見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

関西週末旅行10月編:正倉院展(奈良博)

2007-10-28 23:53:13 | 行ったもの(美術館・見仏)
○奈良国立博物館 第59回『正倉院展』

http://www.narahaku.go.jp/

 今年も正倉院展に行ってきた。昨年に引き続き、6年連続の皆勤である。土曜日は日中の仕事を終えてから、夕方、新幹線で奈良に向かった。前泊して、今朝は8時少し前に奈良博へ。なんとか第1列の中ほどに並ぶことができたが、観客の出足は早く、8:30には建物側面の列が既に三つ折状態になっていた。

 開館待ちの間に配られる展示リストと館内図を眺めながら、入場と同時にどの品にダッシュするかを決める。すぐに人が溜まってしまう第1展示室は諦めて、その先に狙いをつけるのがコツである。今年は『墨絵弾弓(すみえのだんきゅう)』にしようと決めた。弓身の内側に散楽(雑技=組体操や球技や歌舞)に興ずる人々を描いたものだ。雑誌『ならら』の正倉院展特集で杉本一樹さんが「小さい絵なので、この展示の前は混むだろうな」とおっしゃっていたものである。

 しかし、豆粒ほどの絵を想像していたわりには、大きかった。人の大きさが親指くらいはあるので、肉眼で十分楽しめる。つば広の帽子をかぶり、覆面をした人物が興味深い(中世のかぶき者みたいだ)。憧れの唐土のつもりか、それとも寧楽の都の光景だったのか。いずれにしても、どうしてこんな装飾を思いついたのだろう。

 第1室の後半は、奈良朝官人の文雅を思わせる文房四宝のミニ特集。筆は、どれも太いことにびっくり。写経のような細字も、太い筆の先端だけで書いたようだ。硯は今回出品の『青斑石硯(せいはんせきのすずり)』が宝庫に伝存する唯一のものだという。ちょっと意外。そばにいたおじさんが「この模様の石って、糸魚川付近でしか取れないらしいよ」と喋っていたのが気にかかる。丸木舟形の墨は、いかにも人の手で整形したような柔らかな丸みを帯びていた。

 第2室は、一転して女性的で華やかな工芸品揃い。私は『琥珀誦珠』に激しく魅せられてしまった! 本体は地味な濃茶の琥珀の珠を連ねたものだが、要所に真珠、瑪瑙、紫水晶などを配した姿は、女盛りの高貴な女性にふさわしい。光明子か、いや、唐の則天武后に似合いそうだ、などと思った。すぐ隣りに『金銀平脱皮箱(きんぎんへいだつのかわばこ)』。鳳凰を取り巻く花枝が、十分に文様化されていないところが愛らしいと思う。さらに『紫檀木画箱(したんもくがばこ)』もいいなあ。紫檀の濃茶の地に、象牙(白)、鹿角(緑)、ツゲ(明るい茶)の三色で花鳥図をあらわす。精巧な技術と、みずみずしい童心の同居が、いかにも正倉院御物らしい一品である。

 意外と面白かったのが、文書類。『出雲国大税賑給歴名帳』には、賑給(しんごう=食料の臨時支給)の対象となった人々の名前が「寡(夫のいない50歳以上の女性)」「鰥(かん=妻のいない60歳以上の男性)」「不能自存(ひとりで生活できない者)」など、いくつかの種別に従って記されている。古代にも、さまざまな人生があったのだなあ、と思わせられた。

 また、有名人が経典の借用を願い出た文書も残っていて、諸兄は「南海傳臺部四巻」、藤原仲麻呂は「大毘婆娑論一部」と「瑜伽論疏」を借りている。受付者は「造東大寺司」となっているが、これは、東大寺の造営以外に経典の管理もしていたということだろうか。唐経『四分律』は、素人が見てもヨダレの垂れるような書の名品。

 さて、人の流れに急かされながらひとまわりして、ちょうど1時間くらい。最後にもう一度、入口に戻ってみた。そうしたら、第1展示室が妙に空いている。どうやら開館から1時間で、早くも入場制限をかけたらしい。なんというラッキー! さっきまで黒山の人だかりだった展示ケース前がスカスカである。諦めていた展示品No.1『花鳥背八角鏡(かちょうはいのはっかくきょう)』の前へ。花枝を咥えた2羽のオウムがエキゾチックである。寛喜2年(1230)の盗難事件で破壊されたものを明治時代に修復したのだそうだ。その銀製の鎹(かすがい)が黒変して、ざるそばに散らした海苔みたいに見えるのが痛々しい。

 壁際に並んだ屏風シリーズも堪能した。『羊木臈纈屏風(ひつじきろうけちのびょうぶ)』の木の葉や草の表現を見ると、同じ型紙をスタンプのように何度も使っているらしいことが分かる。後ろの木にいる2匹のサルも同じ型紙だろう。描かれた動物たちは、見れば見るほど素朴で可愛い。日本製だというのは納得である。黒パンみたいな「臈蜜」も興味深かった。

 10:15くらいになったところで、入場が再開されたらしく、人が増えてきたので退散した。あとはもう、『墨絵弾弓』の前にも近寄れず。でも、今年は展示品がバラエティに飛んでいて、非常に面白かったと思う。

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 雑誌いろいろ・2007年11月号 | トップ | 関西週末旅行10月編:奈良博... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
正倉院展 (coova)
2007-10-31 12:13:52
こんにちは、いきなり通りすがりのものです。
来週の土曜日に奈良まで始発で行き、正倉院展を日帰りで見て帰ろうと思ったのですが、日曜日もとても混んでいたのですね。平日もとても混んでいるらしいし、終了間際の土曜日10時頃から並ぶなんてやはり無謀でしょうか・・
ブログを読んで、やはり行きたいと思ってしまいました。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

行ったもの(美術館・見仏)」カテゴリの最新記事