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東京国立博物館の『顔真卿展』に激怒する現代の紅衛兵 / 中国の著名書家「顔真卿」の日本展が中国で炎上している理由

2019-02-04 17:18:24 | 文化・皇室王室関連・宗教など

東京国立博物館の『顔真卿展』に激怒する現代の紅衛兵

2019年02月01日(金)18時50分  Newsweek  ラージャオ(中国人風刺漫画家)/唐辛子(コラムニスト)


<台湾の故宮博物院が中国の書家、顔真卿の文稿を東京国立博物館に貸し出したことに、中国の

ネットユーザーは大炎上したが......>


東京国立博物館が1月16日から書の特別展『顔真卿――王羲之を超えた名筆』を始めた。

顔真卿(がん・しんけい)は中国・唐代の政治家・書家で、書聖と言われた王羲之(おう・ぎし)と並び、

中国人に最も尊敬されている。特に今回、日本で初公開された肉筆「祭姪文稿(さいてつぶんこう)」は、

「天下第二行書」と呼ばれる中華圏屈指の名書だ。


ところがこの「祭姪文稿」の日本初公開をめぐり、中華圏で大騒ぎが起きた。まず、台湾人司会者が

台北故宮博物院が至宝として収蔵するこの文稿を日本に貸し出すことについて、破損が懸念されるとの

理由でテレビ番組の中で批判した。この言葉はすぐに大陸の官製メディア「環球時報」に利用された。


「台北故宮博物院が日本にこびを売るため、こっそり国宝の祭姪文稿を日本に貸し出した! 

中華民族の気骨を代表する文稿を日本に貸し出すなんて全く無節操な振る舞いだ。しかもわれわれの

記者の取材によると、日本側はこの大切なわが国宝に対して、なんの特別保護もしていないし、

誰でも勝手に写真を撮ってもいい」――というあおり記事だ。


この記事はたちまち中国のSNS上で広がり炎上した。

「中国人でも見られないものをなぜ日本で展示するのか」

「民族の気骨がないのか? 日本人に貸し出すなんてけしからん」。

真相を知らないネットユーザーは腹を立て、批判が殺到した。


しかし、この怒りは特別展が開幕すると徐々に収まった。現場を訪ねた中国人たちが展覧会の本当の

様子を自らの目で確認し、SNS上で発信したからだ。

「祭姪文稿はきちんと特別展示室に保護されている」「撮影はもちろん禁止」。

中には「世界最高レベルの書道展だ! 素晴らしかった!」という声もあった。

確かにこの千年を超えた名書は中国人だけでなく全人類の歴史遺産だ。今回の特別展は、中国の伝統文化を

世界に披露する絶好のチャンスでもある。


しかし中国人は共産党政権の中国が成立して以来、文化大革命などで数え切れないほど文化破壊を

起こしてきた。この「祭姪文稿」がもし中国に保存されていたら、今も見られるかどうか疑問だ。

偽ニュースで簡単にあおられる今回の様子を見れば、なぜ中国で文化破壊が起きたのかよく分かる。


【ポイント】
祭姪文稿

顔真卿が戦乱で非業の死を遂げた姪を追悼するために書いた弔文の原稿。国家に忠義を尽くした顔真卿の悲痛と義憤に満ちた、情感あふれる作品とされる。

台北故宮博物院
正式名称は国立故宮博物院。国共内戦で形勢が不利になった国民党軍が、48年から49年にかけて大陸から運んだ第一級の所蔵品を展示。北京にも故宮博物院がある。

<Newsweek 2019年02月05日号掲載>

 

 

中国の著名書家「顔真卿」の日本展が中国で炎上している理由

2019.2.4  DIAMOND Online  

1月16日~2月24日、東京国立博物館で特別展『顔真卿ー王羲之を超えた名筆』が開催されている。

中国唐の書家、顔真卿(がんしんけい)の「祭姪文稿(さいてつぶんこう)」をはじめ、王羲之、欧陽詢、

懐素、空海らの作品が一堂に会する展示会だ。日本ではそれほど大きな話題にはなっていないが、

この展示会については当初、中国だけでなく、台湾からも批判と怒りの声が噴出した。

中国と台湾では、大手マスコミをはじめ各メディアが大きく取り上げ、SNSでは賛否の声で炎上状態と

なっている。なぜ、これほど話題となっているのか。(日中福祉プランニング代表 王青)

 

日本での「祭姪文稿」展示に対しSNSにあふれる批判と怒りの声

「ショックだ!なぜ日本へ?理解できず、死にそう…」

「悲しい!涙をこらえられない…」

「見られないのが悔しい極み」

「事の重大さは、知っているのか?」

「台湾政府は十分な議論をしないまま、国宝を海外へ持ち出す行為は極めて軽率だ」

「日本は以前兵馬俑展示の際、一騎の兵馬俑を破損した前科があるから、今回こそ大事に大事に扱ってほしい!」

 などさまざまな声がSNSであふれかえっている。

 特に議論の的になっているが、中国史上で屈指の名書といわれる「祭姪文稿(さいてつぶんこう)だ。

中国人にとっては特別な存在

 なぜ、この作品に多くの中国人がこだわるのか。それだけこの作品は特別な存在なのである。

「祭姪文稿」は顔真卿が758年に、当時「安史の乱」で非業の死を遂げた顔一族を哀悼するために、

怒りや悲しみを込めて一気に書き上げた書であると知られている。中国の書の歴史の中でも屈指の

名作とされ、当時の歴史資料としても、とても貴重なものである。


 顔一族約30人が、1人も敵軍に屈さず、全員が残酷極まりない方法で処刑されたと伝えられ、顔真卿も

単なる書道家ではなく、国のために命をささげた烈士とされる。

 ゆえに、この作品には特別な思いが込められていて、最高峰の文物と認識されている。幾度の戦火を

くぐり抜けて、歴代の皇帝に至宝として所蔵されてきた。1948年頃に国民党が大陸から台湾へ撤退した時に、

北京故宮博物館から運び出したおびただしい数の所蔵品と一緒に台湾に渡り、現在、台北の国立故宮博物院に

所蔵されている。


「台北国立故宮博物院」に所蔵されているコレクションは、大陸から持ち出した文物を合わせて、

約69万点がある。数ヵ月間、入れ替わりで展示しても10年間がかかるとされる。常時展示されている

「翠玉白菜」や、豚の角煮「肉形石」などは世界的に有名だ。

翠玉白菜

肉形石

 ゆえに、長い間、中国大陸の「北京故宮博物館(紫禁城)」と台湾の「台北国立博物院」が

比較される際には、一般に「北京のほうがスケールは大きいが、中身は大したことがない。むしろ、

台湾のほうが価値の高い所蔵品が圧倒的に多い」といわれている。

ちまたでは、「台北には文物があり故宮がない、北京には故宮はあり文物がない」といわれるゆえんである。

実際のところはどうなのか、専門家の意見も分かれているようである。


 今回、日本で展示される顔真卿の「祭姪文稿」は、「1400年前の紙、1回の展示につき1回の劣化を被る」

という破損が懸念されるため、これまでめったに展示は行われず、台湾でも最後に展示されたのは

10年以上前である。国外では1997年に米ワシントン・ナショナル・ギャラリーで展示されたのが最後

だったそうだ。

 だからこそ、今回は中国大陸でも台湾でもなく、日本で公開されることが物議を醸しているのである。

鑑賞したくても一部の人しか来日できない

 批判の声がある一方で、

「鑑賞したい!すぐ日本へ飛んでいきます!」、

「このチャンスを逃してはいけない、どんなことをしても見たい!」、

「こんな宝物にお目にかかれば死んでも惜しくない、一生満足だ!」

などの声も多い。


 実際、公開前から日本在住の筆者にも中国の友人から多数の問い合わせが来て、

「チケットの予約をしてくれますか?」、

「前売り券を買っといて、近日中に行きますから」

などと対応に追われた。公開前日に来日し、初日に入場した友人もいる。その人の話では、入場者の

半分は中国人だったという。中国の各マスコミの特派記者たちも早速、展示会の記事を書いており、

報道されている。


 このように、自国で見られなくて、わざわざ海を渡って日本に鑑賞に来る一部の人に対して、

大多数の中国人が悔しい思いを噛みしめており、真跡に一目も触れられないのが現状なのである。


 もっとも、多くの人は書道家でも歴史家でもなく、恐らく書のこともあまり詳しくは知らない。

それでも、顔真卿の書、特に「祭姪文稿」には、ある種の「憧れ」があり、その神髄に触れたいという

ことだろう。

 しかし、それを鑑賞するための来日は決して容易なことではない。

 渡航費などの費用がかかるほか、入国ビザが必要であるため申請手続きなどの手間もかかる。

直ちに来られる人はやはりマルチビザを持つ一定の経済力のある人や、日本と仕事の関係がある人たちだ。


 本来なら、世界の文化遺産の前には人々が平等でなければならない。なのに、こうして政治的な理由や

経済的事情で、「鑑賞実現の道」が分かれてしまうのが残念であり、中国国内の経済的・政治的「格差」が

こんなところでも現れているといえる。


 今回、日本で展示されている「祭姪文稿」は、中国国内にいる多くの歴史専門家や学者、書道家などから

したら、喉から手が出るほど欲しい貴重なものだ。当然、何よりも「国民に届けたい作品」であることは

間違いなく、それが日本でしか鑑賞できないという状況は、痛恨の思いであるに違いないだろう。

「批判の声」は収まり冷静な論評が出回る

 展示会が始まって約3週間が経った今、徐々に日本での展示会の様子が中国で報道されるようになってきた。

これまでの「批判の声」は少しずつ収まっているように感じる。代わりに、冷静で客観的な論評が

出回り始めている。

 例えば、特別展の公式ホームページを見て、こんな声が出ている。

「これまで数々の歴史文物の展示会のデザインを見てきたが、これほど繊細で品があって、書の神髄を

理解したデザインは初めて、最高だ!」

 また、入場券の写真をSNSで公開し、「正直、非常に品格があり文化の雰囲気が漂っている。

大事に取っておきたい」という人も多数いる。


 そして、展示会のディスプレーについても、高い評価の声がある。

「展示は、入門的なものから上級者向けのものまで、中国の書道の歴史が理路整然と示されていて、

書道に詳しくない人にとってもわかりやすい。退屈せず興味を惹かれて、勉強になりました!」

「顔真卿の書の歴史や文化的な価値の説明が明晰だ、主催側の並々ならぬ努力が伝わってくる」

「日本は中国の書の文化を深く理解しているからこそ、このような高い格式の展示会ができたと思う。

中国の本土の文物なのに、複雑な気持ちだ…」

 など、日本での展示方法を称賛するような感想も増えてきた。


 子どもを連れて鑑賞する中国人の親もいて、書道の歴史や背景を子どもに丁寧に説明する感動的な

シーンもあったという。


「祭姪文稿」は独立した空間で展示され、日、中、韓、英文の説明が書かれている上、赤い垂れ幕が

装飾されているのが、顔真卿本人の心境を表現している。そして、「日本のこの作品に対する理解と

敬意を感じられた」とのコメントもあった。

 とにかく、展示会を見た人の声がSNSであふれている。

「震撼(しんかん)としか言いようがない、心が打たれた!しばらくは何もできない…」

「どう気持ちを表現すればいいのか、言葉を見つけられない、わが国祖先の偉大さにただただ頭を下げる」

「このチャンスを逃したら、一生お目にかかることができないかもしれない」

「日本に行って絶対見たほうがいい!」と呼びかけている人もいる。

そもそも日中の歴史は書を通じた交流

 そもそも日中の歴史をさかのぼれば、古代から書を通じた文化交流が続いていた。

 遣唐使はもちろん、日中国交正常化以来、日本書芸院や上海博物館などをはじめ、書の交流が毎年行われ、

盛んだった。このような行き来があるからこそ、日中ともにより一層書を発展させてこられたといえよう。

 そして、世界中を見ても、美術館の所蔵品は「文化交流の一環」として国際的に往来している。

文化はその時代を生きてきた人々の「生き様」から生まれてくるものであり、その意味では「現代の国境」を

超越した「人類の至宝」といえるものだろう。


 日中の両国国民も含めて、多くの人に鑑賞してもらうことこそ、「世界遺産」としての価値が生きる

ものである。


 2月5日からは中国のお正月「春節」の大型連休が始まる。そもそも例年この期間中はたくさんの

中国人観光客が来日するが、今年は「顔真卿展」を目的とする中国人も多いだろう。

王 青(おう・せい) 日中福祉プランニング代表。中国上海市出身。語学学習を経て大阪市立大学経済学部卒業。アジア太平洋トレードセンター(ATC)入社。大阪市、朝日新聞、ATCの3社で設立した福祉関係の常設展示場「高齢者総合生活提案館 ATCエイジレスセンター」に所属し、 広く“福祉”に関わる。2002年からフリー。