今日は祝日『山の日』です。…とは言うものの、個人的にはそんなに山に思い入れも無いため、さぁこの暑い中で登山をしよう!とかいう感慨は全く浮かびませんでした。
だからといって、またしてもだらけた一日を過ごすのも何なので、今日という日がどんな日なのかを調べてみました。すると、音楽的にとっても大切な日であることが分かったのです。
実は8月10日は、モーツァルトの最後の交響曲である第41番《ジュピター》が完成した日でした。
上の写真はベーレンライター原典版の《ジュピター》のスコアですが、楽譜の右上に
『1788年8月10日』
の記述があります。今から232年前の正に今日、人類の至宝とも言うべきこの大作が誕生したのです。
交響曲第41番《ジュピター》は、同年6月26日に完成した第39番、7月25日に完成した第40番と共にモーツァルトの後期3大交響曲と呼ばれています。これだけ大規模な作品群でありながらこれら3曲の作曲の経緯や初演の日付は不明ですが、少なくともモーツァルトの存命中には演奏されていたと見られています。
因みに、本作のスケールの大きさや輝かしい荘厳さを表すかのようなこの《ジュピター》というニックネームはモーツァルト自身が付けたものではありません。一説には、ハイドンをロンドンに招聘した音楽興行師ヨハン・ペーター・ザロモン(1745〜1815)が名付け親とも言われていますが、この壮大な音楽にローマ神話の最高神の名前を持ってくるあたり、なかなかのセンスの持ち主です。
力強いハ長調の主音の連打から始まり、これでもかという程の華やかな旋律を紡ぎ出しながら、どこかオペラ・ブッファのようなコケティッシュな音型も絡み合う第1楽章、弱音器を付けた弦楽器によって優しい旋律を紡ぎながら、各所に暗い短調の影が匂う第2楽章、緩やかに下降する半音階が特徴的な優美な第3楽章、「ドーレーファーミー」という『ジュピター音型』と名付けられた主題を筆頭に、実に4種類もの音型が複雑に絡み合ってフーガを展開する第4楽章と何処を取っても密度の濃い音楽が展開されるこの作品は、正にモーツァルトの交響曲の集大成と言っても過言では無いでしょう。そんな大作を、他の2曲の完成日から1ヶ月も経たない間に作り上げてしまったモーツァルトの頭の中は、一体どうなっていたのでしょうか?
どの楽章も聴き所満載なのですが、特に第4楽章のフーガは圧巻です。モーツァルトを崇敬していたリヒャルト・シュトラウス(1864〜1949)は友人に宛てた手紙の中で、
「(ジュピター交響曲は)私が聴いた音楽の中で最も偉大なものである。終曲のフーガを聴いた時、私は天国にいるかの思いがした。」
と称賛し、1926年には自身の指揮で録音も行っていますが、その表現は実に的を射ていると思います。
ということで、今日はその交響曲第41番ハ長調《ジュピター》をお楽しみ頂きたいと思います。ジョン・エリオット・ガーディナー指揮、イングリッシュ・バロック・ソロイスツの演奏でどうぞ。