見もの・読みもの日記

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唯一無二の作家/諸星大二郎トリビュート(河出書房新社)

2021-11-18 21:37:12 | 読んだもの(書籍)

〇『諸星大二郎:デビュー50周年記念トリビュート』 河出書房新社 2021.9

 刊行後すぐ購入したのだが、ゆっくり読みたかったのと、ビニールのパッケージを破らないと中が開けられない仕様になっていたので、ずっと飾って表紙を眺めていた。表紙は、総計18人のマンガ家が描いた諸星作品のキャラクターの詰め合わせになっていて、これだけで毎日見ていても飽きないのだ。

 意を決して封を開けてみたら、冒頭には諸星先生掻き下ろしの「寄稿者への逆トリビュートイラスト」があって、諸星タッチのラムちゃん、諸星タッチの厩戸王子、諸星タッチの吾妻ひでお先生!(何を言ってるか分からないだろうが…)など、悶絶してしまった。

 トリビュート作品は、長いもので16ページくらい、イラスト1ページの場合もあるが、分量に関係なく、どれも熱量が高い。吾妻ひでお先生は特別参加で、吾妻氏から諸星氏へ贈呈された色紙2枚を、吾妻氏のご遺族の許可を得た上で掲載したとの注記がついている。2013年の日付のあるほうが栞と紙魚子で、2014年の日付は瓜子姫。『瓜子姫とアマンジャク』は好きな作品なので嬉しいなあ。

 また、トリビュートは、諸星作品にインスパイアされた完全な創作もあれば、エッセイふうに諸星作品の魅力を語っているものもある。作家によっては「諸星作品との出会いは?」「特に好きなシーンは?」などの質問に、文章で答えてもいる。高橋留美子さんと近藤ようこさん、さらに江口寿史先生も『不安の立像』の強烈な印象を語っていた。これは、私もわりと早い時期に読んで、よく覚えている諸星作品。

 唐沢なをき氏が、中学1年生のとき、近所の書店で手に取った「少年ジャンプ」で『生物都市』に衝撃を受け、買おうと思ったらお金がなかったので、立ち読みで目に焼き付けて帰ろうとした、という思い出話を書いていて、笑いながら共感した。昭和の子供はそうだったよ、名作マンガを立ち読みや、友だちから借りて読んだ。私は床屋や病院の待合室でもずいぶん読んだな。

 そして当時の「少年ジャンプ」は『侍ジャイアンツ』とか『アストロ球団』を載せる一方で、諸星作品を載せていたのである。唐沢氏描く「ど次元くん」が「ぼくは諸星作品に出てくるかわいいものが好きなんです!」と言って、いろいろ挙げる中に開明獣(孔子暗黒伝のキャラ)がいて、「連載当時『1・2のアッホ!!』にも出てきた」とあって大笑いした。あったかもしれない~。唐沢さん、『狗屠王』で芸をしてる犬(怖いのだ、この話)とか挙げていて、目のつけどころと記憶力がすごい。藤田和日郎氏も、『異界録』で中国志怪の本への興味をかきむしり、と書いていて、やっぱり私だけじゃないのね~と思った。

 高橋葉介氏は『西遊妖猿伝』の悟空の殺陣が好きだという。うれしい。私もあの作品のアクションシーンは、怪奇シーンと同じくらい大好物である。とり・みき氏は「諸星先生がときどきお描きになる地球の底が抜けたようなギャグ」への偏愛を語り(分かる)、江口寿史氏は「出てくる女が総じてエロい」と語る。着眼点はさまざまだけど、どの言葉にも愛が感じられて幸せ。

 巻末の諸星先生の描き下し「タビビト」は、マンガ家人生の淡々とした振り返りにも読める。「メジャー」でも「マニアック」でもない「よくわからん方面」へ、ひとりでボソボソ歩いてきて、まだもうちょっと歩いてみようという。先生、どうぞこれからも楽しみながら、長く歩き続けてください。編集者の穴沢優子さん、素晴らしい1冊をありがとうございました。


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