カンボジアだより シーライツ

国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクト・スタッフによるカンボジアの子どもとプロジェクトについてのお便り

性犯罪と最近の若者・子ども

2008年02月19日 03時14分20秒 | カンボジアの子ども

こんにちは、中川香須美です。今回も前回に引き続き、カンボジアのこどもと性犯罪について、「女性と子どものための法律支援の会(Legal Support for Children and Women (LSCW)))代表のビチュターに聞きました。



子どもの犯罪は増えているのか

近年、若い世代や子どもたちは、暴力的になってきていると思います。その理由のひとつは、さまざまな情報が世界各国から入ってきていて、テレビや雑誌などで暴力的な行為を子どもたちが日常的に目にするからです。特に、テレビでは外国からのドラマが放映されていて、とても暴力的なシーンが多いです。ポルノもそのひとつで、子どもでも簡単にポルノを見ることができるのは深刻な問題です。

家庭にもよりますが、多くの家庭の子どもたちは、大人からの指導なども受けないまま、暴力的な映像を見ています。親が放任しているわけではないものの、子どもたちは危険な映像にさらされているのです。けんかのシーンや、悪いことをしている若者たちの振る舞いを見て、それを真似したいと思うのです。服装、振る舞い、言葉使い、子どもたちがテレビで見たことをすぐ真似したいと思うのは普通です。テレビの暴力シーンなどに関する規制などがまったくないのも問題です。


中川香須美コメント

子どもの犯罪が増加しているのかどうかについての統計はありません。ただ、子どもが暴力的になってきた、あるいは社会全体が暴力的になってきた、というのは実感としてあります。原因は色々あると思います。急激なスピードで提供される新しい情報を適切に処理できない人々が増えているのにもかかわらず、社会的なセーフティーネットがまったくなく、犯罪を助長している社会的背景が重要な問題だと思います。1990年代から自由主義経済になり、人々の生活スタイルはとても早いスピードで変わりました。また、いわゆる中間層・富裕層が育ち始め、社会の中で「権力(お金)を持つ人たち」と「弱い立場に追いやられる人たち」との二分化が進んでいます。権力を持てば、何でもしていいと思う人たちがいるのは残念な事実です。お金を持てば、権力者を動かせるのもまた事実です。



ポルノと性犯罪との関連

性犯罪を撲滅することは不可能だけれど、減らすことは出来ると思います。大人の性犯罪を減らすのはとても難しいですが、子どもの性犯罪を減らすためには、まずとにかくポルノをコントロールすることが優先事項です。その理由は、子どもがレイプする場合、ほとんどの場合ポルノを見ているからです。ポルノを見た子どもたちは、その内容などちゃんと分からないまま、同じことを試してみようと自分たちよりも幼い少女を狙うのです。レイプが犯罪かどうかも分からず、自分が処罰されるかもしれないなど考えないまま、自分がビデオで見た内容をそのまま実践しようとするのです。他方、大人の男性の場合は、女性に対する差別や嫉妬心、権力を示したい、色々な理由があります。性犯罪の事件を取り扱っている上での印象ですが、大人の性犯罪の場合、ポルノと直接関連する事件は少ないと思います。ないわけではないものの、やはり女性に対する差別感情が第一にあると思います。

結論的には、レイプを撲滅するのはとても難しいです。どうすればいいか、簡単な解決法があればいいと思いますが、きっと無理でしょう。時間もかかるし、地道な努力が必要だと思います。でも子どもたちが犯罪を犯さないように、とにかくポルノの取締りをきっちりしていく必要があると思います。


中川香須美コメント

ちょっと性犯罪の問題とずれますが、若者たちが、ポルノなどの性的なフィルムに対してオープンになってきている点についてわたしの経験を紹介したいと思います。わたしはジェンダー学の授業で「リリア・フォーエバー」というスェーデンで作成された人身売買の映画を上映するのですが、これに関して面白い逸話があります。映画の内容は、かつてのソ連で育った16歳のリリアが、母親に捨てられ、トラフィッカーにだまされてスェーデンに売られてしまい、何度もレイプされ、最後には自殺するという話で、実話に基づいて作成された映画です。この映画の特徴は、主人公が暴力的にレイプされるシーンが何度か出てきて、それらが全て被害者の視点から撮影されている点にあります。

最初に映画を上映したのは2年前でした。その時、この暴力的なシーンが始まったとたん、ほとんどの女子学生が教室から出て行ってしまったのです。わたしは残った男子学生たちと最後まで映画を見るという、あたかも男子校の教員になったかのような経験をしました。その授業の後日、女子学生たちになぜ出て行ったのかを聞くと、「性的なシーンは、見るだけでも悪いことだと思った」ので、急いで退席したそうです。それを聞いて、確かに衝撃的すぎるシーンだったかもしれないと反省した私は、その後暴力的なシーンは全て早送りして見せないようにしていました(年に3-4回異なる学生を対象にして上映するのです)。でもやはり、暴力的なシーンを被害者の立場から見ることで、こういった犯罪は撲滅しなければならないとちゃんと分かってほしくて、つい先月(2008年1月)上映した際には、2年ぶりに映画を全部上映してみました。上映前に、「男性は目を開けてしっかり最後まで見るように。ただ、性犯罪を含む暴力的なシーンがあるので、女性は見たくなければうつむいていなさい。でも人身売買のことをより理解するために、最後まで教室には残っていてほしい」と話しました。すると、驚いたことに、女子学生も最後までしっかり見て、誰一人途中で下を向いたり退席する学生はいませんでした。たった2年間で、これほど女子学生たちの許容力が変わるのだとびっくりしました。もちろん、いろいろな要因があっての結果だとは思いますが、さまざまな情報に慣れてきていることも一因だと思います。

写真は、リリアフォーエバーのDVDカバー
© http://www.filmweb.no/index.jspより


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