見もの・読みもの日記

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ギャラリートーク・明治の学校建築~高等教育施設を中心に(藤森照信、池上重康)

2018-11-09 22:59:51 | 行ったもの2(講演・公演)
国立近現代建築資料館 ギャラリートーク『明治の学校建築~高等教育施設を中心に』(2018年11月3日 14:00~、藤森照信、池上重康)

 企画展『明治期における官立高等教育施設の群像-旧制の専門学校、大学、高等学校などの実像を建築資料からさぐる』(2018年10月23日~2019年2月11日)のギャラリートーク全5回シリーズの第1回を聴きに行った。初めて聞く資料館で、どこにあるのだろう?と思ったら、池之端の旧岩崎邸庭園に隣接していた。「開館5周年記念」の企画展というから、2013年にできたのだろう。むかしから藤森先生ファンの友人を誘って、湯島でランチのあと、資料館へ向かった。

 展示室のある2階へ上がると、階段前のスペースに50席ほどの椅子が並べてある。ここが会場らしいが、ほとんどの椅子が埋まっていたので、脇のソファをキープして待つ。立ち見を決めたお客さんも10人くらいいた。やがて関係者一行が階段を上がってきて、藤森先生が「え、ギャラリートークって展示品の前でやるんじゃないの」と驚いている。私もそう思っていた。そして、せいぜい1時間くらいかと思ったら、司会の川向正人氏から「約2時間」という発言があって、嬉しいけどびっくり。

 はじめに藤森先生がフリースタイルで喋り始める。いちおう参加者には、展示資料を掲載した小冊子が配られていたので、時々それを参照した。以下、気になって書き止めた発言を写しておく(記憶違いがあったらご容赦)。

 日本の学校建築は、全て政府が面倒を見たことが特徴である。小冊子の「文部省組織・人物解説」というページに掲載されている最初の三人、山本治兵衛(1854-1919)、久留正道(1855-1914)、山口半六(1858-1900)は重要。特に山口半六は、大学南校出身でフランスに留学し、文科省に入る。文科省では大臣から数えて三番目に偉かった。

 日本の近代初期の建築家には、山口半六、辰野金吾、妻木頼黄(つまき よりなか)がいる。山口は文科省、妻木は大蔵省で活躍したが、辰野は工部大学校で多数の弟子を輩出した。その結果、日本の近代建築は全てコンドル(辰野の師匠)に行きつくと言われる。

 (職業的な)建築家は「木」をやらないのが世界の常識である。しかし日本の建築家は違う。はじめは「擬洋風」という不思議な建築をやるが、次第に日本の骨組み技術に近代的な「トラス」を加味した木造洋風建築をつくり出す。

 次に北大の池上重康先生が、展示資料をパワーポイントで紹介しながら解説。時々、藤森先生がフリースタイルで質問やツッコミを入れる。池上先生いわく、小冊子の「明治期官立高等教育機関の変遷」のページを見ると分かるとおり、北海道大学は札幌農学校から連綿と続いている。したがって、どんな資料も北大構内にある。どこもそうだと思っていたら、津軽海峡以南の大学は全く違った。たとえば東大では、医学校のものは医学部に、工部大学校のものは工学部にある。施設部には明治30年代以降の図面はあるが、それ以前はない。「ある」ことは分かっていても、どこにあるか分からない資料が多い。

 というわけで、投影写真を見ながら「これは新発見ですね」「簿冊を1枚ずつ開いていったら、あったんですね」みたいな資料探しの苦労話が興味深かった。また古い建築なら全部いいわけではなく、「これはバランス悪いですねえ」など辛口の批評もあって面白かった。

 建築家は必ずしも図面に署名を残さないので、誰が描いたものか見極めるのはなかなか難しいらしい。「ここにハンコが」という会話を聞いたので、あとで展示資料で探したら、小さな三文判で姓だけの訂正印が押されていたりした。明治年間に東大本郷キャンパスの各校舎の新築に関与したのは、文部省技師の山口孝吉(1873-1937)で、のちに東京帝国大学の営繕課長になった。営繕課長って、現代の施設部長につながる役職だろうが、すごい人がいたんだなあ。

 充実した「ギャラリートーク」が終わって、さて展示を見ようと思ったら「閉館は16時30分です」という。ちょっと待て。意外と広い展示室、展示資料の多さにうろたえる。結局、これはどう頑張っても30分では見切れないとあきらめた。展示はもう1回見に来てレポートすることにする。

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