高気密高断熱を考えるうえで「窓」選びは重要です。
高気密高断熱にこだわる一級建築士 辰野峻也です。
今日は重要な「窓」ついて、お話ししていこうと思います。
今回は長くなりますので、もったいぶらずに結論から先に話していきます。
これから高気密高断熱の家づくりで選択すべき窓は「樹脂窓」一択です。
シンク設計事務所では「樹脂窓」を標準仕様としていますが、その中でも色々と選ぶことができます。
なぜ「樹脂窓」を採用するのか、選ぶとはなにか、理由も含めて細かく見ていきましょう。
窓の種類について
窓の種類は大きく分けて3種類あります。①アルミ窓②アルミ樹脂複合窓③樹脂窓です。木製窓を入れると4種類ですが、日本の住宅で見ると普及率はあまりよくありませんので、ここでは3種類として話していきます。
この3種類、性能でみてみると、①のアルミ窓は最も性能が低く→次に②アルミ樹脂複合窓→最も性能が高いのが③の樹脂窓です。
素材により熱の伝わり方はどのくらい違うのでしょう?
↑こちらは素材別の熱伝導率の比較です。
アルミは熱が伝わりやすく、樹脂は伝わりにくい。図を見るとわかりやすいですね。
アルミの熱伝導率は樹脂の約1000倍というのはよく知られていますが、感覚としてわかりやすいのはフライパンです。
↑これだけで家の窓に「樹脂窓」がよいということ、なんとなくわかりますね。
更に考えていきます。
アルミ窓は熱を通しやすい
↑こちらは「アルミ窓+複層ガラス」である冬の住宅です。
室温20℃、外気温0.5℃ということで、ここ茨城県南地域でも冬によくある条件です。
アルミ窓の住宅からは50%以上もの熱が逃げているのがわかります。
ご実家やおじいちゃんの家など、昔の家は寒かったという実体験から、共感できる方も多いと思います。
最近建てられた新築住宅でも、アルミ窓の家であれば同じことが言えます。
↑こちらは「アルミ窓+複層ガラス」である夏の住宅です。
室温27度、外気温33.4℃ということで、近年の暑い日本の夏でよくある条件です。
アルミ窓の住宅からは70%以上もの熱が入ってきているんですね。
僕は夏の経験で、アパートに住んでいた頃、仕事を終え家に帰ってくると、閉めっきりの部屋の中がもの凄い暑さであったことを思い出します。すぐにエアコンを入れ、窓を開けて空気を入れ替えたとしても、天井も壁も床も熱くなっているので涼しくなるまでになかなかの時間がかかりました。
このように、夏と冬共に、断熱を考えるのであれば、窓にアルミという素材は向いていないんですね。
先進国で標準的な窓は?
↑こちらは世界の「樹脂窓」普及率です。
まずは日本の普及率からみていきましょう。
2020年の日本、現時点での普及率は「アルミ樹脂複合窓」が60%と多くを占めています。
「アルミ窓」が20%(築年数のある家など)で、「樹脂窓」も20%(断熱にこだわる方)。
では世界をみてみるとどうでしょう。
イギリス、フランス、ドイツ、アメリカでは60%以上で「樹脂窓」が使われています。お隣の韓国では80%もの使用率です。
こうやって世界と比べてみると日本の20%の「樹脂窓」使用率というのは、完全に時代遅れと感じてしまいます。
↑こちらは10年前の樹脂窓普及率です。
今でこそ日本の普及率20%ですが、10年前をみてみると当時は僅か7%でした。
約10年かけて20%まで来ましたが、先進国の中ではまだまだと感じるのが正直なところです。
なぜ日本はこんなにも遅れているのか?
広まらない理由として、大手ハウスメーカーの多くが「アルミ樹脂複合窓」を標準仕様としていることが大きいと言えます。
日本人は良くも悪くも右に倣えが好きです。
住宅を多く手掛ける大手ハウスメーカーの「窓」の仕様が「アルミ樹脂複合窓」であれば、疑問を持つ方は少ないのかもしれません。
「アルミ樹脂複合窓」は「樹脂窓」の次に性能が高い窓なので、「樹脂窓」と「アルミ樹脂複合窓」どちらを選択するべきか迷われる方もいると思うのですが、私たちからすれば迷うことなく「樹脂窓」一択です。
理由は、①性能が良いこと、②思うより価格が安価であること、③結露しないこと、の3つです。
YKKapのAPW330「樹脂窓」は、2009年7月の発売から10年を迎え、発売当時はなかった樹脂スペーサーを選択できるようになるなど、少しずつ仕様も良くなっています。
また、②思うより価格が安価であることについては、APWは自社工場生産+現場直接納入になったことが大きいです。それまでの「窓」はフレームとガラスを別々に生産し、サッシ屋さんに納入、各作業場等で組み立てるのが一般的でした。今でもそのように組み立てる「窓」はたくさんあります。
APWの「樹脂窓」の場合、サッシ職人さんが組み立てることがなくなったので人件費のところで、一般的なサッシより費用がかからないのです。
分離発注を行うシンク設計事務所の場合は、「樹脂窓」と「アルミ樹脂複合窓」の金額はそれほど大きく変わりません。
性能がいい、価格もいい、ということで窓の選択は「樹脂窓」一択になります。
満足いく家を目指すなら、すでに建てた方の不満を知ること
↑住まいへの不満ランキングです。
暗い、収納がない等が入っていないので、間取りについては考えられていないようですが参考になります。
この図を見ると上位3つは、家の断熱性能、窓の断熱性能を上げれば解決できます。
一度建てたら何十年と住む家です。高気密高断熱の家を建てると暮らし方が変わります。
想像してください。
冬、高気密高断熱の家は毛布一枚減らせます。
高齢になったとき、ヒートショックの心配がなくなります。
気密がいいので外の音が入りにくく、家の音が漏れにくくなります。
1年を通して光熱費が抑えられます。
僕は家づくりをして、暮らし方が変わったことを実感しています。
結露について
皆さん、結露の経験はありますか?だいたいの方が冬の結露で経験があり、イメージもできると思います。
結露については、上の不満ランキングの第3位に入っていますね。
この住まいの結露、「室内温度」「室内湿度」「外気温度」との関係で、「室内」と「外気」の温度差で起こるものです。
結露を防止するためには「温度差を小さくする」ことと「余分な水蒸気を換気してあげる」ことが重要です。
換気については、住宅の場合2003年から24時間換気が義務化されました。
シンク設計事務所では、24時間換気扇は第一種換気を採用しています。
結露の原因になりますので、24時間換気扇は止めずに必ずまわしておきましょう。
温度差を小さくするについては、窓の断熱性能を上げることで結露対策となります。
下の絵を見てください。
↑「アルミ窓」と「樹脂窓」の結露比較です。
左の「アルミ窓+複層ガラス」では、冬は結露の条件に当てはまることが多く、すぐに結露してしまいます。とても残念な窓です。
一方、右のAPW330「樹脂窓」はどうでしょうか。
この図では、結露していないことがわかります。
更にいうと「樹脂窓+樹脂スペーサー」仕様にすると極めて結露しない窓になります。(こちらについては先の記事で書きます。)
↑では「アルミ樹脂複合窓」はどうでしょうか。
「アルミ樹脂複合窓」は、しっかり換気をしていれば、部屋からみて目で見えるところの結露は起こりにくいです。
目で見えるところ?目で見えないところもあるんですか?というと、あるんですね。
それは壁の中です。
「アルミ樹脂複合窓」は目では見えない壁の中で結露しています。
上の図は、よくある「アルミ樹脂複合窓」の断面です。丸で囲みましたのでよく見てください。
YKKAPもLIXILも、「アルミ樹脂複合窓」はラインナップの中にありますが、構造はだいたい同じようなもの。外側から壁の中まではアルミで、部屋側の見えている部分だけが樹脂というものになります。
「アルミ樹脂複合窓」は壁の中で結露する。
これは知らない方が多いように思います。
結露は温度差で発生しますので、その条件に当てはまるシーズン中、壁の中では常に結露が発生、窓と触れている目には見えない木部が腐ってしまう原因になります。
家を長持ちさせようと考えると、こういう見えない部分が重要になってきます。
ガラスについて
ガラスの種類は大きく4つ。
シングル(単板)→ペア(複層)→Low-Eペア(複層)→Low-Eトリプル(三層)と、性能が上がっていきます。
シンク設計事務所では、APW330の樹脂窓が標準ですが、ガラスはLow-Eペアガラス(複層)が標準です。
より高性能を求める方は、Low-Eトリプル(三層)も可能です。
Low-Eトリプル(三層)は必要か?については、断熱にこだわりたいと重点を置くのであれば使うことには賛成します。ですが、家全体の窓をLow-Eトリプル(三層)にするには、サッシ工事全体の約3割UP程度の費用が必要となります。
窓は家の中で一番熱の逃げるところになりますので、予算が許すのであればトリプルガラスの選択はよいと思います。
僕はというと、リビングの25122の大きい掃き出し窓と、16518の掃き出し窓の2カ所のみLow-Eトリプル(三層)を採用してみました。
試しに使ってみたというところです。多少Ua値には貢献してくれていますが、費用対効果を考えると……うーん。自己満足ということで(笑顔)
また、ペアガラスのガラス間の仕様として、ガス入りなどがあります。
空気→アルゴンガス→クリプトンガスとあり、順に性能が上がっていきます。
中でもアルゴンガス入りは有名ですね。
アルゴンガスは空気に比べ、熱伝導を約30%抑えるとあり、アルゴンガス入りを採用することでUa値の算出が有利になります。
ですが、アルゴンガスは経年劣化があり、少しずつですが抜けてしまうという情報もあります。
何十年と住むことを考え、最初は性能の良いガス入りがいいのか、それとも空気のままでいいのかは人によって考えどころです。
費用対効果でいうと、家中の窓をアルゴンガス入りにしたとしても、分離発注を行うシンク設計事務所の場合は2~2.5万UP程度ですから採用してみるほうがいいとは思っています。
窓のスペーサーは地味だが重要なところ
↑窓のスペーサーについては、アルミと樹脂の2種類があります。
上の図で、左側:ガラスとガラスの間にあるシルバーのものがアルミスペーサー、右側:ブラックのものが樹脂スペーサーです。
これは忘れてはいけません、アルミ素材は窓には向かない素材でしたね。
どちらがいいのかというと、迷うことなく樹脂スペーサーを選びましょう。
樹脂スペーサーは性能の向上にもつながりますが、それ以上に結露を防ぐという面で大きな意味を持ちます。
↑こちらは結露に対して樹脂スペーサーが優れていることの図です。
アルゴンガスか否かによる下枠表面温度の差はせいぜい0.2~0.3℃程度しかありません。
しかし、スペーサーが樹脂なのかアルミなのかによって2℃程度も違うのです。
室内温度20℃、相対湿度50%の環境で、外気温0℃であれば結露が始まる温度は9.3℃。
樹脂スペーサーであれば、空気層がアルゴンガスに関係なく、結露しないことが分かります。
費用を考えると、家中の窓を樹脂スペーサーにしても、分離発注のシンク設計事務所の場合2~2.5万UP程度です。こちらは必ず採用していきましょう。
Ua値の算出に有利なアルゴンガス仕様、樹脂スペーサー仕様、両方採用したとしても約4~5万UP程度ですから、これらは予算の中に含めていきたいですね。
最後のまとめ
高気密高断熱の家づくりで選ぶべき窓は「樹脂窓」です。
ガラスについては、ここ茨城県南の5地域では「Low-Eペアガラス」で十分と考えています。性能にこだわる方であれば「Low-Eトリプルガラス」の選択もありだと思います。
ガラス間の空気層は、「アルゴンガス入り」がUa値の算出に有利です。
スペーサーについては、「樹脂スペーサー」一択です。
今日は「窓」について詳しく書いてきました。
現在の技術力で最も性能の高い窓が「樹脂窓」です。
そして多くの先進国では「樹脂窓」がスタンダード。
性能の良い窓を選んで、夏涼しく冬暖かい、高気密高断熱の家をつくりましょう。