見もの・読みもの日記

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性差と性を考える/性差(ジェンダー)の日本史

2020-11-14 16:33:52 | 行ったもの(美術館・見仏)

国立歴史民俗博物館 企画展示『性差(ジェンダー)の日本史』(2020年10月6日~12月6日)

 オンライン事前予約を忘れて現地に行ってしまったのだが、幸い空きがあって、すぐ入場することができた。本展は、ジェンダーが日本社会の歴史のなかでどんな意味をもち、どう変化してきたのかを問う。

 第1会場(展示室A)では、まず古代の政治(まつりごと)の行われる空間に着目して区分の始まりを考え、次に仕事とくらしのなかの男女にも光を当て、古代から中世・近世まで、男の職業、女の職業という私たちのイメージが、どのように生まれてきたかを考える。

 弥生時代後期から古墳時代前期には、女性首長と考えられる人物が一般的に存在した。しかし古墳時代中期になると、おそらく韓半島をめぐる軍事的緊張の高まりを背景に、女性首長は急速に減少する(古墳から見つかる女性人骨の割合で分かる)。しかし小首長や世帯の長と見られる女性が引き続き存在した。

 面白かったのは、古代のサトの直会(なおらい)の復元模型(島根県の青木遺跡で出土した木簡をもとに復元)で、地面に茣蓙(?)を敷き、人々が飲み食いしているのだが、けっこう序列の高いグループでも男女が混じっている。中国の古装ドラマなどを見ていて、古代の男女が平気で顔を合わせて喋っているのは「お話」だろうと感じていたのだが、私の前提のほうが(もっと新しい時代の常識にとらわれすぎて)間違っていたかもしれない。

 平安時代の女性は御簾の後ろに隠れてしまう。しかし中世前期の女院が大きな財力と影響力を有していたことは、残された古文書からもうかがえる。『高山寺旧蔵聖教紙背文書屏風』に見られる文書(八条院暲子の女院庁に提出されたもの)については、イラストつきの解説が分かりやすかった。

 歴博甲本『洛中洛外図屏風』は複製の展示だったが、逆に安心して顔を近づけて細部を楽しむことができた。絵画史料としての屏風はほんとに面白いなあ~。情報量が半端ないので、いつまでも楽しむことができる。東博所蔵の『月次風俗図屏風』(八曲一双、16世紀後期)が展示されていて、おや!と思った(これも複製)。ブログ内で調べたら、私が原本を初めて見たのは2008年の正月だが、今でも強く印象に残っている。今回解説を読んで、さらに興味が増した。男性の多い競馬見物と女性の多い呉服屋の店内を1枚の画面の上下に描いていたり、ジェンダー意識がうかがわれて面白い。

 第2会場(展示室B)は、性の売買の歴史を考える。中心は近世から近代。高橋由一の『花魁』が来ていた。かなり衝撃だったのは、三井家などの大商人(大店)が、新吉原の特定の茶屋と提携を結び、奉公人の遊び方を管理していたこと。大店では客の相手をする手代(独身男性)が300人を超え、男性のみの集団生活で数十年を過ごしたという。そうか、歌舞伎や文楽で見ていると、この規模感は分からないな。男性の性が管理されていたのは軍隊だけではないことを初めて知ったが、ある種、軍隊に近いかもしれない。

 明治5年(1872)の芸娼妓解放令以後、売春は娼妓が「自由意思」で行うものになったが、これが建て前しかなかったことは、横山百合子氏の『江戸東京の明治維新』(岩波新書、2018)でも論じられていたとおり。というか、実は本展「性差の日本史」プロジェクト代表は、この横山先生なのである。横山先生の著者に出てきた遊女かしくの歎願書(東京府文書)が展示されていたのには感激した。「遊女いやだ申候」の文字がちゃんと読めた。

 本展は、文書だけでなくモノの展示品も豊富で、娼妓が使用していた洗浄機や箱膳(大阪人権博物館所蔵か)や「特殊料理屋営業」の看板、明治末期につくられた月経帯などもあった。初めて客を取る娼妓は、肌襦袢と腰巻を剥ぎ取られ、土間に蹴落とされて、木椀の中のネコメシを手を使わずに食べた。人間界から畜生界に堕ちたことをあらわす儀式だったという説明書きがあり、言葉がなかった。

 最後は女性の活躍や復権を示す資料で終わるが、途中、かなり苦しいものを見せられる展覧会である。しかし、だからこそ多くの人に見てほしい。歴博、この数年、ほんとに他の博物館ではできないような、いい展覧会をやってくれるなあと思って感謝している。


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