原発問題

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『被爆医師のヒロシマ』著者:肥田舜太郎<アメリカによる原爆被害の隠蔽> ※21回目の紹介

2015-09-29 22:11:30 | 【被爆医師のヒロシマ】著者:肥田舜太郎

*『被爆医師のヒロシマ』著者:肥田舜太郎 を複数回に分け紹介します。21回目の紹介

被爆医師のヒロシマ 肥田舜太郎

はじめに

  私は肥田舜太郎という広島で被爆した医師です。28歳のときに広島陸軍病院の軍医をしていて原爆にあいました。その直後から私は被爆者の救援・治療にあた り、戦後もひきつづき被爆者の診療と相談をうけてきた数少ない医者の一人です。いろいろな困難をかかえた被爆者の役に立つようにと今日まですごしていま す。

 私がなぜこういう医師の道を歩いてきたのかをふり返ってみると、医師として説明しようのない被爆者の死に様につぎつぎとぶつかっ た からです。広島や長崎に落とされた原爆が人間に何をしたかという真相は、ほとんど知らされていません。大きな爆弾が落とされて、町がふっとんだ。すごい熱 が放出されて、猛烈な風がふいて、街が壊れて、人は焼かれてつぶされて死んだ。こういう姿は 伝えられているけれども、原爆のはなった放射線が体のなかに入って、それでたくさんの人間がじわじわと殺され、いまでも放射能被害に苦しんでいるというこ と、しかし現在の医学では治療法はまったくないということ、その事実はほとんど知らされていないのです。

 だから私は世界の人たちに核 兵器の恐ろしさを伝えるために活動してきました。死んでいく被爆者たちにぶつかって、そのたびに自分が感じたことをふり返りながら、被爆とか、原爆とか、 核兵器廃絶、原発事故という問題を私がどう考えるようになったかということなどをお伝えしたいと思います。

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**『被爆医師のヒロシマ』著書の紹介

前回の話『被爆医師のヒロシマ』著者:肥田舜太郎<アメリカによる原爆被害の隠蔽> ※20回目の紹介

 2週間後、総司令部から呼び出されました。「資料の公開は不可能である。総司令部で調査の結果、被爆者の調査資料を隠蔽した事実も、学会の研究を禁止した事実もまったくなく、事実無根である。したがって今後、そのような言動はいっさいしないように。万一、そのようなことを話すときは、その責任はお前がとらねばらない」と、慇懃無礼(表面は丁寧で礼儀正しく見えても、実は尊大で無礼なこと)に威嚇されて帰りました。猛烈に腹が立ちました。

 ちょうどそのころは朝鮮戦争が始まる直前で、総司令部が右傾化した時期でした。占領直後、総司令部は日本を民主化するという任務もあって、労働運動や農民組合づくりを応援するなど、リベラルで民主的なメンバーが総司令部にいましたが、朝鮮戦争を始める直前からの日本の占領政策が変わり、日本に芽生えたさまざまな民主的な運動をしめつける方向に大転換したのです。

 ※朝鮮戦争・・・第二次世界大戦の終結後、朝鮮半島は南北に分断された状態でした。1950年6月、武力による南北朝鮮の統一をめざした北朝鮮の軍隊が、南北の境界線になっていた北緯38度線を超えて、韓国に侵攻して始まった戦争。激しい戦闘の末、1953年7月に休戦協定が結ばれました。

 アメリカが落とした爆弾のせいで、たくさんの人がとても人間の死とは言えないような酷い死に方で死にました。それは決して許せないことです。さらに許せないのは、あの地獄のような爆発をくぐりぬけ、なんとか助かっている人が診断もつかず、治療法もわからない病気で苦しんでいるのを、捨ておこうとしていることです。日本の学者が苦労して調べた資料も没収し、研究を禁止した上、日本の医師の協力要請を拒否する。原爆被害に関することはすべて軍事機密としたアメリカの理不尽な傲慢さに、腹の底から憤りが燃えあがりました。

 国立柳井病院で院長から指示されたことをすでにお話ししましたが、アメリカの命令によって、被爆者は広島、長崎で見たり、聞いたり、体験した被害を書くこと、語ることのいっさいが禁止されました。違反を取り締まるため、名前が出た被爆者には私服の警官がつきまとい、労働組合にいた被爆者には米軍の憲兵が監視につきました。これは占領が終わったあとも日本政府によって引き継がれ、被爆者の監視が長く続いたのです。

 これによって被爆者を差別する風潮が広がり、被爆者の多くは孤立して生きざるをえない状況におちいります。警察に監視されるような危険人物には近寄らないほうが安全という保身と、被爆者から病気が移るという噂にまどわされた無知からの差別でした。

 被爆者は自分の被爆事実を隠しました。被爆したことが知られると、就職、結婚することが困難になるからです。こうした差別は2世、3世の世代まで続いています。

 この意味で、アメリカが戦略上、原爆の医学的被害を長期にわたって隠蔽した罪はこよなく大きいと思います。

「9 アメリカによる原爆被害の隠蔽」は、今回で終わり、次回は「10 孤立無援の被爆者たち」)

続き『被爆医師のヒロシマ』は、9/30(水)22:00に投稿予定です。

 

被爆医師のヒロシマ―21世紀を生きる君たちに


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