見もの・読みもの日記

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タイトルに偽りなし/京都の歴史を歩く(小林丈広、高木博志、三枝暁子)

2016-02-16 23:50:01 | 読んだもの(書籍)
○小林丈広、高木博志、三枝暁子『京都の歴史を歩く』(岩波新書) 岩波書店 2016.1

 京都が大好きなので、関連本は定期的に読んでいるが、本当に満足できるものは多くない。印象や俗説に流されて、歴史をきちんと押さえていない記述だと、読んで損をしたような気持ちになる。私の好きな京都本といえば、森浩一先生の『京都の歴史を足元からさぐる』シリーズがダントツだったが、これは新書1冊で、かなりの充足を味わえた。

 本書の冒頭には著者三人の問題意識が記載されてる。現在、京都については、観光ブームと一体となった「歴史(イメージ)」が強い影響力を持っている。それは、雅な貴族文化や豪奢な桃山文化、朝廷・貴族や豊かな町人や寺社など上層の文化に特化したものだ。これに違和感を持つ著者たちは(林屋辰三郎が論じたように)中央、男性、天皇・貴族に対して、地方、女性史、部落史の視点を重視し、「史料に裏づけられ、辛口で批判的な、手に持って歩ける歴史散策の書」として、本書を執筆した。

 京都讃美に背を向けた「辛口で批判的な」歴史案内というと、気持ちが落ち込みそうだが、そんなことはない。祇園祭を支え続ける町人の公共的活動、北山殿の栄華、学都京都の伝統など、晴れやかな歴史も十分に盛り込まれている。その一方に、災害や差別、迫害の歴史もある。16世紀半ばに伝来したキリスト教は、はじめ活発な布教が行われ、壮麗な南蛮寺、修道院や、貧民を収容する西洋式の病院(!)がつくられ、宣教師等の居住地である「だいうす町」が形成された。「だいうす町」の痕跡は複数残っているという。知らなかった~。やがてキリスト教弾圧が始まり、文禄5年(1596)には「二十六聖人の殉教」が起きた。これ、私は長崎の事件だとばかり思ってた。修道士と信者たちは、京都(一条戻り橋付近か)で左耳をそがれ、洛中を引きまわされた上、大坂から長崎に送られ、長崎で磔刑になったのだ。

 洛北・岩倉の大雲寺には、江戸時代から観音の霊験を求める「狂気の者、眼病の族」が多数参拝に訪れ、周囲には、病者の逗留を受け入れる茶屋(保養所)が形成されていた。明治になると、岩倉癲狂院が開設され、岩倉は精神医療で知られる土地となる。1920年代には、家庭的看護や開放治療が評価されるようになり、岩倉は古くからそれを試みてきた地域として注目された。こういう伝統は、観光資源にはならないし、あまり宣伝することではないのかもしれないが、私はとても興味深いと思った。現地にあるという「城守保養所資料館」(予約制)、機会があったら行ってみたい(※京都新聞2014/1/3)。

 観光地のつくられかたとして、面白いと思ったのは宇治。江戸時代には、宇治川の先陣争いや源三位頼政の自刃など、雄々しい軍記物の故地だったが、岡倉天心の『日本美術史』(1890年)によって「藤原氏時代(国風文化)」の美術的価値が確立する。昭和のはじめの源氏物語ブームによって、宇治は国風文化の華やかさに包摂され、「宇治十帖の物語本来の暗さは忘れられていく」。そうだなあ、私は「宇治十帖」はあらすじを聞くだけで気が滅入るので、ちゃんと全文を読んだことがない。しかし戦前期の宇治は、王朝文化よりも県祭(あがたまつり)が有名だったというのには苦笑した。暗闇の中で行われるエロ・グロ祭りと考えられていたらしい。

 嵯峨野や嵐山の景観整備には、京都府知事・北垣国道(1836-1916)の尽力が大きかったことを初めて知った。私の好きだった祇王寺も滝口寺も、このひとがいなかったら、無人の荒れ寺だったかもしれない。滝口寺は昭和初期に長唄の杵屋佐吉により再興された、というのもここにメモしておこう。

 東海道と山科の道をめぐる記述も面白かった。かつては牛馬の行き交う道だったんだな。山科の西雲寺には熊谷蓮心の顕彰碑(文政8年/1825)がある。熊谷は、鳩居堂の当主・香久屋久右衛門のことで、老いた牛馬が余生を過ごすための放牧場をこの地に設けた。ちょっといい話。三条通(東海道)の難所である旧日岡峠は、享保末年に整備され、米を積んだ牛車が通りやすいように峠道の傾斜をゆるやかにした。さらに慶応年間には、逢坂峠を6メートルも切り下げている。近代の鉄道を通すのも大変だが、牛馬の物流も大変だったのだ。いつか「ブラタモリ」で取り上げられることを期待。

 本書は「道」と「場」(地域)にこだわった、と書かれているが、特に「道」(鉄道や高瀬川の水運、琵琶湖疎水を含め)に関する記述は新鮮な発見が多くて面白かった。すべて地図つき。ただし、京都の全体図が、ある程度、頭に入っていないと実感が湧かないかもしれない。

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