ココロと機械

ココロの病を患う私の気ままなブログです

山の中

2019-02-20 13:46:17 | ブログ

一人で山間の高い杉ヒノキの植林の中を通る半分林道のような道を
進んでいるとポツポツ家がでてきて「ああこんな所にも住んでる人
いるんだな」なんて思いながら右手にちょっと大きな鳥居を見なが
ら左折しようと思ったら、いきなり巨大なダム工事でも使うような
黄色いオフロードダンプがバックで出てきて急ブレーキ。

おお? 何だこんなところで何か工事か? 何の看板もなかったが
な、と思って少し下がってみていると、右手の神社の階段の上のほ
うから今度は大きなブルドーザーが出てきてそのダンプに土砂と言
うか瓦礫と言うか、積み込んでいた。
どうやらこの神社を解体しているようだ。

ちょっと気になったので、車をもう少し下げて民家の前に停めてカ
メラ抱えて様子を伺いにいくと、地元の奥さんとか、子供とか、ど
うやって学校に通っているんだろうかと思うけれど、中学生くらい
の女の子とか、やはり集まってその作業を見ているので話を聞いて
みると、ここはもうじきダムに沈むのでこうやって建物などを壊し
ているのだと言う。

「私達はまだ住めるけれど、どの道もうじきにここを離れて移住し
なければならないんだよ、お国のやり方は無下だ」と言う。
この見事な植林も半分以上無駄に切り倒されてしまうのだとか。

そうか、この集落はダムに沈むのか、だからあんな大掛かりな機械
が動いているんだな、しかしこれはもったいないな、と写真撮って
いたら子供たちが次々と邪魔をするわけではないけれど、カメラの
前に出て顔を出したりするので、だんだん子供写真撮影になってし
まった。

だが、この子供たちにとってもここの住人たちにしてもここは故郷
であるので、ふと「みんなで写真撮りませんか?」と言うと「いい
んですか? せっかく写真撮りに来られたのに子供たちが邪魔をし
てすみません」というので「いやいや、ここでみんなで記念写真を」
と言うとお願いできるんですか、と言うので快諾。

車から三脚を降ろして担いできて、この工事現場の一番見えない民
家の並んでいるところで皆さんに並んでもらって「じゃあいきます
よ!」と言ってカチリ。
みんな自分の故郷がなくなると言うのに満面の笑顔で答えてくれた。

「ここ離れられると言われていましたが、新しい住所でもここでも
いいので、写真が出来たら皆さんに贈りたいので誰か代表の方でも
いいのでご住所を教えていただけませんか?」と言うと「まだ半年
くらいは住んでるからここに」と言って一人の奥さんが住所と名前
を書いてくれた。

4ツ切りくらいにして、何人いたかな、10枚はいらないだろうけ
れどそれくらい送るとするか「一週間か十日で届くと思いますよ」
と言ったら「ありがとうございます、良い記念になりました」と言
われた。

それからまだ暫くして、わたしの車のナンバーを見て「あれ名古屋
からですか、こんなところまで、やっぱりダムの事で来られたんで
すか?」と聞かれて「いや、わたしはダムのことは何も知らずにた
だフラフラしていただけですよ」と言うと、「残念なところに良い
ときに合えてよかったです」と礼を言われた。

「どのみちこの先工事で通行止めですから、来た道戻られたほうが
いいですよ」と言うのでそうする事に。
帰り際、スクールカットの中学校くらいの女の子が「おじさんこれ
あげる」と言ってスマホにつけてあったマスコットを外して私にく
れた。

「ありがとうね、写真送るから、じゃあね」と言って皆に見送られ
るような形で暗くなりかけた山道を下ってきたが、こういうことも
たまにはあるもんだな、と思いながら貰ったマスコットを眺めなが
ら帰ってきて、さすがにこれは家のプリンターでプリントするのは
まずいなと思ってフジカラープリントにファインプリントで10枚
焼いてもらって送って置いたら、一ヶ月くらい経ったころだろうか、
少しの手紙と大量の林檎を送ってくださった。

それから暫く経ったけれど、あの集落はもうダムに沈んだのかな、
まだかな、でももうじきどの道ここをどかなければいけないと言っ
ていたので、もういないのかもな、微妙なところだけれど、わたし
はもう一度そこへ行って見ようとは思わないのだ。
あのときの光景と思い出があの場所であって、今はもう違うかもし
れないから、あの場所はあの場所のままで心の中に残しておきたい
からである。

それと、あの場所にいたみんなにもう合えないかもしれないし、行
かなければそれもそのまま心の中に残るからだ。


本日の種:フジフイルムXF1
コメント
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