*** june typhoon tokyo ***

桐原ユリ @渋谷WWW

 独創に富む才でWWWを彩った、笑いと喜びに満ちた“まんぼう”ワールド。

 2019年10月には小西康陽のソロ・プロジェクト“PIZZICATO ONE”のワンマンライヴにミュージシャンの一人として名を連ね、この6月にはその模様を収めたアルバム『前夜 ピチカート・ワン・イン・パースン』がリリースされるなど、直近ではPIZZICATO ONEのピアニストとしての活動が目立ったジャズ・ピアニスト/シンガー・ソングライターの矢舟テツロー。彼が自身の活動と並行してプロデュースしているのが、“まんぼう”の愛称で知られる桐原ユリだ。今年早々に下北沢BAR?CCOにて、天野なつとの共演で行なわれた桐原主催イヴェント〈まんぼうmeeting vol.5〉(記事はこちら→「〈まんぼうmeeting〉vol.5 @下北沢BAR?CCO」)にて一度ライヴを観賞したのだが、その時の印象からすると、正直渋谷WWWという規模でライヴを行なえるとは予想だにしてなかった。通常の集客を考えるならば、フロアを埋めることはなかなか厳しかっただろうが、このコロナ禍において、座席がソーシャルディスタンスで配置されることが功を奏したか、当日には適距離でフロアも埋められたステージに。桐原念願の桐原ユリのワンマンライヴ〈エンタメは死なない!!! ~ in Shibuya WWW〉は、入場時に検温、手・指消毒、間隔を置いての入退場など対策も入念に施された。

 フロア中段(WWWは以前「シネマライズ」という映画館で、その構造を活かしてフロアに段差があり、天井が高い)に着席すると、まず目立ったのが“草草草”というバックプリントの緑色のTシャツを着たコアファンたち。この時点では脳内に“?”が彷徨っていたのだが、あちらこちらからささやかに聞こえてくる会話に耳をそばだてていると、どうやら桐原がネットスラングの「笑い」を示す“w”が変化した“草”を、渋谷WWWに当てて“WWW=草草草”と表現したことからグッズ化されたらしい。そしてこの“草”というワードが、序盤に大きなインパクトを与えることになるとは。自身のユニークな資質といえる“ぶっ飛び”系パフォーマンスを最大限に活かしながら、表面の突飛なイメージに隠れがちな音大出身の素地と縦横無尽にベクトルが伸びる表現力を発揮したステージとなった。


 暗転後、中央に置かれた生ピアノを前にピアノソロ演奏をスタンダードなスタイルで披露するという、桐原のキャラクターイメージとは異なる変化がなさ過ぎる冒頭だったが、これはこれまで積み重ねてきたクラシック音楽経験もステージの演目の一つとして行ないたいという想いからか。一心不乱に鍵盤を弾く姿からは、“まんぼう”というどこかとぼけた印象の表情は窺えなかった。

 しかしながら、ここからがその流れが急転直下するような導入へ。ステージバックのスクリーンに「昼はOL、夜はアイドル ディープな夜に密着」というタイトルの映像が流れ始め、街で待ち合わせしたOLとインタビュー形式で話が進行していくという、いわば素人の企画物アダルトヴィデオの冒頭部で良く見られるような展開に、フロアからは失笑が漏れる。「いろいろ質問してほぐれたところで……一旦これに着替えてもらってもいいですか?」と渡された段ボールの中身を見て、唖然とした表情で「これですか?」と答えた後、着替えに行くということでヴィデオはストップ。直後にイントロダクションBGMが始まり、バンドメンバーの後にステージインしたのが、愛・地球博のマスコットキャラクター「モリゾー」を思わせるかのような草で覆われた上下の衣装を纏った桐原本人。多くの歌手であれば、歌手登場時に大きな拍手に包まれるものだが、いきなり人型の緑の草が登場したものだから、失笑と「え?」という疑問符が頭につきそうな戸惑いの表情の観客も少なくなかった。桐原がフロアに手を振り始めたところで、始まった「Surprise you」の冒頭の歌詞が「驚いたでしょ、突然のプレゼント~」なのが余計にシュールに感じさせる。


 曲間のトークは話題が二転三転して落ち着かないこともしばしばで(思った瞬間に口に出してしまうタイプ?)、その自由奔放なステージングがとっ散らかった印象を与えていることは確かだが、その一方で、ジャンルレスという言葉がチープに聞こえるくらいの自らの表現方法を抑制しないスタンスで、豊かな表現力を衒いなく発揮しているところが、彼女の魅力なのだろう。単独やイヴェントなどでは“無駄に”暴走してしまいがちなところを、ベースの鈴木克人とドラムの柿澤龍介とからなる矢舟テツロートリオのジャズを基盤にしたシックなサウンドによる楽曲演奏で、土台としてブレない部分を構築。特に鈴木の大きなウッドベースが登場する楽曲は、圧力というよりも丹念に土台を敷き詰めていくような職人肌のボトムで楽曲に粋とコクをもたらせる。それぞれトリオの面々が、奇抜でなくシンプルながらも安定かつ洒脱なムードを演出する音でバックアップすることで、天衣無縫にステージ狭しと走り回り、歌い踊る桐原に“まんぼう”然として歌える安心を与えていたようにも感じた。

 もちろん、矢舟テツロー名義のアルバムで既に発表された「イタリアン・トラットリア」や星野みちるに提供した「しっぽのブルース」、本編ラスト前に披露した「君は虹ガール」をはじめ、バンド・セクション冒頭の「Surprise You」(当初はミア・ナシメントへの提供曲)のほか、「恋愛保険」「背の高い女の子」、本編ラストの「Lady, Girl, Baby」などは矢舟の提供・プロデュース楽曲ということもあり、いわば矢舟自身が勝手を分かっている楽曲ゆえ、セッションし慣れているという側面もあるだろう。ある程度のヴォーカルの暴走ぶりも意に介さない強度で、しっかりとした音楽性をキープし、矢舟バンドが演奏面の不安を払拭することで、桐原のヴォーカリスト(というより表現者か)としての伸びしろを引き出させるような思案がなされていたのかもしれない。


 中盤には桐原自身が手掛けた楽曲を披露するセクションもあったが、そのなかでは「でいだらぼっち」が耳に残ったか。「〈でいだらぼっち〉のリズムに合わせてオシャレな曲作ろう~」というフレーズがリフレインするなかで、自身が経験したことや思ったことなどを愚痴っぽく吐露するというシュールな詞世界に彼女らしさが満開だが、それよりも同フレーズをエフェクトしたバックトラック気味に装飾しながら、躍動感あるファンキーな音でラップ風に歌うというスタイルは、自分が桐原の楽曲で知る限りはあまり見聴きしたことがない斬新なもので、桐原ワールドに新たに仲間入りした新境地といえるだろう。
 ちなみに、“でいだらぼっち”(ダイダラボッチ)は日本各地で伝説や信仰として受け継がれてきた“巨人”や“妖怪”のことで、一寸法師の反対の大太法師とも言われている。曲中に“孤独な妖怪~”と歌っていることからも、高身長の桐原自身のメタファーといえる。アウトロやところどころに和の要素を採り入れているのも“日本の伝承”を意識したのかもしれない。

 本編ラスト「Lady,Girl,Baby」に際しては、歌を歌えることの感謝や、やはり歌い続けていたいという希望を口にするほか、2日後に初の全国流通盤としてリリースされる、杏里「Back to the BASIC」ならぬタイトルのアルバム『Back to The BABY』についても言及。“baby”というのは生まれた時の本能のまま=“ステージで自由にはしゃぐ”という彼女なりの表現らしく、一見くだけたフレーズに思いがちだが、実は彼女の歌手としての信念が込められた言葉でもありそうだ。


 アンコールは、赤いワンピースドレスに衣装を替えて、再びピアノソロで幕開け。バンドメンバーを呼び込んで、名残惜しそうな表情から意を決して歌い始めたのはNOKKOの「人魚」。その作曲者で日本のポップスシーンに偉大な足跡を残した筒美京平が奇しくもこの日中に訃報が飛び込んできたが、スクリーンには字幕もついていたし、おそらく追悼する意味での選曲ではなく、偶然のものだろう。だが、結果的に筒美京平を悼むと同時に、桐原があまり見せない物寂しい歌唱を披露したという、貴重な機会となったともいえる。

 桐原がステージアウトするやいなや、矢舟トリオの「Lady,Girl,Baby」のインスト演奏とともに桐原からの手書きのメッセージがスクリーンに映し出され、大好きな音楽で大切な人たちを笑顔にするという想いを伝えると、さらなるサプライズが。来年2月に矢舟テツロープロデュースのジャズ・トリオ・バンドによるアルバムの発売が決定とのこと(スクリーンに出た文字が2021年2月でなく2020年2月となっていたのはご愛敬)。このライヴもジャズ・トリオによるアレンジをベースにして構成されていたが、桐原を矢舟色に染めようとしたというよりも、桐原にジャズ・テイストでの歌唱の可能性を見出して、ということなのだろう。アルバムはトータルプロデュースとなるゆえ、ジャジィなサウンドとの深い邂逅で新たな側面を引き出すことはもちろん、これまでの桐原らしい奔放性を削ぐことなく、矢舟とジャズ・トリオとの化学変化を生み出せるのかが注目ポイントとなりそうだ。

 WWWという規模でのトリオ・バンドを従えてのステージは、コロナ禍という制限をいい意味で味方につけ、ファンや演者たちにも充実したものが窺えた。ただ、終盤で自身が述べたように「WWWのステージに立てて嬉しいが、ここからが本当の勝負」というのは紛うことなき現実でもある。自身の成長とともに矢舟がいかなるアプローチを仕掛けていくのか。まずはこの時点で4ヵ月後に迫ったアルバム・リリースへ向け、試行錯誤の日々が訪れそうだ。


◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 PIANO SOLO(Ballade no.2 in F, op.38 by Chopin)
02 INTERMISSION ~ SHORT INTERVIEW VIDEO「昼はOL、夜はアイドル ディープな夜に密着」
~ BAND SECTION ~
03 Surprise you
04 まんぼう3 (*BTTB)
05 まんぼう (*BTTB)
06 湯・湯・湯
07 イタリアン・トラットリア(Original by Tetsuro Yafune)
08 しっぽのブルース(Original by Tetsuro Yafune)
~ SOLO SECTION ~
09 疲れたら休も
10 スイスエアライン (*BTTB)
11 助手席の君
12 でいだらぼっち
13 INTERMISSION ~ SHORT  VIDEO「週刊チャコ 桐原ユリ突撃」
~ BAND SECTION ~
14 甘くしょっぱい恋のうた(NEW SONG)
15 恋愛保険
16 かわいくないのがかわいい (*BTTB)
17 背の高い女の子 (*BTTB)
18 君は虹ガール(include of“Over the Rainbow”/ Original by Tetsuro Yafune)
19 Lady,Girl,Baby (*BTTB)
≪ENCORE≫
20 PIANO SOLO(Piano Sonata No.13 in B-flat major, K.333 by Mozart)
21 人魚(Original by NOKKO)(with BAND)
≪END ROLL≫
22 Lady,Girl,Baby(BAND Inst. Ver.)(with END ROLL and MESSAGE LETTER VIDEO)
23 ENDING~CURTAIN CALL~

(*BTTB):song from album“Back to The BABY”

<MEMBER>
桐原ユリ a.k.a. まんぼう(vo)

矢舟テツロー(p)
鈴木克人(b)
柿澤龍介(ds)


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