見もの・読みもの日記

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江戸のエンタテイメント/馬琴と国芳・国貞(太田記念美術館)

2017-06-09 23:03:23 | 行ったもの(美術館・見仏)
太田記念美術館 企画展『馬琴と国芳・国貞 八犬伝と弓張月』(2017年6月2日~25日)

 なんと今年は曲亭(滝沢)馬琴(1767-1848)の誕生250周年なのだそうだ。初めて知った。他にどこかの博物館や文学館で記念企画展はないのだろうか。ないとしたら嘆かわしいことだ。本展では馬琴の代表作『南総里見八犬伝』と『椿説弓張月』にかかわる浮世絵約80点を紹介する。どとらも小説(読本)として読者を獲得しただけでなく、歌舞伎の題材にもなった。武者絵を得意とした歌川国芳と、役者絵で人気を博した歌川国貞の作品が最も多い。

 まずは『八犬伝』から。最もよく描かれるのは「芳流閣」の場面。三層の物見櫓の屋根の上で、犬塚信乃と犬飼見八(現八)が、賊と捕り手として相まみえるシーンである。縦長の画面に遠近法を利かせた、月岡芳年の『芳流閣両雄動』は大好きな作品。赤い破風がつくる鋭角な三角形、その流れ下るような稜線と、足を踏ん張ってのけぞる見八の体の軸との交差が、めちゃくちゃカッコいい。芳年の作品のもとになったと思われるのが、歌川国芳の『八犬伝之内芳流閣』で、舞台仕立てはよく似ているが、国芳にしてはあまり面白くない。国貞は、物語の一場面というより、歌舞伎の舞台として描いたらしく、人物(役者)の顔立ちに気をつかっている。『八犬伝』に歌舞伎作品がある(スーパー歌舞伎以外に)ということを知らなかったので、へええと思った。

 犬坂毛野(毛乃)もよく描かれている。智略にすぐれ、女性とも見紛う美貌の持ち主。犬田小文吾とペアで描かれたものが多いと思ったら、女性として小文吾に結婚を申し込んだエピソードがあるのだな。八犬士以外にも、伏姫、玉梓、浜路、網干左母次郎など、『八犬伝』の登場人物がだいたい分かるのは、私が1970年代の人形劇『新八犬伝』を見て育ったためである。その後、ずいぶん大人になってから、岩波文庫の『八犬伝』全10冊も読んだ。正直に言って前半はものすごく面白いが、後半は失速する。さんざん勿体をつけて登場する八犬士の最後のひとり、犬江親兵衛が全然魅力的でないのだ(個人の感想です)。長編小説ってこういうものかなあと思っていたけど、もしかすると「仁」(親兵衛が体現する)は小説にならない、と馬琴は言いたかったのではないか、とも考えるようになった。

 『椿説弓張月』は原文を読んだことがないが、かなり忠実な全文訳を読んでいる。史実と創作の混ぜ込み具合が絶妙で、最後まで小説の結構が崩れない、見事な小説だと思っている。国芳の『讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」は、浮世絵の名作だが、どんな場面を描いたものかが分かると、一層味わい深い。どんなに離れても切れない、讃岐院(崇徳院)と為朝の絆の強さに泣けるんだなあ。ほかに好んで描かれた「為朝強弓図」は、伊豆大島に流された為朝が、数万騎を乗せて攻め寄せた軍勢を一矢で射返した場面。為朝の側から遠くの軍船を描いたものもあれば、逆の構図もあり、絵師の工夫が感じられて面白い。あと、アメコミみたいに派手な表現が大好きな国貞の『蒙雲国師』が見られたのも嬉しかった。もっと馬琴は読まれてほしいなあ。面白いんだから。
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