書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

トメ・ピレス著 生田滋ほか訳注 『東方諸国記』

2014年08月20日 | 地域研究
 原題は "Suma Oriental que trata do Mar Roxo até aos Chins" .
 著者Tomé PiresについてWikipediaの記述

 第四部のシナ条に、首都をカンバラと呼んでいる。これはカンバリクの対音で(234頁加藤栄一注)、ピレスがこのくだりを書いた1511もしくは12年から15年までの間のマラッカおよびインドでは、中国でいえば明も半ばを過ぎているというのに、いまだに前の元代の名で呼ばれていたらしい。もっともペキンの名も見える。しかしビレスはこの二つを別の都市だと思って、そのようにしるしている。しかし明という王朝のある種本質を突いているかのようでもあって興味深い。
 なおシナ条では、明に臣従する国王の国と単なる友好または通商関係にあるだけの国王の国とを厳密に分けており、極めて正確に当時の中国と周辺諸国との所謂朝貢関係を叙述している。前者ではチャンパ、ベトナム、琉球Lequeos/Lequios、日本Jampon/Jampomの四者を挙げ、後者ではいくつかの東南アジア諸国を個別具体的に数え上げているのも、筆者が拠った情報の精確さを裏付けている。ところがその情報と分析の精密さにもかかわらず、前者には朝鮮の名が抜けている。さらには朝鮮は『東方諸国記』全体を通じその存在に関して言及がいっさいない。ちょっと不思議である。

(生田滋ほか訳注、岩波書店 1966年10月)