*** june typhoon tokyo ***

脇田もなり @Billboard cafe & dining


 仄かな色香と歌への執心に見えた、次への成長と希望。
 
 10月に3rdアルバム『RIGHT HERE』のリリースツアーを盛況のうちに終え、ソロ4年目を駆け抜けている脇田もなりが〈Almost a Lady Live〉と題したライヴを開催。会場となったのは、東京ミッドタウン日比谷にある音楽と心地よい時間へのこだわりをコンセプトとしたカフェ「ビルボードカフェ&ダイニング」。そのフロアはナチュラルなベージュ~アイボリー色による配色で清潔感に溢れ、開放感のある大きな窓が室内を広々と感じさせる。店入り口からフロアへ連なる壁沿いには額装風に名盤レコードが並び、当日はそのなかに脇田もなりの1stアルバム『I am ONLY』も飾られていた。

 このフロアの特徴は通常はカフェレストランゆえ、いわゆるステージがなく床がフラットなこと。“billboard cafe & dining”のロゴが掲げられた木目の壁を背後にして、左からキーボードのKAYO-CHAAAN、ベースの越智俊介、右手前方にトランペットの山田丈造、そのやや右後ろにドラムのUというギターレスの布陣。中央に陣取る脇田は、手を伸ばせば座っている観客に届きそうな距離だ。普段のスタンディングライヴとは異なるスタイリッシュな雰囲気のなか、ミッドウィークながらも多くのファンが詰めかけた本ステージ。ライヴ・タイトルよろしく大人の色香も顔をのぞかせた、脇田もなりの新たな一面に触れられた一夜となった。

 なお、楽曲のトータル・アレンジメントを担当したのは、現在の脇田もなり楽曲の多くをプロデュースし、この日もDJとしてフロアを温めた新井俊也。ライヴ・タイトルの〈Almost a Lady〉とアーバン~サバービアなロケーションにフィットするような、ジャズやボッサを軸とした音の装飾で、アダルトカジュアルなムード作りに一役買っていた。

 

 25歳を来月に控えている脇田が掲げる〈Almost a Lady〉を大胆に意訳するなら、“もうカワイイだけじゃいられない”というところか。カワイイはアイドルと言い換えてもいい。アイドル・シンガーとして走ってきた彼女が、歌を生業とすることを決意し、大人のシンガーとしての一歩を示す……そんな心意気がライヴ・タイトルに見え隠れしている気がするがどうだろうか。

 ギターレスでボトムのベースとシャッフルするドラムが強調される、シンプルながらも輪郭を持ったリズム隊が音を運び、素朴ながらも時に軽やかに、時に味わいをプラスするトランペットと寄り添いながら、アンニュイとクールを往来する声色がたゆたう。だが、序盤は観客とほど近い距離感に慣れないのか、いつもとは異なるリズムを取るのに苦心したのか、やや音に合わせて歌わなければという焦りのようなものも見て取れた。

 落ち着いたテンポによるくるりのカヴァー「ハイウェイ」や「青の夢」あたりになって次第に音に委ねていけるようになると、微笑みを浮かべる朗らかな表情も垣間見えてきた。スウィンギーなジャズ・モードの「Callin' You」でようやくエンジンがかかってきた……と思ったところで、第一部が終了。約20分のインターミッションへ。

 微かに緊張の面持ちでステージインして幕を開けた第二部の冒頭に配されたのは、「この会場の雰囲気が(ライティング含め)夜のドライヴのような感じで合っていると思って」との理由からセレクトした荒井由実「中央フリーウェイ」のカヴァー。「まだ私が生まれていない時に出来た曲なんですが、今聴いても最高だなと思います」と自身が気に入っている楽曲とのことだが、まだそれほど歌い込んでいないこともあるのだろう、モノにしているというところまではもう一つ足らないか。それでも、好きな楽曲を歌っている時の顔は穏やかで満ち足りていて、歌うことの喜びを実感しているよう。また、この環境へ順応してきた様子もあった。

 いつもは伸びやかで楽し気に歌い上げる「IRONY」ではフロアの端の観客へも目くばせするくらいの余裕も出てくると、序盤に散見された力みも取れていき、個人的にこの日の白眉と感じた「FRIEND IN NEED」へ。ファットなボトムが生み出すグルーヴに支えられながら、艶やかな表情で身体を左右に揺らせ、余計な力を排除した甘美な歌唱で観客の視線を釘付けにしていく姿に、彼女が持つ資質の高さを再認識。この手のメランコリックな彩色のR&Bマナーの曲調に彼女自身が適しているということもあろうが、黄昏をイメージするような赤いライティング効果も手伝って、大人のラヴアフェアを背伸び感なく歌える姿がそこにはあった。年齢とともに成長を重ねる歌手としての未来像の一端を覗かせていたのではないか……とまでいったら大袈裟だろうか。


 明るさを持つ原曲をジャジィに落とし込めた「やさしい嘘」や「Just a “Crush for Today”」も悪くはなかった。だが、どちらかといえば、元来派手さを持たない「CUTi-BiL」などの原曲とのテンションの差が少ないアレンジの方が、この日のフィット感は高かった気がする。そういう意味では、第二部本編ラストで披露した「passing by」は、彼女のこの歌への思い入れの強さも重なってか、肌当たりは優しくもしなやかな歌力を備えた、大人の表情を窺わせていた。
 「何か言わないで始めようかな」と曲名を告げずにスタートしたアンコール曲は「TAKE IT LUCKY!!!!」のカフェ・ボッサ風アレンジ・ヴァージョン。本編を終え、慣れと緊張もすっかりほぐれたことがいい方向へ出たか、愛くるしい表情と柔和な笑顔がこぼれるリラックスしたムードのままでのエンディングには、ハッピーなヴァイブスに包まれていた。

 歌手として成長するためのチャレンジの一つが、この〈Almost a Lady Live〉の趣旨だとすれば、大きく二つの意味で途上な要素はあった。一つは技術的な面、もう一つは心理的な面だ。技術的といっても、実は精神面と表裏一体。当初はジャジィでアダルトなアレンジに歌唱を併せようという気負いが感じられたゆえ、どこかぎこちなさを覚えたのも正直なところ。もちろん、それは歌に真摯に向き合うがゆえのことかもしれない。だが、乱暴に言えば、ジャズなどは所詮インプロヴィゼーションによるセッションゆえ、アレンジに添った歌唱をせずとも、バンドはヴォーカルに合わせながらグルーヴを構築してくれるはずだ。技巧より自ら吐露したい感情に寄り添って、自身の思いの丈を声のハリではなく、心情に任せて声の表情を発していけばいい。それが自然と足し算も引き算も可能にする大人の歌唱に繋がっていくはずだ。つまり、上手く歌うことと心に響かせるように歌うことは、近しく見えても相違ということ。多少リズムがズレたとしても、自身が奏でる訴求力が失われなければ、その歌はきっとリスナーの心を捉えるのだから。

 シャレた空間での小粋な音楽。それだけでは何の色気も飛躍もないが、この日最も実感したのは、2ndアルバム『AHEAD!』で標榜した“POP-EYED SOUL”から一歩踏み出そうとしている姿だった。不格好かもしれないが、歌うことへの強い愛情と執着を見せた彼女に、期待は抱けないといったら嘘になる。
 一段上のステージへ上るためのチャレンジとしては好企画といえる〈Almost a Lady Live〉シリーズ。12月29日には同じくビルボードカフェ&ダイニングにてDorianとKAYO-CHAAANを従えての公演が決定しているとのこと。また別の顔も見せてくれそうな次なるチャレンジに注視していきたい。


◇◇◇

<SET LIST>
【1st Section】
01 Thinkin' about U(*R)
02 EST! EST!! EST!!!(*I)
03 風船(*R)
04 PEPPERMINT RAINBOW(*A)
05 ハイウェイ(Original by QURULI)(*R)
06 青の夢(*A)
07 Callin' You(*A)

【2nd Section】
01 中央フリーウェイ(Original by Yumi Arai)
02 IRONY(*I)
03 FRIEND IN NEED(*R)
04 やさしい嘘(*R)
05 CUTi-BiL(*A)
06 Just a “Crush for Today”(*R)
07 passing by(*R)
≪ENCORE≫
08 TAKE IT LUCKY!!!!(*A)

(*I): song from album『I am ONLY』
(*A): song from album『AHEAD!』
(*R): song from album『RIGHT HERE』

<MEMBER>
脇田もなり(vo)

越智俊介(b)
KAYO-CHAAAN(key)
U(ds)
山田丈造(tp)

新井俊也(DJ)


◇◇◇



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