*** june typhoon tokyo ***

INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO


 多国籍音楽ユニオンと体感する享楽のダンス・パーティ。

 ジャン=ポール“ブルーイ”モーニックが率いる結成37年のヴェテラン・ジャズ・ファンク・ユニット、インコグニート。2016年6月にリリースされた17作目のアルバム『イン・サーチ・オブ・ベター・デイズ』を引っ提げてのツアー〈“イン・サーチ・オブ・ベター・デイズ”ツアー 2016〉の一環として、恒例のブルーノート東京公演を開催。所狭しと陣取るメンバーとともに常にファンキーなライヴを提供する彼らのステージに今回も足を運んだ。

 このツアーで大きな変化があったのは、“ファンキー・ジューダス・キーボード・オブ・ザ・ユニヴァース”(宇宙で一番ファンキーなユダヤ人キーボード奏者)ことマット・クーパーが不在だったことだろう。彼のマジカルでミラクルな鍵盤捌きが見られないのはかなりショッキングなことではあるが、替わって帯同したのがトム・オグレイディ。マット・クーパーほど派手に耳目を引くことはないが、そこはやはりブルーイがしっかりと目利きをして選んだ人材だけあって、リズミカルながらも周りの音を削がない(大所帯ユニットにおいて、音同士がぶつからないことは相当重要だと思う)視野の広そうな演奏で、不安要素も抱かせなかった。

 新規メンバーはトロンボーンのスタッフォード・ハンター(アメリカ)もそう。エルトン・ジョンやディオンヌ・ワーウィックと共演経験があり、デューク・エリントン・オーケストラの現メンバーとして活躍するハンターだが、トランペットのシド・ゴウルド(スコットランド)、サックスのアンディ・ロス(アイルランド)のUK周辺の上背のある二人に比べるとやや小ぶりな背丈ながらも、潔くスライドを伸ばして高低幅広い音を鳴らす姿に違和感はなし。
 また、ブルーイだけでなく中央にフランシスコ・サレス(ポルトガル)を据えてテクニカルなギター・サウンドを厚くするなど、さらに進化と成長を試みる姿勢も。

 ヴォーカリストではデボラ・ボンド(アメリカ)も初来日。男性ヴォーカルはトニー・モムレルが再び不在ということで、マイケル・ジャクソン、ルーサー・ヴァンドロス、ドナ・サマーらとのセッション経験を持つクリス・バリン(ジャマイカ)が加わり、そしてメイン・ヴォーカルにはエネルギッシュなハイトーンを駆使するヴァネッサ・ヘインズ(トリニダード・トバゴ)という3名体制。ヴァネッサは「コリブリ」でのスキャットはもちろんのこと、新作アルバムからの「ジャスト・セイ・ナッシング」でもこれまではあまり見せなかった“タメ”やフェイクで、ヴォーカリストとしての才が窺える威風堂々としたパフォーマンスで魅了。メイサをはじめ歴代のインコグニート・メイン・ヴォーカルのなかでも圧倒的なパッション漲るヴォーカル・スタイルが備わってきたのではないだろうか。



 インスト曲「エコーズ・オブ・ユートピア」を終えると、クリスが「レイバー・オブ・ラヴ」、ヴァネッサが「トーキン・ラウド」、デボラが「アイ・シー・ザ・サン」でそれぞれリード・ヴォーカルを執り、三者三様のヴォーカル・ワークで楽しませてくれる。ややくぐもったソウルフルなクリスのヴォーカルはヴェテラン・シンガーならではの旨味成分が凝縮され、大人のダンディズムを感じさせる一方、デボラは表情豊かにオーディエンスを煽るフレンドシップに満ちたスタイルで耳を惹きつけていく。
 そのデボラは「ディープ・ウォーターズ」でもメイン・ヴォーカルを執ったのだが、そこでマイケル・ジャクソン「ザ・レディ・イン・マイ・ライフ」の一節などをサラッと仕込んだフェイクを披露。おそらく、先日(10月5日)死去したことが発表されたロッド・テンパートンを意識したものか。ロッド・テンパートンは「ブギー・ナイト」などで知られるヒートウェイヴのキーボード奏者で、クインシー・ジョーンズに手腕を買われて、クインシーはもちろん、マイケル(「ロック・ウィズ・ユー」「オフ・ザ・ウォール」「スリラー」「ベイビー・ビー・マイン」「ザ・レディ・イン・マイ・ライフ」ほか)、ルーファス(チャカ・カーン)、ジョージ・ベンソン、パティ・オースティン、ドナ・サマー、アレサ・フランクリン、アニタ・ベイカー、マライア・キャリーなどに楽曲提供した人物で、その影響はブルーイも受けていたはず。バンドが「ロック・ウィズ・ユー」を1フレーズ演奏する場面もあったが、それも追悼の意を込めてのものだろう。

 人気曲、代表曲を中心とした定番セットリストが主になるのは致し方ないところもあるが、メンバーが流動的となっても高次元で安定した演奏を繰り広げるのは、ブルーイの統率力とバンド・メンバーの高いスキルとそれらの融合性が高いことに尽きる。スキルの高さはメンバーそれぞれのソロ・パートにおけるパフォーマンスが証明しており、特に中盤から終盤にかけて、フランシス・ヒルトン(ジャマイカ)のベースソロを終えた後に展開されるフランチェスコ・メンドリア(イタリア)とジョアン・カエタノ(マカオ)の二人によるドラム&パーカッションのセンセーショナルな競演は目玉の一つ。カンカンと甲高い音をハイスピードで打ち鳴らすビートの連続波にはオーディエンスも大興奮。そのようなアピール・セクションを配しながらも、バンドとしては何かが飛びぬけて強調されるような音鳴りはさせず、あくまでもバンドがしなやかに調和して心地良いグルーヴを構築していくことを第一義とするところが、この大所帯ヴェテラン・バンドが今もなお現役として新鮮な作品を発しながら多くから評価されているゆえんといえる。

 終盤はブルーイが「トーキョーはいつも素晴らしい、だけど一つ問題がある。みんな座ってるじゃない?(笑)さあ、ダンス・パーティの準備は出来てる? ノッテルカイ!」と観客を煽っての総立ちでのダンス・パーティへ。「アズ」「ドント・ユー・ウォーリー・アバウト・ア・シング」(邦題:「くよくよするなよ」)のスティーヴィー・ワンダー・カヴァーを続けての大団円へ。軽快なギター・カッティングが先導し、各メンバーが奏でる音が集って大きな幹となるインコグニート・サウンド。その一体感と音楽への情熱は、年数を重ねるたびに深い年輪を刻むように成熟し、心身を揺るがす大きなうねりを生み出していった。

 1stステージということもあり、アンコールなしの70分強とやや短い感じもしたが、そのパフォーマンスに“希釈”はなし。グルーヴ果汁100%のファンキーなヴァイブスで、今年もまた東京の街をハッピーに彩ってくれた。


◇◇◇

<SET LIST>
01 Echoes of Utopia (*)
02 Labour of Love
03 Talkin' Loud
04 I See The Sun
05 Living Against The River
06 Just Say Nothing (*)
07 Deep Waters
08 Still A Friend of Mine
09 Colibri
10 Bass SOLO~Drums & Percussions SOLOS SECTION
11 As Long As It's You
12 As(Original by Stevie Wonder)
13 Don't You Worry 'bout A Thing(Original by Stevie Wonder)
14 One Love(BGM & Stage Out)

※ (*): song from album『In Search Of Better Days』

<MEMBER>
Jean-Paul"Bluey" Maunick(g)

Chris Ballin(vo)
Vanessa Haynes(vo)
Deborah Bond(vo)
Tom O'Grady(key)
Francis Hylton(b)
Francesco Mendolia(ds)
Joao Caetano(perc)
Sid Gauld(tp)
Andy Ross(sax)
Stafford Hunter(tb)
Francisco Sales(g)



◇◇◇



















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コメント一覧

野球狂。
Beat UK!
http://blog.goo.ne.jp/jt_tokyo
『Beat UK』、毎週ではないですが、自分もチェックしてました。英ヴァージン・メガストアのチャートを基にしてたこともあって、当時はマルイにあるヴァージンメガストアに行ってチェックしたこともありました。『アジアバグース』とか当時のフジテレビの深夜にはいい音楽番組があったんですけどね……。

UKは日本と同じ島国っていうのもありますし、ジャマイカやアフリカに出自を持つアーティストが結構いますから、どこかマイナー調のうらぶれた感じが良かったりしましたね。グラウンドビートとか特に好きでした~。
Hide Groove
想い出
90年代初頭、深夜に『Beat UK』というイギリスのチャート番組を毎週のように観ていました。
『ベストヒットUSA』では知ることが出来ないイギリスのミュージックシーンを体感出来る番組でした。
その番組からINCOGNITO『CRAZY FOR YOU』が流れてきた瞬間、急いでタイトルをメモしたのを覚えています。
イントロからピアノが泣いていて、淡々としたリズムにsmoothなボーカルが心地よく、シングルCDを渋谷で見つた時は…
『やっとあの曲が毎日聴けるんだ!』
そのまま急いで自宅に帰宅して部屋で聴いたなぁ~

それまでアメリカのブラックミュージックばかり聴いていました。
それまで唯一イギリスのブラック系はLOOSE ENDSが気に入って聴いていました。
LOOSE ENDSにも言える事ですが、アメリカのブラックミュージック界からは、まず出てこないであろう哀愁の旋律漂うこの感じ!😁
アフリカ系というよりはそのルーツはジャマイカ系かな?と予感させるお洒落で、雰囲気を大切にした音の成り立ち。

野球狂。さん、音楽愛に溢れたライヴレポートをいつもありがとう🎵
涼しくなってきましたね。焼き肉が旨い季節ですよ👍
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