塵埃日記

つれづれなるままに、日々のよしなしごとなど。

三菱一号館美術館「マネとモダン・パリ」展を観てきました。

2010年07月19日 | 徒然
  
 今年オープンした三菱一号館美術館の第一号展覧会「マネとモダン・パリ」を観に行ってきました。話題の美術展のうえ、来週末で終わりということからそれなりの混雑は覚悟していました。

 ところが、混雑はもちろんのこと、それ以前にこんなにひどい美術館は初めてだというのが正直な感想です。おそらくこのブログを閲覧されている方の多くも、すでに「マネ」展には足を運ばれていると思いますので、反論は承知の上で批判させていただきます。

 一言でいえば、「せまい、不親切、おちつかない」の三拍子そろった美術館というのが私の印象です。三菱一号館美術館は、戦前の三菱財閥の三菱一号館の外観を忠実に再現した、赤レンガ造りのモダンな建物です。もちろん内部は、エレベーターや空調など現代の建築技術によって整えられています。

 しかし、平面設計は基本的に当時の設計図や写真に基づいているため、構造は昔の役所そのものです。そのため、各部屋は美術館にしては狭く、展示スペースが限られているからか廊下の壁にまで展示物が隙間なく敷き詰められています。おかげで、混雑していることもあり、「家の中に飾ったってこんなに近くからは眺めないだろう」というくらい近くから展示品を観賞せざるを得ません。後ろから横からどんどん人がやってくるし、絵は近いしでおちつかず、あまり「観た」という気がしませんでした。廊下の展示物にいたっては、真後ろを人が通るわけですから、展示品にほとんど肉薄しなければなりません。いくらなんでも設計時に、少なくとも展示物を並べたときに気付かなかったんでしょうか?

 「不親切」という点ですが、これは別に美術館の職員のことではありません。出来て間もない美術館ですから、私もそこまで職員にこなれた対応は求めていません。ここで取り上げたいのは、建物と展示品の説明についてです。何が不親切かって、まず入り口が分かりにくい。正面玄関からは入れず、建物の西側の細い路地を入って裏手に回らなければなりません。私は西側の二重橋前から行ったのでそれほど迷いませんでしたが、東京駅や有楽町駅から正面玄関を目指してやってきた人たちはすべからくどうしてよいか分からず、正面玄関の無愛想な職員に聞いてすごすごと裏手に回って行きました。

 一応、正面玄関から入れる手段はあります。日時指定券なるものを事前購入し、指定された日時に訪れるというものです。しかし、映画ならいざ知らず、美術館や博物館に日時まで決めてやってくる人などどれほどいるのでしょうか?

 そして、美術館の展示品といえば、作品の脇にしばしば説明書きが付してあるものです。そこには画家の説明や作品の特徴、時代背景など、作品を味わう大きなヒントが書かれていて、美術展を楽しむためにはなくてはならないものです。ところが、今回の「マネ」展には、この説明書きがまったくといって良いほどありませんでした。おそらくは、建物が狭いので作品を敷き詰めたら説明書きを付けるスペースがほとんどなくなった、というのが実情でしょう。それにしても、絵と肩書だけが並んでいるというのも、なんとも味気ないものです。

 近年の美術展では、オプションで音声ガイドの装置を借りられるのが普通となっています。こうした音声ガイドは、絵を見ながら説明を音声で聞けるというだけでなく、たいてい説明書きにはない付加的な情報やエピソードも盛り込まれています。この美術館の音声ガイドは、ヨーロッパではだいたい無料ですが、日本ではまず有料です。付加的なオプションであるというのが理由だと思われます。ところが、説明書きがまったくない三菱一号館美術館では、音声ガイドは付加的どころか必須です。なければ何も分かりません。であれば、音声ガイド装置に入場料とは別に課金するというのはおかしな話です。せめて初めから入場料に音声ガイドの料金も含めるべきだろうと思うのです。
  
 同じ四大財閥の1つである三井家の三井記念美術館も、2005年に日本橋の三井本館に開館した新しい美術館ですが、こちらは安心して観られる美術館らしい美術館です。三菱も、旧館を復元して美術館にするという発想は素晴らしいと思いますが、美術館としての体裁については三井などをもう少し参考にされたらいかがかと思います。

 さて、ここまで美術館に対する愚痴を並べたてました。本当は、これらのことはアンケートにでも書いて済ませようと思っていたのですが、一号館美術館にはそもそもアンケートが設置されていません。アンケートをとらない美術館というのも初めて見ましたが、ちょっと傲慢かなという気がしました。

 「マネ」展の方はどうだったかというと、これもひどく落胆させられました。いや、これは私が悪いのかもしれませんが、「マネ」展というくらいだからマネやその周辺の印象派時代の絵画が多数展示されているものと期待していました。ところが、展示品の半数以上は、そもそも美術品ではなく建物の設計図や町の写真などでした。なんだか、「魚沼産コシヒカリ」と銘打っていながら7割ぐらい雑穀のご飯が来たみたいな気分でした。

 マネの作品にしても、オルセー美術館との共同企画という割には物足りない感が否めず、印象に残っているのはベルト・モリゾとエミール・ゾラの肖像くらいです。オルセー美術館の職員が一号館美術館のようすを見て作品の提供を渋ったのではないか、という邪推すらはたらいてしまいました。

 そんなこんなでまったくいい思いのなかった三菱一号館美術館ですが、それでもこの先興味を惹かれる展示会が開かれれば、訪れないわけにはいきません。そのときには、より良い意欲的な美術館として改善されていればいいな、と思います。

  



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