庚申塔は、江戸時代に盛んになった民間の宗教行事「庚申講」の供養塔である。庚申の夜は村人が集まって徹夜で「お籠もり」をする。睡眠中に体内から虫が抜け出して、その人の悪事を帝釈天に告げ、天罰として生命が縮められてしまうからである。
庚申塔の基本形は、憤怒の阿修羅のような青面金剛(しょうめんこんごう)が邪鬼を踏み付け、その足許には「見ざる」「聞かざる」「言わざる」という三匹の猿が彫られている。村境などに建てられるので道標を兼ねている場合が多い。
写真の庚申塔は中原街道に立つもので、東江戸道・西大山道・南大師道と彫られている。
往還の狐日和の庚申塔金剛像の憤怒が緩む
三猿は「チクリませんよ」と口塞ぐ庚申塚は平安に過ぐる
享保の根府川石の庚申塔浮き彫り鋭く石工の腕が
開発で一所に置かれし供養塔ビルの谷間で雑踏を見入る
燃え上がるグラジオラスを脇に避け講中の刻字指先で辿る
湧き水が溢れる里の道標に主なき帽子の蝉の亡骸