「彩りのない冬」と言うのはひと昔前のことで、最近は温室栽培や交配種の進化で野菜や花卉(かき)が厳冬の中で鮮やかな色彩を放っている。トマトやキュウリなどは夏の代表的な野菜である。まだ蔕(へた)に青が残る赤くなったトマトを井戸の中に放り込んで冷やしてからカブリつくのである。
渋味の中に酸っぱさと甘みのある見事な味覚のハーモニイが口いっぱいに広がってくる。猛暑期間限定の夏の味である。野菜はそれでいいのだ。ところがトマトは通年店頭に並ぶ。蔕まで真っ赤な熟れきった見てくれは立派な姿形をしているが、渋味も酸っぱさも甘味もない。いわゆるトマトの味がないと嘆かれるご同輩がおられよう。
「百花の王」あるいは「富貴草」とも呼ばれる牡丹。寒風に毅然と咲き競う冬牡丹の妖艶な美しさは見事である。彩りのない冬を彩る大輪の冬牡丹はワラ囲いという小道具を身につけひとしきり清楚に華やいでいる。
<鎌倉鶴岡八幡宮の源氏池に臨むボタン園>
冬牡丹霜降り凍てる如月の源平池を視して吼える
菰かぶる紫紺の蕾咲き澱む一陣の風しばしとどまん
腰下ろし「座れば牡丹」その心は 鼻を鳴らしてツレは眺むる
大輪の紅蓮の花は咲き狂い美は乱れきて牡丹灯籠