Sea side memory (9)

2006-11-09 | 自作小説:Sea side memory
防波堤の階段を登ると、眼前に海が現れた。腕時計で時間を確かめた。
2時には、まだ、時間があった。
僕は、波打ち際まで近づくと、その場に腰を降ろした。
波はいつも変わらずだな、と思った。
飽きることはないのだろうか。あの日と変わっていない。
あの日も、ここに座って、二人で海を眺めていた。

 -やっぱり夏はいいな。
 -また、青春? でも、まだ、初夏だよ。
 -初夏でも、海は、燃え上がる若さの象徴だよ。ちょっと、キザかな?
 -かもね。わりと、変わってるよね。
 -そうかもしれない。イメージってものを大切にする主義だから。
  ひとりでいるときも、かっこつけたりするんだよ。
 -私も、そうかもしれない、、、、
 -どんな風に?かっこつけてるの?
 -うまく言えないけど、、、、そんな感じがする。
 -俺も、ホシはかっこつけすぎだと思うよ。
 -かもしれないわね。

君は、少し悲しげに海を見ていた。
 -俺とじゃ、あまり楽しくない?
 -そんなことないよ。
 -次は、泳ぎに来ないか?
 -それはいや。
あまりにもキッパリ言われて、僕は黙り込むしかなかった。
 -ごめんなさい。別に、あなたが、どうのってわけじゃないの。
 -気にしてないよ。
 -本当?
 -ああ、気にしてない。
 -ごめんなさい。
君は、本当にすまなそうに言って、立ち上がると、海に向かって歩いて行った。
波が君の足元をかすかに濡らした。
なぜか、君が泣いているような気がした。
そして、その涙を絶対に僕には見られたくないと思っていると感じた。
僕は、君の背中を見つめ、振り向くのを待つことにした。
どれくらい経っただろう、振り向いた君は、また、僕の隣に座り、笑顔で言った。
 -海っていいわね。
  あなたの言ってたことが少しわかった気がする。
僕は思わず、君を抱きしめた。抱きしめた瞬間に、まずいことをしたと後悔した。
しかし、君に嫌がる気配はなかった。静かに抱きしめた手を離し、君の瞳を見た。
そして、謝ろうとする僕を制するように、優しげな口調で、
 -ありがとう。
と言った。
 -怒られるかと思ったよ。
 -怒られたいの?
 -怒られたくはないけど、”ありがとう”は意外だった。
 -そうね。私も不思議な感じ。
  でも、あなたの腕は、やさしかった。いままでの誰よりも。


                        つづく

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