見もの・読みもの日記

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女たちの国/あめりか物語(永井荷風)

2006-11-03 11:51:56 | 読んだもの(書籍)
○永井荷風『あめりか物語』(岩波文庫) 岩波書店 1952.11

 「関西・文化財めぐり」のレポートは、まだ完結しないのだが、先週、読んだ本の記憶が薄れてしまうので、とりあえず。

 さ来週、仕事でアメリカに行く。ボストンに入り、鉄道で移動して、ニューヨークから帰国する。この出張が決まったとき、即座に私の脳裡に浮かんだのは、仕事と全く関係のない、末延芳晴さんの『荷風のあめりか』(平凡社ライブラリー 2005.12)であった。ものすごく面白い評論だったが、実は、荷風の『あめりか物語』自体は、読んだことがない。初めてニューヨークの地を踏む前に、ぜひともこれを読んでおこうと思った。

 荷風は、1903年(明治36年)に渡米、1905年暮れから1907年まで正金銀行ニューヨーク支店に勤め、フランスを経由して、1908年に帰国した。ふーむ。今からちょうど100年前の話だ。そして、1908年(明治41年)に発表されたのが本書である。

 実のところ、本書のエッセンスは、末延芳晴さんの評論の引用で、ほぼ読み尽くしていたようで、あまり新味はなかった。末延さんの本に漏れている部分は、「目の前のアメリカを見ず、出来合いの観念で頭を一杯」(本書解説)にしている感じが否めない。登場人物は「江戸の芝居か人情本の人物」のように(!)型どおりで、憧れの西洋社会に入り込んだ著者の自画像は、厳しく言えば、自己陶酔的で「一種の浮わついた調子」がある。

 作品は、ほぼ時系列的に並んでいると思われ、後半になると文体が落ち着いて、嫌味がなくなる。最後の「六月の夜の夢」は、事件というほどの事件も起きないが、美しい小品である。

 表現の成熟とは別に、自分を美しく飾ることに長け、肉体の美を誇り、感情や愛情を自由に表現する西洋の女性たちに魅了される著者の気持ちは、終始一貫して本物だと思う。その比較の題材として提示されている、当時の日本の、典型的な家庭婦人の姿を読んでいると、日本の女性も、ずいぶん変わったものだと思う。荷風先生の喜ぶ方に変わったわけである。

 「六月の夜の夢」に登場するロザリンは、聡明で愛らしい女性である。若き荷風は「ロザリン嬢は米国婦人の例としてやはり独身主義者ではあるまいか」と思ったという。当時のアメリカの女性って、既にいまの日本みたいな状況だったのだろうか。明治の日本人男性なら、こう思いたくなるのも分かる。これに対してロザリンは、「私は決して独身主義者ではない、けれども、きっと独身でおわらなければならないと思っている」と答え、しかし、イギリス育ちの自分は、フランスの寡婦のようなものにも、米国の偏狭で冷酷なオールドミスにもならない、「私は死ぬまでこの通り、いつまでもこの通りのお転婆娘です」と答える。

 荷風は、この答えを聞いてどう思ったのだろう。わざわざ書き留めているのだから、それなりの衝撃と感慨があったにちがいないのだが。なんだか、現代女性と明治の荷風が対話しているような感じがした。

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