見もの・読みもの日記

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先史時代~唐・安史の乱/中華の成立(渡辺信一郎)

2020-01-15 20:42:15 | 読んだもの(書籍)

〇渡辺信一郎『中華の成立:唐代まで』(シリーズ中国の歴史 1)(岩波新書) 岩波書店 2019.11

 新たに刊行が始まった岩波新書の「中国の歴史」シリーズの第1巻。全5巻で、時間的には先史時代から20世紀(中華人民共和国の成立)まで、空間的には草原・中原・江南・海域を包括的に扱うことを目指している。その全体図(各巻の守備範囲の見取図)を見たときは、これから始まる壮大な物語を想ってわくわくした。

 しかし第1巻を読んだ感想としては、新書5冊で中国三千年の歴史を一望するのは、かなり無謀な試みだと分かった。第1巻は、まず新石器時代(紀元前5000年紀~)における農耕社会の形成を短く語り、夏(二里頭文化)、殷周時代を経て、秦漢帝国に至る。ヒトゲノム解析によれば、2500年前の「中原」には、現代ヨーロッパ人に近いパン・ユーラシアンが暮らしていたが、紀元前後の秦漢時代に漢族(東アジア人類集団)の形成が進んだと見られている。

 秦始皇帝の専制統治の根幹をなす郡県制、漢高祖による郡国制の創出というあたりは、渡邉義浩『漢帝国』を思い出すと参考になった。漢武帝の時代には三輔(首都圏)-内郡(漢人の住む地域)-辺郡(諸種族が混住する)という中心-周辺構造が意識された。辺郡のうち帝国直轄領域が「天下」であり、三輔と内部が「中国」である。帝国領域では、郡県制と封建制と貢献制という、異なる原理に基づく重層的な支配従属関係が形成された。なるほど、教科書みたいに一つの原理では割り切れないのだな。そして帝国領域外からの貢献は、皇帝の徳治の及ぶ範囲を実証するものだった。正月に故宮博物院で「朝貢図」の特集展示を見ながら、このことを思い出していた。

 王莽の国政改革は、のちの歴代王朝が参照する「中国における古典国制」を成立させた。その根底にある秩序原理が生民論と承天論である。天の生みなした民衆には統治能力がないので、有徳の天子が天から統治を委任されるというもの。漢代については「均田制」の実態探求も面白かった。当時の人々にとって「均等」とは、一律均等ではなく、貧富・貴賤・長幼に基づく分配が「均」(公平な分配)と考えられていたという。

 後漢の衰退によって、中国は分裂時代を迎える。魏晋南北朝、五胡十六国時代。この頃、華北では二頭の牛に鉄製犂をひかせて耕起・整地を行う大農法が普及し、農村の聚落形態、家族形態などに大きな変化をもたらした。中家層が没落し、大家層(富家層)と貧家層への二極化も進行する。

 最終章、あと40ページくらいでようやく隋唐帝国の始まりに至り、もう無理だろ~と頭を抱えたくなった。限られた紙数の中で詳しく述べられていたのは、隋文帝による礼楽、特に楽制(宮廷音楽)の再建と革新。民間音楽との区別を明確にし、「中国民族音楽」形成の出発点となった。また、元会儀礼(新年拝賀)において参加者が臣従を誓う「舞踏」礼も定められた。これらは、日本の王朝文化への影響も大きいと思う。今度、雅楽を聴くときは隋文帝の名前を思い出そう。

 唐太宗は隋の事業を引き継ぎ、国制を整備していく。中国と北方遊牧世界の王権を一人で兼ね、天下の主となり、天河汗と号した。北の遊牧世界と南の中華世界の相互作用が生み出した新たな中国(第二次中華帝国)の誕生である。本書を読んでいると、過去の中国人が描いてきた(現代中国人にも基本的に共有されている)世界像が分かる気がしてくる。そしてそれは、現代中国の玄幻(ファンタジー)小説やドラマの設定にも強い影響を与えていると思う。

 玄宗は唐王朝の最盛期をもたらすが、その裏側で農民の戸籍離脱が増加し、財政・軍制の危機を高め、律令制は次第に変質を余儀なくされた。このへんは、昨年、氣賀澤保規『絢爛たる世界帝国:隋唐時代』で読んだところ。本書は安史の乱の始まりをもって終わる。

 本書は、中国史をある程度知っていれば、新たな視点の知識を得ることができて、たいへん面白い読みものだと思う。「天下」「中国」など、歴史的なキーワードの正しい理解にもつながるし、王莽、隋の文帝など、歴史上の人物が果たした役割についての認識も変わる。ただし「おわりに」で著者が述懐しているとおり、(この時代の)「全体史とはとてもいえない」ので、初学者には不満の残る著作かもしれない。適切な読者に選ばれて読まれてほしいと思う。


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