塵埃日記

つれづれなるままに、日々のよしなしごとなど。

橋下徹大阪新市長就任会見雑感

2011年12月20日 | 政治
    
 今年の最後の最後に、10大ニュースも入れ替わる一報が入ってきましたね。北朝鮮の金正日総書記が死去するとは。いや、そう遠くないこととは思っていましたが、意外とあっさりといった感じだったので驚きました。亡くなったことはさておき、今後の北朝鮮政情がどのように推移していくのかが注目されます。

 さて、このニュースと同日の19日(月)、大阪新市長となった橋下徹氏が正式に初登庁し、就任会見を開きました。世間ではやれ橋下節だなんだともてはやしていますが、私はどうしてもこの人が深い考えをもっているようにはみえません。そしてこの見方は、今回の就任会見を通じてより一層強まってしまいました。会見の全文を探してみたのですが見つからず、もしかしたら編集によって本来の意図とは違って捉えてしまっているかもしれません。しかし、断片的に聞く限りでも、肝心の部分で矛盾が生じているように思うのです。

 まず、橋下氏の目玉公約である大阪都構想ですが、あいかわらず構想の内容やメリットがはっきりしません。それに加えて、これまでチラチラ口にしていた道州制について、今回の会見ではっきり国と連携して目指すと言及しました。都構想とは、簡単にいえば、東京23区のように大阪市を廃して、旧市内各区を市町村と同等に引き上げるということなのでしょう。すなわち、都道府県の中のシステムの改変ということになります。

 これに対して道州制とは、都道府県を廃してさらに大きな「州」(北海道のみ「道」)にまとめてしまおうというものです。いうなれば廃藩置県ならぬ廃県置州といったところです。つまり、道州制を導入するというなら、大阪が府であるか都であるかは意味のない議論ということになります。本当に道州制を目指したいのであれば、都構想などというものは余計な道草でしかありません。この矛盾について、橋下氏がどのように考えているのか、今のところ私には分かりません。

 続いてマスコミが大きく取り上げていたのが、生活保護行政に対する一幕です。橋下新市長は、生活保護行政についての質問に対し、「国は無策。僕の言い分を国が聞かないなら政治闘争しかない。」と国への批判をまくしたてました。マスコミはこれを「早くも国へ注文」と肯定的に持ち上げていますが、私からみればただの論点のすり替えとしか思えません。記者がこの部分の質問をするところはテレビでも放映されていたのですが、明らかに「大阪市」が生活保護行政をどうするつもりなのかを尋ねているものでした。大阪市は生活保護受給者数が全国ワースト1であるという事実をふまえれば、これに新市長がどう対処するつもりであるのか質問するのは、ごく当然の流れと思われます。大阪市長の就任会見なのですから、大阪市の政策案を問い質しているはずです。ところが、橋下氏はこれに対し、具体的な政策案は1つも示さず、代わりに国が悪いと放言したわけです。責任転嫁ととられても仕方のない言動といわざるを得ません。約3.5人に1人の得票率という圧倒的な民意のなかには、約18人に1人という大阪市の生活保護受給者(すごい数字ですね…)の民意も少なからず含まれているはずです。こうした民意の前に、就任会見でいきなり国に責任を押し付けるような発言を堂々となさるのは、いかがなものかと思います。

 さらにいえば、橋下氏が唱える道州制や地方分権とは、権限や財源をなるべく地方に移し、地方で出来ることは地方に任せるというもののはずです。現在でも生活保護の自治体負担は4分の1(だったはず)あるので、道州制や地方分権がもし実現すれば、地方負担割合が2分の1以上に引き上げられるか、全額地方持ちになるはずです。ですから、本気で道州制云々と考えているのであれば、国の無策批判も結構ですが、自治体自身の生活保護行政についても同じくらいかそれ以上に厳しい態度で臨まなければならないはずです。ですが、就任会見からはそのような態度やアイデアは残念ながらうかがえませんでした。

 そして最後の点なんですが、これは私には半分笑い話のようにすら思えました。「面従腹背は大歓迎」と言っておきながら、「報復ではないが人事権は僕にある」と続けています。私はこれを聞いて、飲み物を吹き出しそうになりました。このとき、少々マニアックなネタですが、漫画『北斗の拳』で拳王侵攻隊が村を襲うシーンが頭をよぎりました。部隊長は村人に、忠誠の証の焼き印を自分で入れるように要求し、従わない者は焼けた鉄板に放り投げられて殺されます。そして部隊長は村人たちに「私は少しも強制はしない!自らの意思で忠誠を誓うのだ!」「もしいやだと言ったら黒コゲになるまで踊ってもらうがな…」と言い放ちます。どうでもいい例ですが、あまりに言っていることが似通っていたので、取り上げてみました。

 さて、このように、就任会見ひとつとっても現在のところあちこち矛盾だらけなのが橋下氏の改革の実情です。ですが実際のところ、大阪の有権者が橋下氏に期待したのは、とにかく現状の閉塞感の打破に尽きるようです。ただ、民主党の政権交代の原動力がまさにそうだったように、「何でもいいから現状を変えてくれそうな人」というだけの理由で選んだことによる失敗は、これまで日本各地で幾度となく経験してきたはずです。地方行政においては、私が自称型改革派知事と実績型改革派知事と勝手に分類して以前記事にしたことがありますが、鳴り物入りで出てきた人ほど、終わってみれば大した実績は残っていないものです。

 ただ、橋下氏が卓越しているのは、小泉純一郎元首相と同様の劇場に人を引きこむ才覚だと思います。すなわち、筋を徹しきる手腕は十分にもっていらっしゃるのでしょう。ですから、残念なのは筋を徹す力はもっているのに、肝心の筋がまだはっきりしていないという点です。ここは、せっかく圧倒的民意を受けて選出されたわけですから、ぜひまずご自身が何をなさりたいのかはっきり目標を据えて、そこから道順を考えていただきたいと願っています(お前は何様だと言われそうですが)。

 逆に、とても心配なのは、人気さえあればなんにでもなびく民主党の面々です。民主党に限らずいろいろな政党がラブコールを送っているそうですが、政権党が一地方旋風に尻尾を振るというのは、なんとも情けないことです。それどころか、たしか民主党は自民党や共産党と相乗りしてまで維新の会と争っていたように記憶しています。にもかかわらず、維新の会が大勝したとみるや秋波を送りだすとは、節操がないにもほどがあるでしょう。橋下改革の旋風それ自体を私は懐疑的にみていますが、より心配なのは橋下フィーバーでより一層明らかとなった民主党の思考停止状態です。

 ただ待っているだけでは当然何も変わりませんが、閉塞感の打破だけでも前には進みません。確固たる未来への展望をもってこの国を導いてくれるような人は、現れないものでしょうか。将来の政情が不安なのは、北朝鮮だけではないようです。