共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

今日はシューベルト《未完成》初演の日〜トレヴァー・ピノック指揮による交響曲第7番《未完成》

2021年12月17日 18時40分50秒 | 音楽
今日は朝から冷たい雨の降る、生憎のお天気で明けました。特に関東地方では通勤時間帯に雨のピークとなり、小学校に着くまでにだいぶズボンの裾が濡れてしまいました。

ところで今日12月17日は、シューベルトの名作である交響曲第7番ロ短調、俗に言う《未完成》交響曲が初演された日です。



シューベルトは25歳の時にグラーツ楽友協会から「名誉ディプロマ」を授与されました。この授与に対してシューベルトは返礼として交響曲を作曲することにしましたが、実際にシューベルトが送付したのは何故か第1楽章と第2楽章の楽譜だけで、残りの楽章は送付しなかったと言われています。

そのままシューベルトは何故か別の交響曲ハ長調、俗に言う《グレート》を作曲し始めてしまい、遂にロ短調交響曲を完成させることなく逝去してしまいました。その後、没後数十年を経てシューベルトの名声が確実なものとなってから、残された2つの楽章分のみが出版されることになりました。

通常の交響曲はアレグロ・ソナタ〜緩徐楽章〜スケルツォ〜フィナーレ という4つの楽章から構成される形式です。シューベルトも当初はそのようなものを構想してこの交響曲の制作を進めていったのであろうと考えられますが、実際にはシューベルトは第2楽章まで完成させ、第3楽章のスケルツォは



始めの20小節までをオーケストレーションしたもののその後からピアノ譜のスケッチになり、110小節ほど書いたところで作曲そのものを中止してしまっています。

なぜ第2楽章までで作曲を中止してしまったのか…これには、さまざまな説があります。例えば

●第1楽章を4分の3拍子、第2楽章を8分の3拍子で書いた後に第3楽章も4分の3拍子になって、三拍子だらけになってしまったことに気づいたから。

●第2楽章が完成した段階で作曲家自身がそのままでも十分に芸術的であると判断し、それ以上の付け足しは蛇足に過ぎないと考えたから。

●実はこの交響曲はちゃんと完成していたものの、劇付随音楽《ロザムンデ》に音楽を転用するためにシューベルトがグラーツ楽友協会に第3・第4楽章の楽譜の返還を求め、結果として楽譜が散逸してしまったから。

という説がありますが、どれも憶測の域を出るものではありません。ただ、実はシューベルトはこのように作品を完成させないまま放棄するということをしょっちゅうやらかしているので、この交響曲が未完成であることは曲の成立に関してそれほど本質的な意味はない…とする説もあります。

初演は1865年12月17日に、ウィーンで行われました。初演された当時にはシューベルトは既に「大家」の扱いをされていて、この曲が未完成であることの理由について初演後から多くの推察が行われましたが、決定的な証拠は遺されずに今日に至っています。

重々しい低温から始まって焦燥感に駆られるような弦楽合奏の上に美しい歌を紡いでいく第1楽章、ホ長調の暖かな響きの中に、この上なく甘美で切ない音楽が流れていく第2楽章…。個人的な意見としては、もしかしたらシューベルトはこれで十分に完成されていると判断したのではないかと思っています。

そんなわけで、今日はその交響曲第7番《未完成》を、チェンバロ奏者でもあるトレヴァー・ピノック指揮によるヨーロッパ室内管弦楽団の演奏でお聴きいただきたいと思います。古楽奏者ならではのアプローチや、ナチュラルトランペットをとり入れたアンサンブルをお楽しみください。


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