新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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テロ 「言論の自由」より武器輸出の制限が先

2015年01月10日 | 国際

  風刺されているのは現代社会

                      2015年1月10日

 

 パリの政治週刊紙の本社で12人が銃撃、殺害されたテロ事件に、欧米を中心とする現代社会が震え上がり、異常な反応を見せています。イスラム教に対する風刺が事件の背景にあるとされています。「言論の自由をテロでは奪えない」という怒涛のような叫びも聞こえてきます。わたしは、そうした現象面のことより、日本もその一員である現代社会そのものが風刺されている、それに気づくことが最も重要な点だ思います。

 

 パリで音楽活動をしている日本人女性が「フランスでは、異様と思える過剰反応が起きています」というメールを送ってきました。事件への怒りと連帯を示すために、フェースブックのプロフィール写真を「わたしはシャリル(襲撃された週刊紙の名前)」に変えた人がおびただしい数にのぼるそうです。「言論の自由という皮をはぐと、その核心は人種差別問題に行きつく」、さらに「平和を装いながら、裏で武器を売っている産業、商人たちがいることに気づく」とも、この人は指摘しています。

 

    平和を装う武器商人たち

 

 もう1人のパリ在住の日本人男性は「フランス全土で弔意が表明されました。重火器をつかったテロへの怒り、悲しみのためでしょう。その一方で、パリ祭(共和国建国の記念日)では、盛大な軍事パレードがあり、軍隊の行進がある」と、言ってきました。軍事パレードとは、ある種の武器、兵器の見本市を兼ねているみることができますね。武器を売るためのショーですね。

 

 現地からの生々しい肉声に接しながら、この事件をどう受け止めるべきか考えました。事件直後、仏米英独の首脳、さらにこの風刺漫画をみていると思えない安倍首相までが一斉に異口同音に「普遍的な信念である表現の自由を封じることはできない」といった声明を発表しました。イスラム国、イスラム過激派、そこから送りだされるテロリスト対策が、国際政治の最重要の共通の課題ですから各国首脳が即座に反応したのです。わたしは、そのことには異議を持ちません。

 

 不思議なのは、申し合わせたように、美しい「言論の自由」を引き合いにだしたことです。触れられたくない本質的な問題が隠れているからに違いありません。今回のテロリストが使った重火器、さらにイスラム国、イスラム過激派が持つ膨大な兵器、武器はどこから調達したのでしょうか。かれらには製造、生産技術はありません。世界の主要な武器輸出国にはロシア、米、中、仏、英が上位を占めています。イスラム国の兵器、武器の供給国もおなじでしょう。直接調達したもの、イラク軍、シリア軍などから奪いとったものなどが混在してはいます。自衛のため、同盟国支援のため、代理戦争のためなど、いろいろな動機も混在していることでしょう。まさかテロにつかってくれといって、売ったのではないでしょう。

 

    「武器を売るな」と叫べ

 

 フランスばかりでなく、米国、英国などでも多くの市民が追悼のために広場に集まり、それぞれ1本のペンを掲げて、抗議しておりました。「テロリストはわれわれのすぐそばにいる。いつ自分たちがテのロ犠牲者になるか分らない」という恐怖心が抗議運動の裏側にあるのでしょうね。追悼の市民たちは「政府は武器や兵器をみだりに輸出するな」と、本当は抗議すべきなのです。自分たちが供給した武器で自分たちが銃撃されるなんて、風刺画の世界です。

 

 冒頭に「言論の自由をかぶった人種問題」という指摘を紹介しました。特にたくさんの移民労働者を抱える欧州では「イスラム系と白人系の経済格差」が社会構造の重大問題になっています。底辺にいるイスラム系若者の不満は充満しており、多くの若者が志願してイスラム国に戦闘員として移住しています。その一部が本国に戻り、テロを各国でおこしているのです。自分たちが生み出したもので、自分たちが苦しめられるという循環です。

 

     格差がテロを生む   

 

 追悼集会の市民は「テロをなくせ、格差をなくせ」と叫ばなければいけません。もっとも格差をなくそうとすれば、自分たちの雇用や所得が失われることになりますから、そう叫ぶひとはまずいません。格差問題を扱った「21世紀の資本論」という巨大な労作が、グローバリゼーションとマネー市場化のなかで格差が広がっていることを歴史的に分析しました。著者はピケッティ氏でフランスの経済学者です。フランス人は読んでみたらどうでしょうか。現代社会が生みだしてい社会格差がまた、テロを生み出す温床になるという循環です。

 

 事件の発端は風刺画です。風刺にも節度が必要です。とくにイスラム関係などを風刺すると、すぐに政治、社会問題化してしまう傾向が強まっています。冷笑主義はフランス文化の象徴のひとつでしょう。「それを守れ」といったところで、イスラム国、過激原理主義圏では、言論の自由民主主義もありませんから、かれらには通用しません。風刺画の新聞が自分たちの命を危険にさらす。節度と生命のどちらをとるかという問題でもあるのですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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