見もの・読みもの日記

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風刺とファンタジー/折りたたみ北京(ケン・リュウ)

2019-09-11 22:50:16 | 読んだもの(書籍)

〇ケン・リュウ編;中原尚哉他訳『折りたたみ北京:現代中国SFアンソロジー』(新ハヤカワSFシリーズ) 早川書房 2018.2

 ほとんど小説を読まない私だが、「現代中国SF」というジャンルが話題らしいと聞いて、おそるおそる本書を買ってみた。アンソロジーなので、面白い作品が1つでもあれば御の字と思いつつ読み始めたら、あっという間に全部読んでしまった。

 本書は、現代中国を代表する7名の作家の13編の作品を、中国系アメリカ人作家ケン・リュウが英語に翻訳したアンソロジー「Invisible Planets」をさらに日本語に翻訳したもの。第50回星雲賞の海外短編部門(日本SF大会参加登録者の投票で選ばれる)を受賞したことで話題になっている。7人の作家とは、陳楸帆(チェン・チウファン)、夏笳(シア・ジア)、馬伯庸(マー・ボーヨン)、郝景芳(ハオ・ジンファン)、糖匪(タン・フェイ)、程婧波(チョン・ジンポー)、劉慈欣(リウ・ツーシン)。知っていたのは、ドラマ『三国機密』『長安十二時辰』の原作者・馬伯庸だけだった。

 馬伯庸の『沈黙都市』は、極度の検閲が敷かれた近未来の物語。全ての市民は、身分証明書カード番号=ウェブアクセス場号で管理されている。BBSフォーラムでも日常生活でも、市民の使える言葉は「健全語」に限られていて、健全語リストは少しずつ減っていく。あるとき主人公は、非合法の「会話クラブ」に誘われ、率直な交流の楽しみを覚えるが、突如、クラブは関係当局に潰されてしまう。愛と自由を失った主人公の胸の奥には、反政府の過激派に身を投ずる決意が芽生える。訳者は解説で、この物語を中国政府へのあからさまな風刺として読まずにいられないかもしれないが「その誘惑には耐えることをおすすめする」と書いている。理解が皮相になるからかしら。でも、政治風刺として読んでも、もっと哲学的に読んでも、どちらも面白いと思う。行動する主人公であるのが馬伯庸らしいと思った。巻末の解説で、作家・立原透耶氏が「日本でもかなり人気の出そうな作家」と評していたのも嬉しい。もっと作品が読みたい。

 陳楸帆の『鼠年』も現代中国への風刺として読みたくなる作品。就職難に悩むモラトリアム大学生の主人公は鼠駆除隊に志願する。鼠、いや遺伝子改造されたネオラットは、富裕層のペットとして工場で生産されていたが、逃げ出して大量繁殖してしまったのだ。「民を守り、鼠を殺そう」のスローガンの下、厳しい教官に統率されて、鼠との戦いに臨む学生たち。悪夢のようにシニカルで好きだ。

 夏笳の『百鬼夜行街』『童童の夏』『龍馬夜行』は、優しさと哀しさが沁みわたるファンタジー。かつて萩尾望都のマンガを読んだときの感じを思い出した。作者も女性である。『童童の夏』では、童童(トントン)のおじいちゃんは、自分の介護のために派遣されたロボット阿福(アーフー)の遠隔操作方法を覚えて、離れて暮らす老人友だちの介護や看病をすることになる。これ、実現したら嬉しいな!同じロボット活用でも、若者が高齢者を介護するためのロボットから発想を大転換するのだ。

 劉慈欣の『円』は話題の長編『三体』の一部を抜粋し改変したものだそうだ。舞台は古代中国で、秦の政王と蕭何が登場する。この発想はなかった!と思って大いに笑ったが、ネタバレはなしにしておく。

 全体として、こんなふうに多様で質の高いSF文学が次々に生まれているのは、やっぱり今の中国が豊かで力(勢い)があるからなんだろうなと思った。収録作家たちが、作家であると同時に、IT企業のプロダクトマーケティング部門のマネージャー(陳楸帆)とか、大学教員(夏笳)とか、シンクタンク(郝景芳)とか、華麗な別の職業を持っているのも今の中国っぽい。


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