。
バックには主に赤や紫の色調のライトで、ジョンにだけ白光のスポット・ライトがあたるという、ホールにいながらジャズ・バーのような雰囲気をステージに醸し出していた。
ただ、それでバックがぼやけるということはなく、しっかりと手さばきやアクションが確認できる。
演奏もコーラスも安定して揺るがない。
そういう背景にあって、さらにジョンの一挙手一投足を見よ!というような照明効果が今回は多分に活かされていた。
的を射た演出だったといえる。
新譜『ワンス・アゲイン』から2曲続いたところで、突付くような鍵盤さばきのフレーズが流れて、場内に歓声が湧く。
「Let's Get Lifetd」だ。ここで、1stからのキラー・チューンを持ってくるとは…いやでも胸が高鳴る。
そして、「She Don't Have To Know」へ。
粘り気を含んだ燻るような声質から放たれる魂の叫びが、自由にゆったりと浮かび漂うさまに包まれれば、
彼の持つ音楽への情熱を感じずにはいられない……そんな空間であった。
数々紡がれる良質なソウル・ミュージックのなかでも白眉だったのが、「I Can Change」。
それまでの鍵盤のゆったりと流れる穏やかな雰囲気の「where did my baby go」から、一旦静寂な瞬間を作って、
“I Can Change…I Can Change…I Can Change…!”と叫び観客を煽ってから力強いグルーヴで突き進む展開へ。
これには、観客のヴォルテージもかなりアップ。バック・ヴォーカルの奥行きあるコーラスとハイハット連打のドラムが印象的なバック・サウンドに支えられ、「オレタチは自身を変えていく力を持っているんだぜ!」とでも諭されていることに発奮するかのような一体感を生んでいた。
人差し指を天にかざしての「Number One」も良かったが、今回はこちらだろう。
ついで、バック・ヴォーカルの男性=Vaughn Anthony Stephens、ジョンの弟を呼び出し、ステージ中央でデュエット。
ジョンのようなクセのある色合いはないが、オーソドックスな歌い方で好感が持てた。もちろん、ジョンの弟ということで、ソウルフルであったことに異論はないが。
「slow dance」では、観客のうち1人の女性をステージに上げて、一緒にダンス。
身体が触れるか触れないかの距離で向かい合わせながら身体をくねらせる2人。
最後は触れてしまうのだけど。(笑)
しっとりとしたピアノ演奏で弾き語った「again」から「p.d.a (we just don't care)」へ。
ここからは、ハンドクラップが軽やかなグルーヴ感を作りながら、再びアップ・モードに。
バンド・サウンドもメリハリをいっそうつけて、高揚感をもたらしていく。
そして、“ハ~ラァーラーラァ~”のフレーズから「Used To Love You」へ。ヴォルテージもマックスへ。途中でレゲエ・ミックスへとテンポ・ダウンするサーヴィスもあったが、個人的にはこのままクライマックスで終幕となってもいい流れではあった。
ブルージーな「show me」を経て、「Ordinary People」で本幕は終了。
優しげで清らかなタッチのピアノが次第に情感を帯びていきながら、“Take it slow…”のフレーズとともに高みへと昇っていく、その光景の圧巻なこと。ジョンの表現力の素晴らしさが最もあらわれる曲のうちの1つといってもいいが、それよりなによりも、その根幹をなしているメロディが素晴らしい。それをライヴでも再確認出来たラストだった。
ジョンはアウトロでステージ・アウト。バンド演奏が終わって、暗転。
鳴り止まない拍手。アンコールの嵐。
「Stay With You」のハートウォームなブルース・サウンドに心地よい安堵を感じた後、「もう1曲やってもいいですか」と言った後奏でられたイントロは「So High」。この曲がエンディング。
このパフォーマンスがどうであったかを端的に示すのは、スタンディングしたままで聴き入っていたオーディエンスが証明している。
これまで、バラード・ナンバーでは着席していた観客も、もちろんラストの曲だということもあるだろうが、しっとりとしたピアノのイントロが流れてからも着席することなく、ただ佇んでジョンの奏でるピアノと繰り出されていくソウルフルなヴォーカルを聴いていた…それがすべてだろう。
彼の体内に宿っていた熱量がほとばしり、その瞬間、空間をソウルという粒子で包み込んでいった…そんなエンディングだった。
今回は、ホールという場所でやったが、そこで感じる距離の差というものは、それほどなかったように思える。
それは、シンプルで真摯な姿勢と、絶妙のライティングにあったのかもしれない。
ただ、願わくば、ブルーノートのような近距離のステージで、というのは、ある。
鍵盤が奏でる音が張り詰めた空気の中をキーンと伝わっていく感覚は、ホールよりも小規模なライヴ・ハウスでこそ活きるのかもしれない。欲を言えば、だ。
彼のライヴの会場が東京国際フォーラム ホールA(ホールCなら別)と知った時、実は非常に残念だった。
自分のなかの感覚では、東京ドームよりはマシ…くらいにしかなかったのだ。
だが、実際はその予測を裏切ってくれる結果となった。
そのため、いつも以上に良かったと感じている自分がいるのかもしれない。
しかし、それは土台に素晴らしきメロディがあってこそ。
つまり、ジョンが紡ぐメロディには、揺るぎないグルーヴが宿っているということ、それだけはどこであっても真実であるということなのだ。
◇◇◇
<SET LIST>
01 Do U Wanna Ride
02 heaven
03 stereo
04 Let's Get Lifted
05 She Don't Have To Know
06 save room
07 Number One
08 Let's Do It Again
09 maxine
10 where did my baby go
11 I Can Change
12 Wake Up (with Vaughn Anthony Stephens)
13 slow dance
14 again
15 p.d.a.(we just don't care)
16 Used To Love You
17 show me
18 Ordinary People
≪ENCORE≫
19 Stay With You
20 So High

