おじさん化現象

年をとるにつれて私の中で深刻な問題となっていること。それは、おじさん化現象である。
くしゃみをすれば必ず何かがでるし、自分の愛用している枕はおじさんの臭いがする。
ついこの間まで私は、枕の臭いを自分の臭いだと認めなかった。私がいない間に絶対誰か知らないおじさんが私の布団で寝ているんじゃないかとずっと疑っていたのだ。
最近では、現実の自分を受けとめることも大事だと思うようになった。しかし、現実を受けとめることはつらいことである。
昨日、朝の満員電車の中何気なく近くにいたおじさんをみると自分と同じマフラーをしていた。好みまで同じになってきている。日に日におじさん化していく自分が時々怖い。
だが、私もそんなにやすやすとおじさんになるつもりはない。首や耳の後ろを念入りにナイロンタオルでゴシゴシと血がでるまでこすったり、頭皮のあぶらを出すようにマッサージしてシャンプーを二回するなど、おじさん化に必死に抵抗していた。

そんなある日。
今だに通っている歯医者での出来事である。

私は予約の時間より少し早く歯医者につくと、まだ前の人の治療をやっていた。私は自然と聞こえてくる声に耳を傾けていると、先生が患者に注意をしているようだった。

「歯の磨き残しが結構ありますよ。ちゃんとしっかり磨くようにしてください。とくに前歯！茶渋がついてますから。」

それを聞いて私は嬉しくなった。この患者も私と同じように歯磨きをちゃんとやるように叱られていたからだ。

「どんな人だろう…。」

私の胸は高鳴った。そして、治療を終えて出てきた客を見て愕然とした。なんと５０すぎの男性、いや、おっさんだったのだ。それまでウキウキ気分だった私の気持ちは一気に冷めてしまった。

仕草、臭い、好み、そして注意されることまでおじさんと同じだなんて…。

私は無駄な抵抗はやめておじさんとして生きていこうと心に決めるのだった。