新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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理化研と朝日は不正の相似形

2014年12月29日 | 社会

  自作自演の芝居に多くの教訓

                     2014年12月29日

 

 年末のある日、理化学研のSTAP細胞の不正研究事件、朝日新聞の慰安婦報道の捏造事件の結末が並んで報道されました。この二つを見比べていると、あまりにも構造が似ているなあと、思いました。日本の科学界のトップをいく理化学研、日本の「リーディング・ペーパー」と胸を張ってきた朝日新聞における不祥事は今年の負の面を象徴しましたね。

 

 二つの「トップ」の事件は、「トップ」を自負し続けようとする焦りが生んだのか、日本的構造の象徴で他でも起きうるのか、その両面があるでしょう。理化学研の名声は地に落ち、朝日は「ミスリーディング・ペーパー」との酷評を受けました。1日で評価は急変し、長い年数をかけて、その1日に至ることを知らされました。

 

    手が込んだ「偽物を混入」

 

 STAP細胞という「ノーベル賞級の大発見」は、別の万能細胞であるES細胞をすりかえて「発見」と偽称したようですね。調査委員会の控えめな「ES細胞が混入」という表現は、「恐らく女性研究員が故意に混入」を意味することに大方の人は同意するでしょう。慰安婦報道は、分りやすくいえば、「吉田証言(軍による慰安婦の強制連行があった)が朝日新聞の記事に混入」を意味し、「混入に故意があった」ことを、当事者の朝日も第三者委員会も、もはや否定しません。

 

 STAP細胞は女性研究員の自作自演の発見であったようですね。論文は実験もしていないで書かれていたり、そのうちのひとつは、ノーベル賞の山中伸弥教授が発表した論文のグラフに酷似していると、いいます。吉田氏の証言も自作自演で、現実にはなかったことを作り上げた架空の物語でありました。吉田氏は「謝罪の碑」を自費で建て、除幕式を朝日が報道しましたから、手が込んでいます。両者とも、ありそうな話に仕立てる腕はなかなかでした。

 

 理化学研は女性研究員の論文を不正、捏造として取り消しました。朝日は吉田氏を取り上げた16本の記事を取り消しました。これもそっくりですね。STAP細胞の論文は世界的な科学雑誌「ネイチャー」に掲載され、慰安婦報道は国連人権委員会のクマラスワミ報告によって箔がついたようなものでした。著名な科学雑誌、国連人権委員会も、どうして偽物をつかまされたのか、内部では真剣に議論していることでしょう。

 

   第三者委の提言でやっと出直し

 

 STAP研究では、上司の指導、検証に重大な落ち度があり、データの点検を怠っていました。朝日も社内では、編集デスクの点検が甘かったうえ、吉田証言を疑問視する声があがっていたのに、きちんと検証していませんでした。両者と組織防衛本能が強かったという点でも共通しています。理化学研は、研究員のモラル向上、上司の指導・監視の強化、性急に結果を求めることの回避など、構造的な出直しに取り組みます。朝日は「歴史の記録をしっかり残していく」といいます。両者とも第三者委員会の検証、提言があって、初めて解体的出直しを始めるのです。

 

 日本を代表する組織での酷似した事件の発生に、多くの研究機構、報道機関はもちろん、企業も学ぶところが多いように思います。「うちに限ってそんなことは起きない」と考えているところほど、危ういのではないでしょうか。

 

 

 



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