新古今和歌集の部屋

尾張廼家苞 羇旅歌3

尾張廼家苞 三


 旅のやうをもしらで、さま/"\ならはぬ事どもの多きをいへる
 哥也。しらざりしといふに心をつくべし。(此注は、初句を下句へもかけ
                                   てみるべきがごとし。その
 義ならば、初句をしらざりきといひて、下にかへるてにをはあるべき也。されどこゝに
 しとあるうへは、八十瀬斗にかけて心うべからず。しらざりし八十瀬の浪を分るといふが、
 侘しき事の一條、伊勢の濱荻をかたしくが、わびしき事の
 一条なり。かく艱難をいひつらねて、一首としたるなり。)波を分と
 いふ事、鈴鹿川には少し似つかぬ心地す。(雲を分、草を分
                                      といふは、分るといふ
 事おもくて、雲をおし排き、草をおしひらく也。野を分、山を分とは、野をおし
 排き、山をおしひらくにあらねば、分といふもじかろくて、野を經、山をふるをいふなり。
 こゝも八十瀬の浪を過るこゝろとせば、似つかぬ事もあらじ物をや。
 其うへこれは八十瀬といふ数の多きに、分といふべき勢あらじやは。
               式子内親王
行末は今いく夜とかいはしろの岡のかやねに枕むすばむ
 本歌、萬葉一、君が代もわが世もしれやいはしろの岡のかや

 ねをいざ結びてな(三句以下、此歌の三ノ
                 句以下により給り。)君が代もわが世もしれやと
 あるにつきて、(本哥の此句は此哥
               にすべて用なし。 )今我行末の旅寝は、又幾夜
 ならんと也。本歌のよは代なるを、夜にとりなし給へる也。
(しからず。本歌の初二句はこゝに用なし。たゞ
 夜と代一もじ似たればとて、牽強すべからず。)二三のつゞきいはんといひかけ
たるにはあらず.二ノ句より結句へつゞけり.(三ノ句,いはゞかといふ秀句也.かも
                                    じ下へめぐらしてみるべし。二ノ句
 より結句へつゞくとあるもいかゞ。句つゞきは、一二三四五とつゞけり。一首の意は、行末
 を今いく夜といひしならば、岩代の岡のかやねを枕にむすぶならんと也。行末をかぞふる意也.)
松がねのをじまが磯のさよ枕いたくなぬれそ蜑のそでかは
(上句二一三とつゞけてみるべし。下句蜑の袖にもあらぬに、あまりに
 ぬるゝなど也。海人の袖は、なみにて濡るを、自のは涙にぬるゝ也。)
  千五百番哥合に      俊成女
かくてしもあかせばいく夜過ぬらむ山路の苔の露の席に

 初句のしはやすめ詞にてかくても也。二三の句は、あかせばあか
 されて幾夜過ぬらん也。下句、旅宿のからき
                       さまをみるべし。
  摂政家歌合に羈中晩嵐
               定家朝臣
いづくにかこよひは宿をかり衣日も夕ぐれの嶺のあらしに
 三句、宿をからんとかゝりて、日もの枕詞也。結句にもじ
 は、みねのあらしのわびしきにといふ心のになり。
  旅のうた
旅人の袖ふきかへす秋風に夕日さびしき山のかけ橋
 秋風,夕日,山のかけ橋,おの/\こと/"\にて,たがひに何のよ
 せもなく、三の物、とはことなれど、意つゞきたれば、こと事にあらず。何のよせも
         なくとはいかでかいはん。二三ノ句、秋風はさらでも身にしむ物なるに、旅の

(袖ふきかへしたらんは、其悲しさ一段なるべし。四ノ句、旅はいつもわびしき物な
 がら、朝たつほどはをのづから心づよきを、秋の日の夕かげになりて、さびしげにさし
 来たらんはかなしかるべし。一首の意、旅人が、山の俤を行折から、秋風が袖を、吹かへし、
 さびしげに夕日のさしたるは、かなしかるべき事と也。人のうへをいひたりとしてもよろ
 しく、旅人をやがて我身
 の事としてもよろし。 )其うへに、三ノ句より下旅人の縁もなし。
(三ノ句、袖ふきかへす秋風なれば、旅人よりつゞきたり。四ノ句は旅行の
 時分、五ノ句は旅行の場所なれば、其よせいとつよし。何事をいはるゝならん。)かやうに
 たゞ物をあつめてけしきをいひならべたるは、玉葉風雅の
 ふりにちかし。(玉葉風雅は、為家卿の風をきらひて、定家卿をまねび
              たる物なる故、此集に似たるところあり。それはかの集中の
 とり所にて、気概あるがごとし。物数の
 おほきがあしかるゆゑは何事ぞや。)
               家隆朝臣
故郷にきゝしあらしの聲もにずわすれね人をさやの中山
 忘れねばわすれよかしといふ意なり。此ねをぬと出る本ども


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