見もの・読みもの日記

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春から幸せ!/へそまがり日本美術(府中市美術館)

2019-03-19 23:25:49 | 行ったもの(美術館・見仏)
府中市美術館 企画展『へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで』(2019年3月16日~5月12日)

 恒例、府中市美術館の「春の江戸絵画まつり」に行ってきた。何しろ昨年の『リアル:最大の奇抜』展のときから、来年のテーマは『へそまがり日本美術』だと予告されて以来、1年間楽しみにしていたので、さっそく見てきた。いや楽しかった! 冒頭の仙厓義梵の『豊干禅師・寒山拾得図屏風』で、いきなりやられた。なにこの狂暴なまでの稚拙さ。巻き髪で、異人のような寒山拾得。鎌田くんみたいなゆるゆるの虎の背中に乗った豊干禅師。まわりに野良猫のような子虎が三匹。笑っていいのか、畏れるべきか、呆然とする。東京ではあまり見たことのない作品だなあと思ったら、福岡の幻住庵所蔵だそうだ。

 それからしばらく禅画(だいたい墨画)が密に並ぶ。この展覧会は、印象を大事にしたほうがいいと思うので、どんどん見ていき、あとで戻ってきて、画家の名前を確かめたり、解説を読んだりした。春叢紹珠の『皿回し布袋図』は、何度見ても不意打ち的に可笑しい。惟精宗磬の『断臂図』の慧可はやさしいゴリラみたい。風外本高の『南泉斬猫図』は、ギャグ漫画みたいにスパッと胴を両断された猫が地面に転がっている。両手いや前足を大の字に広げ「やられた」という風情の猫の表情に吹き出してしまう。これも香積寺というお寺の所蔵。仙厓さんの『丹霞焼仏図』『蜆子和尚図』など、禅画ってイメージの宝庫で、それをこんなに自由に展開していく画僧たち、すごい。

 禅僧の作品に混じって、狩野山雪の『松に小禽・梟図』は異彩を放っていた。松の抽象化された枝ぶりが山雪だなあ。禅画の最後を飾るのは芦雪。芦雪の『寒山拾得図』は、拾得の足元に小さな子犬の群れが描き込まれている。芦雪の子犬の「ゆるすぎ」「リラックスしすぎ」問題は、隣りに円山応挙の子犬を並べてみるとよく分かる。

 続く「俳画と南画」も好き。遠藤曰人『蛙の相撲図』にニッコリし、呉春のトボけた『人物図』で笑いが込み上げ、小川芋銭の『河童百図・幻』で噴いた。佐竹蓬平のゆるい『山水図』はどこが「へそまがり」か、応挙の『山水図』と比べてみる趣向になっている。何でも応挙がスタンダードなんだなあ、と苦笑。

 次に、稚拙とヘタウマをテーマにした様々な作品。江戸絵画だけでなく、アンリ・ルソーの『フリュマンス・ビッシュの肖像』(世田谷美術館)があり、ルソー風の三岸好太郎作品が2点。三岸好太郎の名前は、札幌で暮らしたときに覚えたのに、道立美術館には行ってみなかったことを後悔している。80年代に一世を風靡した「ヘタウマ」マンガもあり。

 さて、いよいよ本展の白眉(だと思う)「お殿様の絵」。家光の『兎図』『鳳凰図』もいいけど、家綱も好き。ニワトリが好きだったらしく、繰り返し描いている。「上様はどこまで本気なのか」という、直球のキャッチコピーに悶絶した。臼杵の藩主・稲葉弘通の『鶴図』には見覚えがあったが、調べたら展覧会でなく金子信久さんの著書『日本おとぼけ絵画史』で見て、印象に残っていたようだ。大好き。ちなみに展示図録には、これを京都・無鄰菴の床の間に掛けた写真が添えられており、意外とマッチしている。でも、やっぱり可笑しい。

 次に造形の奇抜さ。中村芳年の『十二ヶ月花卉図押絵貼屏風』は華やかで愛らしくめでたいが、かたちのデフォルメがけっこう大胆。最後は「苦みとおとぼけ」で、いいテーマだなあと思った。特に「苦み」。長沢芦雪の『鶏図』(シビれるような強面)も、やるせない『老子図』も好き。デロリの祇園井特は『墓場の幽霊図』がよかった。「おとぼけ」には、私の好きな
林閬苑の『鹿図』。曽我二直庵の『猿図』は「おとぼけ」のカテゴリーなのだが、私は「苦み」を感じてしまう。宇宙人みたいな怖さもある。

 というわけで、後期もぜひ行きたい。公式図録は、これら「へそまがり」作品を床の間に掛けてみた写真が複数あって、たいへん興味深い。仙厓さんの『豊干禅師・寒山拾得図屏風』を幻住庵の座敷に立ててみた図や、京都・麟祥院の海北友雪『雲竜図襖』(後期はこれが来るのか!豪華!)の修理の現場など、貴重な写真も載っている。拡大図版で見ることで、なるほど、ここがへそまがり!と納得のいくものも多く、お勧めである。金子先生、春から幸せな気分をありがとうございます。

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