カンボジアだより シーライツ

国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクト・スタッフによるカンボジアの子どもとプロジェクトについてのお便り

カンボジアの教育制度と子どもの権利条約(その4) ー政府の取り組みー

2008年02月04日 17時51分45秒 | Weblog


こんにちは。中川香須美です。今回は、カンボジアの子どもたちに義務教育の機会を平等に与えるための政府の取り組みを紹介します。

1970年代から本格的に内戦に突入したカンボジアですが、1991年のパリ和平協定を経て93年に総選挙が実施されました。その後採択された現行のカンボジア王国憲法によって、全ての国民に9年間の教育の機会を提供することが国の義務として保障されました。さらに王令によって、カンボジア王国の小学校は6歳の児童を学校に就学させる義務があると定められています。

また、カンボジアがすでに批准している国際人権法によっても、子どもたちに9年間の教育の機会が提供されることが政府の義務として認識されています。その柱となる国際法は、国連女性差別撤廃条約の第10条、国際子どもの権利条約第28条などです。

2000年に国連総会で採択された国連ミレニアム開発指標に挙げられている「全ての子どもに義務教育を」という第2番目の目標は、カンボジア政府にも非常に重要な課題であるとみなされ、「全ての子どもに教育を(Education for All, EFA)」のスローガンの下に2015年までに全ての子どもが義務教育を受けられる体制を築くことが教育省の業務の中でも優先事項として位置づけられました。

実はわたしが勤務している大学は、現在カンボジアの教育大臣コール・ペーン博士が設立した大学です。わたしが教員として採用された2003年当時、大臣はまだ大学総長だったので、職場で気軽に声をかけていただいたり、教授会でお話する機会が頻繁にありました。今は学生総数が1万人程度になった巨大な大学ですが、当時はとても小規模な大学で、教員も職員も全員知り合いという職場だったのです。職員は教育大臣をクメール語で「おじいちゃん(ター)」と呼ぶよう言われているほど、家庭的な雰囲気が今でも続いています。そういった関係から、最近、教育大臣が日本からの視察団と食事される際に通訳を依頼されたことがあり、その時に大臣が政府の「全ての子どもに教育を」の目標の達成状況についてお話されていました。その中で、ご自身がこれまで4年以上にわたって大臣として勤務されてきた最大の成果として、義務教育を受ける子どもの数が増加している点を挙げて説明されました。教育省の職員が、きわめて限られた予算の中、ユニセフや諸外国、特に日本のNGOなどからの支援を受けて、一生懸命に目標に向かって仕事に励んだ結果だとのお話でした。また、国連ミレニアム開発指標である全ての子どもたちに義務教育の機会を与えるという目標は、他の途上国では悪戦苦闘している目標だそうです。12月22日の国際子ども権利センターの勉強会に参加してくださった方の中に、ブルキナファソの義務教育問題に取り組まれた方がいらっしゃって、「カンボジアの就学率のほうが余程高い!」とおっしゃっていたのが私にとってはとても印象的でした。カンボジアはすでに9割以上の子どもが就学しているとの統計が上がっていますが、ブルキナファソでは5割にも満たないとのことでした。カンボジアは2015年にはほぼ目標(100%の子どもが就学)を達成できそうな成果を挙げており、教育大臣は他の途上国から招聘され、カンボジアの取り組みをご紹介されているとのことです。

他方、学校に通う子どもの数が増加していることによって、教室数が圧倒的に不足することにつながっていたり(小学校・中学校あわせると2万教室以上不足している)、地方での優秀な教員の確保が困難なことなどをお話されていました。全ての子どもが学校に通えるようになるのはすばらしいのですが、その子どもたちを受け入れる体制がまだまだ遅れているのです。また同時に、小学6年生にならずに退学してしまう子どもたちも数多くいるのです。せっかく1年生に入学できても、読み書きの基礎を学んだら、家庭の事情などによって学校を辞めて両親の手伝いをしたり出稼ぎに出されてしまうのです。そういった子どもたちに、また学校に戻ってくるように声をかけたり、あるいは人身売買の被害から身を守るようにアドバイスしているのが、国際子ども権利センターが支援する「学校を拠点としたネットワーク」の活動です。学校をやめた子どもたちは、情報を得る機会が限られているため、ネットワークの子どもたちが伝える情報はとても重要です。少なくとも、自分たちを守る手段を学んでおけば、被害を防ぐことにつながるからです。


写真は子どもの権利条約を学ぶ子どもたち 
@国際子ども権利センター