野散 NOSAN 散種 野の鍵 贈与のカオスモス ラジオ・ヴォルテール

野散 のさん  野を開く鍵 贈与のカオスモス 散種 混沌ー宇宙 想像的・歴史的なもののジャンルなき収蔵庫をめざして 

鶴見俊輔 べ平連 思想(ことば)のお守り的使用から、対話の快楽力へ

2015年07月24日 | ジャーナリズム 大森実 ・孫崎

            ▲ 思想の科学研究会の共同研究の成果、思想の科学、鶴見俊輔さんの著作・対談など

 

鶴見俊輔 べ平連 思想(ことば)のお守り的使用から、対話の快楽力へ

 

対話をしようじゃないか

ぼくとあなたは、敵同士じゃないのではないか

そういって、鶴見俊輔は、はじめから、自分の鎧を相手のみえるところに置いて、対話をはじめる。

すると、やがて、相手は、自分が衣の下に纏っていた鎧がだんだんと恥ずかしいことのように思え、鶴見俊輔と同じように、相手の見えるところに鎧をはずし脇において話しをはじめる。

 

1969年の頃、わたしが、鶴見俊輔や、小田実や吉川勇一、清水和久らのべ平連のデモで学んだのは、そのことだった。

デモの途中で、べ平連のデモ隊は、道歩く市民に向かって一緒にデモをしませんかと呼びかけ、また、びっくりしたことだが、道を塞ぐ若い機動隊の人々の隊列にまで、話しかけはじめていた。・・・・・あなたのふるさとはどこ?・・・どうしてここにいるの、何を守っているの、どうして盾を持っているの?国ってなあに?

[本当の対話というものは、自分でも知らなかったし、自分だけでは考えることもできなかったような考えを思いつかせてくれるものであり、そして私は時には自分が、自分自身にも未知な道、私の言述(ディスクール)が他人よって投げ返されながら、初めて私のために聞きつつある道を歩んできたように感ずる」  モーリス・メルロ=ポンティ 滝浦静雄・木田元 訳 『見えるものと見えないもの』 1989 みすず書房(25頁)

後になって、モーリス・メルロ=ポンティ の上のことばに出会ったとき、鶴見俊輔とその仲間に感じていた、「おだやかで、ゆるやかだが、ゆるぎのない平和への希望の力強さ」は、このことに関わるものだと思った。

1969年頃、米兵に向かって、ヤンキー帰れ、アメリカ帰れ、安保粉砕の怒号が、当たり前の時代だった激しく敵対する学生のデモ隊。

地方の小市で育った私はその頃どこにでもいる、上のようなスローガンを繰り返す、直情型のベトナム反戦少年だったのだが、小田実や鶴見俊輔のベ平連のデモや、新宿地下広場のフォーク集会に参加するうち、すこしだけだが、表現の中にある対話の力のようなものを感じとりはじめていたのかも知れない。

同時代、ベトナム戦争からの脱走兵の支援を発想し、諦めず、わずかではあっても、米国兵が日本の地で反戦の思想をもつ青年に生まれかわれることを実現したべ平連・鶴見俊輔ら有志の人たちとつながりの輪。日本の既成政党の枠ではとうていできなかった、市民の構想力の成長と成果をはっきりと考えさせてくれた。1960年代後半には確かに「想像力の権力移動」がおきていたのだと思う。これは世界的にも同時代性をもっていたように思える。

 

▲ 小田実・鈴木道彦・鶴見俊輔 『脱走兵の思想』 1969年 太平出版社

上の本から、ケネス・C・グリックス(金鎮洙 キム・ジンスウ)という、1947年朝鮮ソウル生まれで、1967年東京で脱走した21歳の青年の声明を紹介したい。

私の名前は金鎮洙(キム・ジンスウ)といい、朝鮮のソウルで生まれました。私は朝鮮戦争による戦争孤児養子としてアメリカに渡り、ケネス・チャ-ルズ・グリックスという名前をもらいました。現在21歳です。アメリカに10年住んで、私はアメリカの市民になりたいと思うようになりました。しかし、私がアメリカの軍隊に入って一兵士となり、最初に朝鮮、それから日本、最後にベトナムに送られて、まず南朝鮮のおそるべき現状を見、同時にそれがどうしてそのような状態にならざるを得なかったかに思いをいたし、その上、南ベトナム戦争によってつくりだされている情況ーしかもその戦争をこれほどまでに悲劇的なものにする上で、アメリカが決定的な役割を果たしてきたし、またしつつあるわけですがーを見、そして、もしもアメリカが朝鮮でやったのと同じようなやりかたでベトナムでもその目的をはたしたとしたら、ベトナムの人びとにとってその運命がもたらす未来はどういうものになるかを考え、その未来とはとりもなおさず、アメリカが今ベトナムでやっているような干渉の結果として現在の南朝鮮で見られるようなものに違いない。そういう未来について考え、そして私もそれにまきこまれ、それに従事し、そして私自身もその一部分となった冷酷無惨な軍事機構によってもたらされたベトナム人民の苦しみを目撃し、それに荷担するに至って私はついにアメリカ合衆国の市民になる、すなわち実際は犯罪者になるという望みも興味もないことを知るようになりました。そのような選択をしたからには、私はベトナムではまりこんでいる現在のアメリカの行き方を変えるために何かをしなくてはならないと心に決めたわけです。なおその上に、私は、こんにちの朝鮮そのもので悲劇をなくすのに役立ち、思い切った変革を展望の中にもたらす上で助けとなり、それによって現在の南北両朝鮮の人民に再統一が受け入れられるようにするような、そういった何事かを行いたいと決心しました。そこで私は、この気持ちを伝えるために脱走という道を選んだのです。」 小田実・鈴木道彦・鶴見俊輔 『脱走兵の思想』 (206~207頁)

最初に駆け込んだのは、日本にある「キューバ大使館」に亡命を求めた。しかし日本の法律上、キューバ大使館から直接外国に亡命することが不可能であることを知り、別な道をさぐり出す。

「・・・・私は日本の中に私の政治的決断に同感される人びとがいることを知っていたので、そういう人びとの助力を求めたならば、彼らは私の日本脱出をきっと助けてくれるであろうということを完全に確信して、私はキューバ大使館を離れたのです。

そこで、私はべ平連(「ベトナムに平和を市民連合」)に助力をあおぎました。そしてべ平連の人たちは、私の脱出を成功させてくださいました。べ平連一人ひとりの、そしてまたそのさまざまなメンバーに、私は感謝を捧げたいと思います。これらの人びとの助けがなかったならば、私が、日本から脱出できるかなどということは考えられもしなかったでしょう。この組織の創設の目的となっている事業は、日本人民の全体によってとりあげられ、競い合われるに違いありません。    1968年1月16日 」  小田実・鈴木道彦・鶴見俊輔 『脱走兵の思想』 (208頁)

 

鶴見俊輔とその仲間たちに敬意を払うとともに、目前にある戦争のできる普通の国のからくりを市民とともに、「対話の快楽力」で見破っていこう。

鶴見俊輔が『思想の科学』でつづけた「語りつぐ戦後史」の長い対談シリーズは、雑誌連載の後、本にもなっているが、遠くギリシアの「シンポジオン」を引きつぐ、哲学の本来の系譜を真芯で引き受ける試みであったのではないだろうか、というのが私の見立てだ。

戦後日本人は鶴見俊輔が衒学・知的遊戯を排したすぐれた哲学・思想家であることに気がついていなかったのじゃぁないだろうか。古典ギリシア学を目指してアメリカに渡った小田実が、自己流改造を加え持ち込んだ、「ティーチ・イン」というのも同系譜にあると思う。個人の発想と能力の限界を超える動的な働き・愉快な冒険こそ、「対話」という人類的快楽力なのではないだろうか。

 

追記  2015年7月26日

鶴見俊輔の追憶にちなんで、べ平連活動の『脱走兵の思想』の紹介をしたのだが、思い出すことひとつ。

ケネス・C・グリックス(金鎮洙 キム・ジンスウ)という、1947年朝鮮ソウル生まれの戦争孤児だった。ベトナム戦争を体験してきた脱走兵の会見を『脱走兵の思想』から引用したのだが、以前、グレック・グランディン『アメリカ帝国のワークショップ』 2008年、明石書店 を紹介したことがあった。(2013年11月13日当ブログ)

そこには、(金鎮洙 キム・ジンスウ)とは違った運命をたどった、グアテマラ出身のグエティレスという名の青年のことが書かれてあった。

「グアテマラの対ゲリラ戦争で両親を失ったグエティレス(という名の青年)は、グアテマラ市の路上で孤児としての生活、メキシコを経て、合衆国への2000マイルの旅、そしてロサンゼルスの少年裁判所を生き延び、ただイラク戦争での最初のアメリカ人死者の一人・・・全員がメキシコ市民でもあった三人の海兵隊の仲間とともに・・・・なったにすぎなかった。」

『アメリカ帝国のワークショップ』 2008年、明石書店 (265頁)

朝鮮戦争・ベトナム戦争・ラテンアメリカの軍事独裁と内乱・イラク戦争は、犠牲者構造が、さらに次なる戦争へと循環していく冷厳な構造がある。

戦争で傷ついた人間を引き受けるような姿をみせつつ、さらに、侵略戦争の機械として戦争孤児たちを投入していく「常態としての戦争国家アメリカ」の戦争動員システムが見えてくる。

鶴見俊輔も小田実もアメリカ留学組であるが、議会民主主義の嘘と不完全さを見抜き、西欧の起源を遡る、ギリシアの「対話(ダイアローグ)の生産性に着目し、「対話」を、その生涯の活動の源泉と根拠に活動したように思う。

『現代思想』という雑誌があるのだが、鶴見俊輔も小田実も、「現代思想という新商品」にはならないのか、ほとんど無視されている。

ジャック・デリダやドゥルーズ、柄谷行人らは、何度も特集されているのだが、これはいったいどうしたことだろう。

『現代思想』誌の猛省を促したい。

 

 

 



最新の画像もっと見る