共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

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2012年03月06日 16時55分54秒 | 日記
昨日の画像を御覧になった方から「バラの象嵌って言われても、遠過ぎて何だかわかりません」という御指摘を受けましたので、アップで撮ってみました。見えますでしょうか?

螺鈿(らでん)細工は、日本では特に仏教関連の建築や工芸品に使われる、南洋産の夜光貝やアワビの貝殻の裏側の光沢の美しい部分を、目的の柄や模様に切り取って木製品に嵌め込み、磨きあげて浮き立たせていくという技巧です。国内の、特に仏教建築に使われた大規模なものとしては、奈良・當麻寺(たいまでら)本堂の當麻曼陀羅厨子、京都・宇治の平等院鳳凰堂内陣(ないじん)、岩手・平泉の中尊寺金色堂内陣が日本三大螺鈿として挙げられています。

また、奈良・東大寺の正倉院に御物として納められた聖武天皇や光明皇后の遺愛の品にも螺鈿が使われたものが多く遺されていて、仏具は言うに及ばず日用品や楽器、碁盤や双六盤等の娯楽用品にまで、様々なものに施されています。特に、現存する五弦のものとしては世界に一つしかない《螺鈿紫檀五弦琵琶(らでんしたんのごげんびわ)》の裏面のものは見事で、仏界に咲くと言われる宝相華(ほうそうげ)等の模様を、紅瑪瑙(あかめのう)と螺鈿で描き出している一級品です(この五弦琵琶は日本史の教科書の奈良時代の項に写真が載せられていることの多いものですから、御覧になれば分かって頂ける方も多いのではないでしょうか)。

また、楽器に使われた例は海外にもあります。昨今有名になりつつあるものの一つにノルウェーで使われている《ハルダンゲルヴァイオリン》という、共鳴弦を持った民族楽器のヴァイオリンがあります。このヴァイオリンには楽器本体の縁取りや指板は基より、果ては糸巻ペグに至る細部にまで、楽器全体のかなりの部分に螺鈿や木象嵌が施された、見た目にも大変華やかなものです。

大分話が逸れましたが、このテールピースには螺鈿でバラの花と葉が描かれていて、写真でちゃんと写っているといいのですが、螺鈿部分には毛彫りでバラの花びらと葉脈が彫られています。光を受けると螺鈿独特の、控え目ながらも虹色に輝く美しい光沢が目を引きます。茎の部分には金線が嵌め込まれていて、螺鈿とはまた違った輝きを放ちます。

最近はこういうものだけでなく、花や人物の浮き彫りを施したものやスワロフスキーのラインストーンがついたものまで、様々な装飾テールピースがあります。さすがに、響きに直接関わる本体に、支障のない範囲でとは言え装飾を施すのにはある程度限界がありますが、こういう末端のパーツでは、悪趣味にならない範囲で小さなお洒落をしてみるのも楽しいものです。
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