森喜朗元首相=前編=「安倍さんは『半分、青い。』だな」「参院選で自民党は過半数取れないかも…」
2018.5.21 07:04 産経新聞
すでに政界から引退した身だからね。東京五輪・パラリンピックという国家的事業の大会組織委員会会長として政治家の皆さんに
お世話になることが多いし、政治について語る立場ではないと思ってるんですよ。でもやっぱり言わざるを得ないことがたくさんある。
まあ、警鐘だと思って聞いてください。
最近、元首相の小泉純一郎さんや自民党元副総裁の山崎拓さんら「長老」と呼ばれる引退議員が、安倍晋三首相を批判してるのを
マスコミが盛んに取り上げてるね。党総裁選が近づいてるから仕方ない面もあるけど、無理やりに記事を作ろうとしてるんじゃ
ないかな。それに深く取材せずに、政治家が講演やテレビで話したことを断片的につなぎ合わせた記事が多いな。
とはいえ、山拓さんはどうかと思うよ。現役じゃないのに毎週派閥の会合に出て総帥のように振る舞っているけど、
自分の存在を政局の中心にしたいのかな。情けないよね。だったらもう一度選挙に出てバッジを着ければいいんだよ。
小泉さんの反原発は持論だからね…。ただ、必ずしも彼が思うような世論になっていない。そりゃ、反原発は理想的だが、
できるかできないかが現実問題だ。それを首相経験者が言えば、良い影響力もあれば、その逆もある。
小泉さんが息子の進次郎君と一緒に動いているかって? それは考えられないな。これまでの言動をみても。息子の結婚だって
「孫の顔を見たいな」と思うのが普通の父親だと思うけど、「関係ない!」と言い切っちゃうくらいだしね。
ただ、政権の立ち位置と違うことを言い続けると、だんだんと安倍さんのことが嫌いになっていくものなんだよな。
かく言う私も安倍さんについて「そんなことまでしなくていいじゃないか」と思うこともある。
それでも「待て待て。安倍さんをかばってやるのは俺しかいない」と思い直すんだ。
ある意味では、安倍さんも小泉さんと同じくらい理想主義を語っているわけですよ。憲法改正だってそうだろ。自民党は結党以来、
改憲を掲げてきたけど、言い出せるかどうかは時の政治状況がある。安倍さんの勇気があったからそういう状況になった面もあるが、
改憲を訴えてもおかしくない政治状況になってきたのも事実だ。ここが大事なんだよね。
安倍さんのことは父親の晋太郎さんが亡くなった後、衆院選に初挑戦したときからずっと知っているから、やはりかわいいんだ。
でも相変わらず青臭いね。いま風に言えば「半分、青い。」だな(笑い)。いずれにせよ、安倍さんがいいとか悪いじゃなくて、
安倍さんに自民党総裁経験者として、できるだけ協力してあげることが、自民党のためにも大切なんですよ。
「モリ・カケ」より議論
秋の総裁選で誰が出るのか記者さんが騒いでいるよね。岸田文雄政調会長なんて無理やりその方向にしゃべらされている。
岸田さんは人柄が非常にいい。外相だったときも文句ひとつ言わずに安倍さんを支えた。ただ、表現力と発信力が乏しいね。
今のような政治状況では、政調会長が党の政策を積極的に進めるという発言をもっとされたらいいと思いますよ。
石破茂さんは出馬するんだろうな。石破さんは、幹事長だった頃は「脱派閥」と言っていたのに、平成27年の総裁選で
安倍さんの無投票再選が決まると派閥を立ち上げたよね。政党や派閥を簡単に変わることにも痛痒を感じないようだけど、
将来、国を率いたときに国を簡単に手放したりしないだろうか。
野党は相変わらず安倍政権批判ばかりだ。でも、安倍さんが何か失政をやらかしたとか、間違ったことをやったとか、ありますか?
そりゃ、経済についてはいろいろあるし、国民すべてが満足しているとは言わないが、安倍政権になってからのGDP
(国内総生産)や訪日外国人旅行者数などをみても、経済がかつて良かったといわれたときと同じような状況になりつつある。
それで失政ですか?
国際情勢は大きく動いている。もしかしたら朝鮮半島が統一されるかもしれない。そんな中で日本はどう対応するのか。
国会はそういう議論をもっとやるべきでしょう。
かつて世界は自由主義・資本主義と、全体主義・共産主義との対立があった。日本でも政府を倒そうとする社会党や共産党にも
それなりの理屈があったけど、今は単に政権を代えようという目的しかない。
国民民主党や立憲民主党とかは「政権を代えてどうするのか」という話をしたくないんじゃないかな。
与野党が協力し合って、日本のため、国家のためにどうあるかを議論しなきゃならないときに「モリ・カケ」問題などを延々と
やることが政治の本質なのかね。あれは司直がやればよい話でしょ。
言ってみれば、野党は、かつて55年体制で社会党や共産党がやっていたことをまねしているだけでしょ。
審議拒否して世間から批判が出ると与党と話をする。何十年も前と同じですよ。それをやって社会党はどうなりましたか?
存在感がなくなったでしょ。共産党だってそんなに伸びていない。
共産党に気をつけろ
政治史をみても分かるが、共産党は共闘を掲げて仲間を煽るだけ煽って、さっと横を向く。その結果、残された社会党が批判を受けた。
だから次の参院選も気をつけなければならない。野党共闘が成立すれば、共産党は候補者を降ろすだろう。そうなると多くの
選挙区で自民党は負けますよ。先の衆院選でもいくつかそんな選挙区があっただろ。自民党を倒すのが共産党の目的なんだから、
成就すれば共産党はさっと引くよ。残された野党はどうなるのかね。
例えば、参院の鳥取・島根選挙区もそうだ。自民党元参院議員会長の青木幹雄さんが、衆院鳥取1区選出の石破さんを
応援するのは、青木さんの息子(青木一彦参院議員)の選挙が危ないからだとマスコミは書き立てるけど、青木さんの腹の中は
全然違いますよ。
もし野党が保守系候補を擁立して、共産党までその候補を応援すれば、島根からも鳥取からも自民党がいなくなる。
青木さんはこういう野党共闘による「1人区」のドミノ現象に危機感を抱いているんです。
つまり来年の参院選はそういう危険性をはらんでいる。にもかかわらず、今の自民党執行部の危機感は薄いよね。
正直言って、このままでは参院選で過半数を取れないんじゃないかな。
森喜朗元首相=後編=「プーチンは北極海で日本と手を組みたいんだ」「官僚や議員の質が落ちた理由が分かるかい?」
国際情勢の展開が早くなっている。6月12日に米朝首脳会談が予定されてるけど、トランプ米大統領は北朝鮮の戦略に
はまっている感じもするよね。非核化と引き換えに在韓米軍撤退を求められたら、応じかねないよ。そうなると日本の防衛ラインは
38度線から対馬海峡まで一気に南下する。それでも日本は軍備がいらないと言えるのかな。
北東アジアで一番危険な核保有国はどこですか。中国じゃないか。朝鮮半島が非核化されても日本は常に中国の核に
さいなまれることになる。こうした事態にどう備えるのか。こういう議論を党首討論で大いにやればいいんですよ。
もう一つはロシアだ。北朝鮮情勢に応じてどう動くか。ロシアは今まで踏ん切りがつかなかった。昨年、プーチン大統領に
会った時に「6カ国協議はあまり積極的じゃなかったじゃないですか」と言ったら、プーチン氏は「ロシアからすれば、
北朝鮮にはあまり変化してほしくなかった」という感じのことを言ってましたね。
だが、北朝鮮の生殺を米中が握るとなると話は別だ。ロシアはどう関わっていくのか。プーチン氏の心底にあるのは、
中国と長い国境で接していることへの怖さですよ。彼はこうも言ったんです。
「米国が北朝鮮を攻撃しても米国は遠いから、北朝鮮国民2000万人の多くは国境を越えてロシアにやってくるが、
その半分は日本に行くぞ。私も北朝鮮がこのままでよいと思っていないが、米国にやらせた後はどうするのか。日本に構えは
できているのか?」
それにプーチン氏には「日本が米国に追従している」という不満もある。だから2年前に会った時、彼にこう言ったんですよ。
「日本の周りは核を持った国ばかりだ。彼らが核を使用した時にあなたは助けてくれるのか」とね。
「ん?」という反応だったから私はこう言ったんです。
「助ける義務はないですね。日露には平和協定もないですから。でも米国は同盟国として助けてくれる。言葉はよくないかも
しれぬが、日本は米国に追随せざるをえないところがある。そこをよく考えてくださいよ」
プーチン氏は北極海の開発を日本とやりたがっているんだよ。安倍晋三首相にも「北極海を使ってほしい」と言っている。
日本の船はスエズ運河や喜望峰を回って何カ月もかけて欧州に行くけど、北極海を通れば1週間で行ける。中国が北極海に
どんどん進出していることもあって、日本と手を組みたいんですよ。
安倍さんは24日から訪露してプーチン氏と会談するよね。9月にも会うし、アジア太平洋経済協力会議(APEC)などを
含めると今年だけで結構な回数会うことになる。ロシアとの関係は大事なんです。対応を誤ってはいけない。
× × ×
国際情勢がこんなに緊迫しているのに、国会はまともな議論をほとんどやっていないじゃないか。野党は「モリ・カケ」ばかり。
こんなことをやるために国会議員になったのかね。
国会議員や官僚の質が落ちたのは、なぜだか分かるかい?
国民民主党共同代表の玉木雄一郎さんは財務官僚、大塚耕平さんは日銀出身だよね。ほかにも官僚出身者はいるが
、みな東大や京大などを出て将来を嘱望されて官僚になったんでしょ。
ところが、入省後、上司にくっついて国会回りをするけど政治家の前では何を言われても「はい」。政治家が水を「焼酎だ」と
いえば、役人は「先生が焼酎だとおっしゃるなら、そういうお考え方に沿って持ち帰って対応させていただきます」となる。
役所に帰って上司に「これは日本酒だ」と言われると、今度は政治家に「先生のおっしゃる通りだと思いましたが…」とへ理屈をこねる。
玉木さんたちもそんな先輩官僚をみて疑問を持ったんじゃないかな。でも主義・主張や政策を実現するために政治家になった
わけじゃないから、何をやりたいのか、はっきりしない。
昔は官僚で国会議員になるのは最低でも局長級だった。そこまで待てなくなったんだな。だから役所もいい人材がだんだんと
いなくなって…。これは日本の致命的な欠陥だと思うよ。
立憲民主党代表の枝野幸男さんについても一言。彼は元は社会主義者でしょ。彼だけじゃないけど、自分の過去を暴かれたく
ないから政権の「いま」ばかりを追及する。それで野党は政権を取ったけど失敗したじゃないか。その反省もない。
あまりにも定見がなさすぎるよ。
× × ×
自民党議員の質も悪くなったと認めざるを得ないな。「魔の3回生」と言われてるんだろ。その半分は選挙のことしか考えていない。
後は「寄らば大樹」で自民党にさえいれば何とかなると思っている。
僕らの若い頃は、自民党にいても、いつ首をはねられるかわからなかったから自己研鑽(けんさん)が必要だった。
かつては部会長よりも副部会長や委員会理事になる方が大変だったんだよ。
この前、前川喜平前文部科学事務次官の講演について、自民党の文科部会長が、文科省を通じて教育委員会を調べたことが
あったよね。役人にはやってよいことと悪いことがある。与党の政治家が、そんなことも知らずに役人にやらせるからマスコミに
たたかれるんですよ。
国際会議での振る舞いもなってない。5月17日に「太平洋島(とう)嶼(しょ)国・日本地方自治体ネットワーク」
設立会議があったでしょ。政府・自民党からも代表が来てたけど、自分の挨拶が終わったらさっさと帰っちゃう。
天皇陛下が会われる外国の賓客なんだから最後までいるのが礼儀でしょ。これでは政治家が官僚に信用されなくなるわけだ。
経済界からも信用されない。支持団体からも信頼されない。その結果、選挙が弱くなる。
同じことは経済界にも言えますよ。経団連のトップが発言してもマスコミが一斉に取り上げることはめったになくなっただろ。
大企業の社長もサラリーマン化してるんじゃないかな。
いずれにせよ、ここまで日本を取り巻く環境が急変してるんだから、与野党ともに国会で真剣に議論しなくちゃいけない。
この先の政治決断で日本の運命が決まるかもしれないんだよ。
(産経新聞官邸キャップ 田北真樹子)










