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<米朝会談>連絡事務所設置などが目玉か、「急がない」遠のいた非核化実現

2019-02-25 01:57:03 | 朝鮮半島有事・非核・南北朝鮮

連絡事務所設置などが目玉か、「急がない」遠のいた非核化実現

2019年2月23日    WEDGEInfinity  樫山幸夫 (産經新聞元論説委員長)

 懸念が現実になりつつある。トランプ米大統領が北朝鮮の非核化について、「急がない」との考えを

明らかにした。米朝首脳会談の第2ラウンドまで一週間足らず。この時期に消極的な〝本音〟を明らかに

したとなると、会談の結果に悲観的にならざるを得ない。核問題での進展がないことを糊塗、成功を

印象づける手立てとして、連絡事務所の相互設置を共同声明の〝目玉〟とするという観測もなされている。
 

 トランプ大統領の2月19日の発言は、「平壌がミサイル発射、核実験を行わない限り、非核化を

急ぐつもりはない」というもの。大統領はその一方で、「多くのメディアは、急げ、急げというが、

会談を行うのだから結果を見よう。最終的にわれわれは成功すると思う」と述べ、決着への自信ものぞかせた。


〝政治ショー〟大きな進展おぼつかなし

 このトランプ発言について、昨年6月の第一回会談後、ポンペオ国務長官が訪朝、実務者協議も行われて

いるにもかかわらず、双方の主張の隔たりが埋まっていないためとの見方がなされている。今度の会談で

非核化の実現はおろか、そのメドを立てることすらおぼつかないため、事前に〝予防線〟を張っておこうと

いうのが大統領発言の意図のようだ。


 急がないのなら、決着の可能性が少ない会談など行う必要はなかろうが、トランプ大統領、北朝鮮の

金正恩朝鮮労働党委員長いずれも、派手な〝政治ショー〟を必要としている。


 〝ロシア・ゲート事件〟をめぐる特別検察官の捜査終了表明が来週にもなされる見通しであることや、

不法移民阻止のためのメキシコ国境での壁建設問題をめぐる民主党と対立などトランプ大統領は苦しい

政権運営を強いられている。国民の関心を内政から外交に逸らすことをもくろんだとしても不思議はない。


 金正恩にしても、世界注視の中で、超大国の大統領と対等に話し合い、主要な国際的プレーヤーとしての

地位を築いたのだから、会談を継続、それを維持していかなければならない。それが〝金王朝〟の体制に

正統性を与える有力な材料になり得る。


成功印象づける「連絡事務所」

 両首脳にとって、結果は二の次としても、双方の国民、世界の注目を再び集めるのだから、少なくとも

昨年6月の会談より進展した印象を与えなければならない。


 連絡事務所の設置で合意できれば、十分にその目的を達することができる。連絡事務所は、外交関係を

もっていない2つの国が国交樹立を前提に双方の首都に設置する機関。実質的に大使館の機能を担う。


 1972年にニクソン米大統領が中国を訪問した際、米中両国で設置が合意された。昨年死去したブッシュ

元大統領(父)は北京での米国事務所長をつとめた。


 連絡事務所は、核、ミサイルの廃棄に直接つながるものではないにしても、少なくとも両国の関係が

良好との印象を与え、核廃棄交渉妥結への期待を高める効果をもたらすだろう。
 

 米朝間では以前にも連絡事務所の相互設置が決まったことがある。1994年の枠組み合意だ。

北朝鮮の核開発を中止させる米国の最初の試みだったこの合意は、北朝鮮が核兵器に転用しやすい

黒鉛減速炉の稼働を中止し、その見返りとして米国などは軽水炉を供与する内容。連絡事務所は合意文の

「関係正常化に向けての行動」に盛り込まれ、「両国の関心事項で関係が進めば大使級に進展させる」

となっていた。


 この時、北朝鮮はワシントン市内の一等地の場所を求めたが、財政が苦しい状況で適当な物件が

見つからず実現を見なかった。米の情報機関がホワイトハウスや議会近くに北朝鮮の出先が

設置されることを嫌ったともいわれている。


 そんなことだから、今回も仮に設置で合意したとしても立ち消えになってしまう可能性がある。

むしろそれだから、演出材料としては適当ともいえる。

 

日本への脅威など気にせず?

 そもそも理解できないのは、トランプ大統領が「核実験、ミサイル実験が停止されていること」を

「急がない」理由にしていることだ。大統領は、米国に到達する大陸間弾道弾(ICBM)さえ阻止できれば

十分と考えているといわれる。「アメリカ・ファースト」を標榜する大統領なら十分あり得る。


 その場合、すでに開発が終わっているノドンなど日本に到達する中短距離のミサイルは温存され、

日本や周辺への脅威は除去されずに残る。
 

 核について金正恩はことしの「新年の辞」で「われわれは核兵器を作ることも実験することも、

使うことも伝播することもしない」と〝非核化〟への決意を示した。気がつくのは、すでに製造・保有

している核の廃棄については言及していないことだ。


 米国のコーツ国家情報長官は1月29日の議会公聴会で、昨年6月の首脳会談で金正恩が非核化を

約束したにもかかわらず、「(約束と)不整合な動きがある」と核開発の動きが続いていることを示唆。

「大量破壊兵器の能力を維持しようとしている」との分析を示した。トランプ大統領の側近、ボルトン

補佐官(国家安全保障問題担当)は、北朝鮮が約束を守っていないから、トランプ大統領が2回目の

会談をするのだーと、大統領が直談判するかのような説明をしているが、「急ぐ必要がない」と

いっている人に、核廃棄を強く迫るなどということは期待できないだろう。


 今回の首脳会談で、トランプ大統領が不必要な譲歩、不用意な約束をするのではないかと

懸念されているが、警戒すべきことは、すでに述べたように、あらたな核兵器の開発、中短距離サイルの

開発の中止を求めても、すでに製造、保有している核、ミサイルについては、温存を容認することだろう。


 もうひとつは制裁の緩和、解除だ。トランプ大統領は「急がない」発言の翌日の20日、

オーストリアのクルツ首相との会談前、記者団に、「私は制裁の解除をしたことはない」と強調。

「先方が意味あることをしなければならない」と条件をつけながら、「解除できればと思っている」と

本音をもらした。会談で北朝鮮側のわずかな前向きの姿勢をみて、米国が解除に踏み切る可能性も

でてきたといっていいが、そうなれば、韓国、中国、ロシアがなだれを打って同調するだろう。

ハシゴを外された格好になる日本は、そのときどうするか。
 

 安倍首相は2月20日夜、トランプ大統領と電話協議、ハノイ会談に向けて意見交換した。首相が

拉致問題を提起するよう要請したのは当然としても、「急がない」発言、中短距離ミサイル、保有する

核の処分に関して、どのように日本側の懸念を伝えたのか。トランプ大統領は20日の記者団との

やりとりで、

 「安倍首相と(電話で)意見交換した。彼とは波長があう」と首相との相性のよさを強調して見せたが、

電話協議の内容についての説明は避けた。

 

 大統領が安易な妥協にでるという形で米朝首脳会談2Rが終わったなら、全く意味のない会談に

終わってしまう。そうなれば、トランプ氏に対するノーベル平和賞を推薦した安倍首相も面目を失う

ことになってしまうだろう。