新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

全国紙の元記者・中村仁がジャーナリストの経験を生かしたブログ
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米中による地球分割は止まらない

2019年06月30日 | 国際

 

G7は存在感もなし

2019年6月30日

 大阪で開かれた主要20か国首脳会議(G20)が終わりました。世界人口(75億人)の6割、GDP(85㌦)の9割を占めるとあって、首脳が勢ぞろいして記念写真を撮ると、会場は所狭しでした。世界を主導した時期もあった米日欧・先進7か国首脳会議(G7)の存在感は薄くなりました。


 それでは10年前から開かれているG20の時代がきたのかというと、そうではない。会議に合わせて開かれた米中首脳会議が最大の焦点になりました。「貿易協議は再開する。米国は制裁関税の対象を拡大しない」で歩みより、とりあえず関係国はほっとしました。


 関心のマトは米中、つまりG2です。G2とはいうものの、経済的な相互依存関係はあっても、政治的な信頼関係はまるでない。協力して世界主導する気持ちはなく、中国は覇権を握ろうとし、米国は防戦する。その過程で、G2が地球、世界を分割する傾向が強まっていくと、考えるべきなのでしょう。


米中100年戦争の予告


 G20会議をめぐりメディアに登場した多くの論評で、私が「そういうことなのか」と、強く印象づけられたのはファイナンシャル・タイムズ紙の論者、マーティン・ウルフ氏の指摘です。米国の国家戦略について「対中100年戦争の愚」(6/7日、日経朝刊)という見出しの記事です。

 

 ポンぺオ国務長官、キシンジャー元国務長官らが出席した非公開の国際会議の議論から、「米国にとってついに敵対する相手が現れた」と米国は考えており、「中国との全面対決が米国の経済、外国、安全保障政策の中心的な関心事になりつつある」と、ウルフ氏は主張しています。


 かつてのソ連のように敵対する国が現れ、米国の国家戦略を一本化できるようになった。政治的リーダーの多くは、敵対する存在を求めています。そのほうが国民をまとめやすいし、選挙戦術に使え、好都合と考えています。トランプ大統領は言いたい放題、好き勝手な言動を繰り返かえしているようであっても、「ついに敵対する敵」を見つけたという思いに、それらは収れんいきます。


 G20との関係でいえば、「現在のルールに基づく多国間秩序やグローバル化した経済が、今の米中対立を乗り越えて存在すると思ったら、大間違いだ」と、ウルフ氏は見立てます。


 新聞論調を眺めますと、視野が狭すぎる。「G20閉幕、安倍外交の限界見えた」(朝日新聞)は次元が低すぎる。安倍外交を批判していれば、新聞の役割が果たせると錯覚しています。「米中首脳会談/制裁と報復の応酬に歯止めを」(読売新聞)は、「お説はごもっとも」の類です。「米中は今度こそ貿易戦争を止めよ」(日経新聞)は常識的すぎます。


海と大気に浮遊するゴミ


 米中摩擦以外のテーマに触れますと、G20は「2つのゴミ」で苦しみました。1つ目のゴミは海に漂流する海洋プラスチック・ゴミです。首脳宣言に「2050年度までに新たな汚染をゼロにする」を盛り込みました。その名は「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」、名ばかりで、そこに至る工程表は不在です。


 日本ではコンビニなどのレジ袋の撤廃、有料化が検討されています。手始めとして、やらないよりやったほうがいいにしても、プラススチック・ゴミ総量の2%にすぎないそうです。ネーミングで気取るより、全体としてどう進めるかの行動計画が必要です。


 2つ目のゴミは、大気中にばらまかれている温暖化ガス(CO2)です。米国が後ろ向きで、国際ルール「パリ協定」からの離脱を米国が表明しています。「海中のゴミ」も「大気中のゴミ」も、地球環境に敵対する存在です。「所狭しと並んだG20首脳」との連想でいえば、産業経済の成長や人口増で、「地球はもうゴミで所狭し」と悲鳴を上げているのに、世界はまだ「経済成長」を求めています。


 「米中による地球分割」に戻れば、「グローバリゼーションを進めれば、地球は一つなる」とかいう定理めいたものは、あらゆる次元で音を立てて崩れ始めました。「世界は軸が2つある楕円状の世界に向かう」のでしょう。「国家主権、グローバル化、民主主義の3つは同時に追求できない」も新しい定理になりつつあります。


  今回のG20に大きな意義があったとすれば、「地球はもう狭すぎる」「狭い地球を分割する時代を迎えた」「多くの定理の有効期限が切れ始めた」ことを認識させたところにあります。






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