新宮市立城南中学校

城南中学校の学校生活の一端をご紹介します

声ヲ聞カセテ

2008-10-21 14:54:20 | Weblog
 NHKに「手話ニュース845」という番組があるそうですが、ここでキャスターを務めておられた丸山浩路さんという方をご存じでしょうか。心理セラピスト・カウンセラー・手話通訳者として活躍されたことをもとに、現在では日本全国あちらこちらに講演してまわられているのだそうですが、その丸山さんの『本気で生きよう!何かが変わる』という本に出会いました。丸山さんが出合った数々の実話がたくさん収められているのですが、その一番はじめにこんなお話しが載っていました。長くなるので、かいつまんで紹介させてもらいます。

 ある高校の入学式の後、自分の教室に入った山田太郎たち新入生に担任の五井先生が出席簿の名前を呼んでいく。青木くん、伊藤さん・・・と続いて名前を読み上げていく五井先生は「山田太郎」という彼の名前のところでは名字で呼ばず「太郎!」と呼んだ。自分だけ名字でなく名前を呼び捨てされた太郎は先生に反感を持つが、一学期が過ぎ二学期になっても五井先生は「太郎!」と呼び続ける。
 三学期に入った頃、五井先生が入院してしまう。そして太郎は五井先生から直々に病院に呼び出される。病室に入ると、腕に何本も管をつけてベッドに横たわった五井先生が、名前を呼び捨てにした理由を息も絶え絶えに教えてくれる。

 太郎の両親は共に言語と聴覚に障害があり、聞こえませんでした。話せませんでした。ある日の放課後、太郎と大喧嘩をして劣勢になったクラスの友達が、そのことをからかう。
「おめぇんちの父ちゃん母ちゃん、耳聞こえねえんだろ。運動会で変な声を出してサルみてぇに手で踊って話してやんの。おめぇ、一度も名前呼ばれたことねぇんだろ。これからもずっと名前呼ばれねぇんだぞ・・・」と。
 太郎はハッと息をのみ、拳を振り上げたまま動かなくなりました。ボロボロ涙を流し、無我夢中で家に向かいました。目を真っ赤に泣きはらす息子に驚いて立ち上がった父親に太郎はむしゃぶりつきます。そして、泣き叫びながら、父親に向かって手話を始めたのです。

「ぼくの 名前 呼んで! 親なら 子供の 名前を 呼ぶのは 当たり前 なんだぞ。
この前 運動会が あったよね。 走ってるとき みんな 転んだだろ。転んだとき みんなは 父さんや 母さんに 名前を 呼ばれて 応援 されたんだぞ! ぼくだって 転んだんだ・・・ でも ぼくの 名前は 聞こえて こなかったぞ・・・。
 父さん、名前 呼んでよ。 一度で いいから ぼくの 名前 呼んで・・・。 名前を 呼べないんなら ぼくなんか ぼくなんか 生まれなければ よかったんだよぉー!」

 父にしがみつき、その体を揺さぶりながら、太郎は声を上げて泣きました。じっと目を閉じていた父親は、力いっぱい息子を抱きしめ、やがて静かに体を引き離しました。そして、無言の中にも力強い息づかいを感じさせる手話で、太郎に語り始めました。

「私ハ 耳ガ 聞コエナイ コトヲ 恥ズカシイト 思ッテ イナイ。神ガ 与エタ 運命ダ。名前ガ 呼バレナイカラ 寂シイ? 母サンモ 以前 ソウダッタ。
 キミガ 生マレタ トキ 私タチハ 本当ニ シアワセダト 思ッタ。五体満足デ 声ヲダシテ 泣クコトヲ 知ッタトキ 本当ニ ウレシカッタ。君ハ 体ヲ フルワセテ 泣イテイタ。ナンドモ ナンドモ ヨク泣イタ。
 シカシ ソノ泣キ声ハ 私タチニハ 聞コエナカッタ。母サンハ 一度デ イイカラ キミノ泣キ声ガ 聞キタイト キミノ 唇ニ  聞コエナイ 耳ヲ 押シ当テタ。
(ワガ子ノ 声ガ 聞キタイ! コノ子ノ 声ヲ 聞カセテ!)
ト ナンド 願ッタ コトカ。シカシ 母サンハ 悲シソウナ 顔ヲシテ 首ヲ 左右ニ 振ルダケダッタ。
 私ニハ 聞コエナイガ オソラク 母サンハ 声ヲ アゲテ 泣イテイタト 思ウ」


 太郎は初めて父親の涙を見ました。父の心の底からほとばしり出るような手話を、まばたきもせずに見つめました。

 「デモ 今ハ 違ウ。私モ 母サンモ 耳ノ聞コエナイ 人間トシテ 最高ノ 生キ方ヲ シテイコウト 約束シテイル。
 キミモ ソウシテ 欲シイ! 耳ノ 聞コエナイ 両親カラ 生マレタ 子ドモ トシテ・・・ソウシテクレ。コレハ 私ト 母サン 二人ノ 願イデス」


 このことを太郎は作文に書きました。実は五井先生の子供は太郎の小学校の同期生で、子供が持ち帰った卒業文集の太郎のこの作文を読んでいたのです。数年後、その太郎の担任になると知った五井先生は「こんな時、お前のお父さんだったらどう呼ぶかな。」と考えながら「太郎、たろう、タロー」と呼び続けてきたと言うのです。
 「理由も話さず・・・悪かったな・・・太郎」と話し、太郎の手を握った五井先生でしたが、それから四日間も意識不明の状態が続いたあと、亡くなりました。



 この話を読んで、涙が止まりませんでした。どうしても皆さんにも紹介したくなり、こうしてキーボードをたたいていますが、今もやっぱり涙があふれて止まりません。

 この本には、他にもたくさんの素晴らしいエピソードがまだまだ載っています。
 読んでみる価値ありだと思います。超お薦めです!

本気で生きよう!なにかが変わる
丸山 浩路
大和書房

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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2008-11-06 21:11:36
いいお話しありがとうございます。

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