新古今和歌集の部屋

源氏物語 御法、幻、匂宮

御法
紫上 惜しからぬこの身ながらも限りとて薪尽きなむ事の悲しさ
をしからぬこのみなからもかきりとてたききつきなむことのかなしさ


明石上 薪樵る思ひは今日を始めにてこの世に願ふ法ぞ春けき
たききこるおもひはけふをはしめにてこのよにねかふのりそはるけき


紫上 絶えぬべき御法ながらぞ頼まるる世々にと結ぶ中の契りを
たえぬへきみのりなからそたのまるるよよにとむすふなかのちきりを


花散里 結び置く契りは絶えじ大方の残り少なきなりとも
むすひおくちきりはたえしおほかたののこりすくなきみのりなりとも


紫上 置くと見る程ぞ儚きともすれば風に乱るる萩の上露
おくとみるほとそはかなきともすれはかせにみたるるはきのうはつゆ


源氏 ややもせば消えを争ふ露の世に遅れ先立つ程経ずもがな
ややもせはきえをあらそふつゆのよにおくれさきたつほとへすもかな


明石女御 秋風に暫し止まらぬ露の世を誰か草葉の上とのみ見む
あきかせにしはしとまらぬつゆのよをたれかくさはのうへとのみみむ


夕霧 古の秋の夕の恋しきに今はと見えし明け暮れの夢
いにしへのあきのゆふへのこひしきにいまはとみえしあけくれのゆめ


頭中将 古の秋さへ今の心地して濡れにし袖に露ぞ置き添ふ
いにしへのあきさへいまのここちしてぬれにしそてにつゆそおきそふ


源氏 露けさは昔今とも思ほえず大方秋の世こそ辛けれ
つゆけさはむかしいまともおもほえすおほかたあきのよこそつらけれ


秋好中宮 枯れ果つる野辺を憂しとや亡き人の秋に心を留めざりけむ
かれはつるのへをうしとやなきひとのあきにこころをととめさりけむ


源氏 昇りにし雲居ながらも返り見よ我飽き果てぬ常ならぬ世に
のほりにしくもゐなからもかへりみよわれあきはてぬつねならぬよに


源氏 我が宿は花持て囃す人も無し何にか春の尋ね来つらむ
わかやとははなもてはやすひともなしなににかはるのたつねきつらむ


蛍兵部卿宮 香を留めて来つる甲斐無く大方の花の便りと言ひやなすべき
かをとめてきつるかひなくおほかたのはなのたよりといひやなすへき


源氏 憂き世には雪消えなむと思ひつつ思ひの外に猶ぞ程経る
うきよにはゆききえなむとおもひつつおもひのほかになほそほとふる


源氏 植ゑて見し花の主も無き宿に知らず顔にて来居る鶯
うゑてみしはなのあるしもなきやとにしらすかほにてきゐるうくひす


源氏 今はとて嵐や果てむ亡き人の心留めし春の垣根を
いまはとてあらしやはてむなきひとのこころととめしはるのかきねを


源氏 泣く泣くも帰りにしかな仮の世は何処も終の常世ならぬに
なくなくもかへりにしかなかりのよはいつこもつひのとこよならぬに


明石上 雁が居し苗代水の絶えしより移りし花の影をだに見ず
かりかゐしなはしろみつのたえしよりうつりしはなのかけをたにみす


花散里 夏衣裁ち替へてける今日ばかり古き思ひも進みやはせぬ
なつころもたちかへてけるけふはかりふるきおもひもすすみやはせぬ


源氏 羽衣の薄きに替はる今日よりは空蝉の世ぞいとど悲しき
はころものうすきにかはるけふよりはうつせみのよそいととかなしき


中将君 さもこそは寄る辺の水に水草居め今日の挿頭よ名さへ忘るる
さもこそはよるへのみつにみくさゐめけふのかさしよなさへわするる


源氏 大方は思ひ捨ててし世なれども葵は猶や罪犯すべき
おほかたはおもひすててしよなれともあふひはなほやつみをかすへき


源氏 亡き人を偲ぶる宵の村雨に濡れてや来つる山時鳥
なきひとをしのふるよひのむらさめにぬれてやきつるやまほとときす


夕霧 時鳥君に伝なむ古里の花橘は今ぞ盛りと
ほとときすきみにつてなむふるさとのはなたちはなはいまそさかりと


源氏 徒然と我が泣き暮らす夏の日をかごとかましき虫の声かな
つれつれとわかなきくらすなつのひをかことかましきむしのこゑかな


源氏 夜を知る蛍を見ても悲しきは時ぞともなき思ひなりけり
よるをしるほたるをみてもかなしきはときそともなきおもひなりけり


源氏 七夕の逢瀬は雲の他所に見て別れの庭に露ぞ置き添ふ
たなはたのあふせはくものよそにみてわかれのにはにつゆそおきそふ


中将君 君恋ふる涙は際も無きものを今日をば何の果てと言ふらむ

きみこふるなみたはきはもなきものをけふをはなにのはてといふらむ

源氏 人恋ふる我が身も末に成り行けど残り多かる涙なりけり
ひとこふるわかみもすゑになりゆけとのこりおほかるなみたなりけり


源氏 諸共に起き居し菊の朝露も一人袂に掛かる秋かな
もろともにおきゐしきくのあさつゆもひとりたもとにかかるあきかな


源氏 大空を通ふ幻夢にだに見え来ぬ魂の行方尋ねよ
おほそらをかよふまほろしゆめにたにみえこぬたまのゆくへたつねよ


源氏 宮人は豊明に急ぐ今日日陰も知らで暮らしつるかな
みやひとはとよのあかりにいそくけふひかけもしらてくらしつるかな


源氏 死出の山越えにし人を慕ふとて跡を見つつも猶惑ふかな
してのやまこえにしひとをしたふとてあとをみつつもなほまとふかな


源氏 書き集めて見るも甲斐無し藻塩草同じく雲居の煙とをなれ
かきつめてみるもかひなしもしほくさおなしくもゐのけふりとをなれ


源氏 春までの命も知らず雪の内に色付く梅を今日挿頭てむ
はるまてのいのちもしらすゆきのうちにいろつくうめをけふかさしてむ


御仏名導師 千代の春見るべき花と祈り置きて我が身ぞ雪と共に経りぬる
ちよのはるみるへきはなといのりおきてわかみそゆきとともにふりぬる


源氏 物思ふと過ぐる月日も知らぬ間に年も我が世も今日や尽きぬる
ものおもふとすくるつきひもしらぬまにとしもわかよもけふやつきぬる


 

匂宮

薫 覚束な誰に問はまし如何にして始めも果ても知らぬ我が身ぞ

おほつかなたれにとはましいかにしてはしめもはてもしらぬわかみそ

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