新古今和歌集の部屋

尾張廼家苞 恋歌四 9

尾張廼家苞 四之下
 
 
 
 
和歌所哥合に逢不遇戀 寂蓮
里はあれぬむなしき床のあたりまで身はならはしの秋風ぞ吹
手枕のすきまの風も寒かりき身はならはしの物にぞ有
ける。此本哥は、逢し夜はたがひの手枕のすきまの
風だに寒くおぼえしを、今はひとりねのみするに、さて
もねらるゞをおもへば、身はならはしの物にて有けりと云る也。爰の
下句は、それをとりて、逢事も今は絶て、独寝のみする此の秋
風也。里はあれぬは、人のとひ來ぬ故郷也。空しき床は、ひとりねのみする床也。一首の
   意は、人にとはれぬ故郷と成た事かな。ひとりね斗する床の床のあたりへ、人の身はならはし
の物であるに、ちと寒いニな
れよとて、秋風が吹と也。 さて初句は里はあれてと有べきを荒ぬといへる
は、てといひてもきこゆれど、ぬといひて初句にて切るは
  嘆息したる語勢ありてめでたき事限なし。       床のあたりまで秋風
の吹ばかりあれぬといふ心なるべし。此心は、里はあれてと
                       いひても同じかるべし。又てニては、
三ノ句までのでと重りて少し調もよろしからぬ故なるべ
けれど、三ノ句は、までといふ詞
     なり。何の子細からん。 あれぬといひて、秋かぜぞ吹ととぢ
めては、詞かけあはず。いかゞ。二段にきれてとゝのひたり。此例は、さし
                    次の院の御歌も、初句ぬとありて、結句
けりときれたり。此比の哥には数しらず
多かる事なるを、何故かくいはるゝ事ならん。かやうニいひ切て、はもじを
重ぬる事、秋は來ぬ紅葉は宿に降しきぬ道ふみ分て
                          とふ人はなし。云々
など、一ッの格なれど、それとは此哥はやうかはれるをや。それは三段
                                    にきれて
とゝのひたり。一段にも、二段にも、三段にも、
自在にとゝのふるわざなるを、あかぬ事ニいはる物かな。
水無瀬戀十五首歌合ニ 太上天皇御製
里はあれぬ尾上の宮のおのづから待こしよひもむかしなりけり
萬葉廿、高円の野のうへの宮はあれにけり云々。又高圓
のおをのへの宮はあれぬとも云々。これらをとらせ玉ひて、
此御歌は本歌とら
せ玉ふにはあらず。此御歌にては、尾上の宮は用なけれど、二ノ句は序
                                  也。尾上の
宮のおのづからと詞をかさねさせ玉へり。すべて
序は用なき物なるを、何とやらん不審だちたり。 里はあれぬとあるちなみ
に、此名を出して、おのづからと詞をかさねさせ玉へるもの也。
さて此おのづからは、たまさかにまれにと云心也。さらばおおづからとゝ
                               いふべし。ともし、大切歟。
おのづからまちこしとは、縁ありし比はよし來ぬまでも、よひのまは自然とま
たれし也。一首の意は、我さとはあれ果たる事よるなあ。もしこよひなどは來る事
かと、よひのまは自然待れし事もあるしか。今は
おもひ絶て、さやうの事もむかしになりしと也。
                 有家朝臣
物おもはでたゞ大かたの露にだにぬるれば濡る秋の袂を
下句、秋の袂はぬるれば、濡る物をといふ意にて、まして我袖は
物おもへば也。大かたの露とは世上一とほりの露といふ事。をは物をといふニ
          は同じ。嘆辞なり。一首の意、我ごとく戀に物おもひをせぬ
たゞ一とほりの露でお、袂がぬるゝといへばおびたゞしく
濡る物を。まして戀するわが袖はいかゞあらんと也。
 
 
 
 
※手枕の~
拾遺集 恋歌四
 題しらず          よみ人知らず
た枕のすきまの風もさむかりき身はならはしの物にぞ有りける
 
※萬葉廿、高円の野のうへの宮はあれにけり
万葉集巻第二十
二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首
 依興各思高圓離宮處作歌五首
高円の野の上の宮は荒れにけり立たしし君の御代遠そけば
多加麻刀能努乃宇倍能美也波安礼尓家里多々志々伎美能美与等保曽氣婆
 右一首右中辨大伴宿祢家持
 
※高圓のおをのへの宮はあれぬとも
同上
高円の尾上の宮は荒れぬとも立たしし君の御名忘れめや
多加麻刀能乎能宇倍乃美也<波>安礼奴等母多々志々伎美能美奈和須礼米也
 右一首治部少輔<大原>今城真人

高円山

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「尾張廼家苞」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事