見もの・読みもの日記

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掌(たなごころ)から世界まで/「旅」(三井記念美術館)

2007-07-15 18:20:01 | 行ったもの(美術館・見仏)
○三井記念美術館 企画展『美術の遊びとこころ「旅」~国宝「一遍聖絵」から参詣図・名所絵、西行・芭蕉の旅まで』

http://www.mitsui-museum.jp/index2.html

 昨日、旅行に出発するつもりで羽田空港まで行ったのだが、台風の影響で飛行機が飛ばなくなってしまった。仕方ないので、家に戻りがてら、この展覧会に寄った。行けなくなった「旅」の代わりと自嘲しながら。

 本展は、「旅」をテーマに、先人が「旅」のなかで培ってきた日本の文化と「旅」に寄せてきた様々な思いを紹介する企画である。最初のセクションは「小さな旅」と題して、印籠、たばこ入れ、携重(高級なお弁当箱)などの”携帯小物”を展示する。

 いいなあ~と思ったのは、『手造籐組茶籠』。小公女が持ちそうな籐製のバスケット。これを包む、赤の更紗の巾着袋つき。中身は、ままごとみたいな茶道具セットである。茶杓、茶筅、棗(なつめ)、そばちょこみたいな小ぶりの茶碗。これなら、どこへでも持って歩いて、好きなところでお茶を楽しめるわけだ。女性の所持品らしく、全体が”赤”のトーンで統一されていて、かわいい。しかし、茶碗は赤楽茶碗だし、茶巾筒は永楽和全の赤地金襴手というところが、さすが三井の奥様である(→楽茶碗永楽和全、どっちも、この美術館で特集してましたね)。奥様の名は、11代目高公夫人の子(としこ)さん(1901-1976)。

 その次の『唐物籐組小茶籠』で、私は再び唸ってしまった。やはり、携帯用の茶道具セットなのだが、こちらは、8代目三井高福(たかよし)氏(1808-1885)が所持。黒の小棗に、染付けの茶巾筒。男性的な気骨と洒脱さが香り立ち、羽織姿の明治男の風貌が髣髴と浮かぶような気がした。

 「霊場と名所への旅」のセクションでは、藤原定家自筆の『熊野御幸記』(国宝)が全巻開示されている。建仁元年(1201)、後鳥羽上皇の熊野御幸に供奉したときの日記である(→本文はネット上にもあり)。これって、定家の日記『名月記』の抄だそうだが、そうなのかな。どっちが先の成立なんだろ? 前半は、いかにも執念深そうな細字でびっしりと記録されているが、後半はやや字が大きく、たどたどしく感じられる(疲労困憊、という感じ)。それにしても、40歳の定家、腹痛、咳病、寒さ、疲労、足の痛みなどに耐えながらの旅なのに、3日に1度くらい和歌会が催され、付き合わされているのが可笑しい。

 さて、本展の白眉は『一遍聖絵』であろう。現在、公式サイトのTOPに上がっている画像をご覧いただきたい。あたかも中国の山水画のごとく、天に聳え立つ三本の峰、その頂上にちょこんと乗った朱塗りの社。よく見ると、右端では、岩壁に長い長い梯子を立てかけて、頂上のお社を目指そうとする男がいる。虚のような実のような、真摯な信仰を表すような、他愛ないお伽話のような、さまざまな解釈を許容する、不思議な光景である。

 これは同絵巻・第2巻の「菅生(すごう)の岩屋」の場面。本展では、第2巻と第6巻のそれぞれ3つの場面を、2週間ごとに展示替えするという。うちへ帰って『一遍聖絵』の全巻図録(2002年、奈良国立博物館)をチェックしたが、本展では、この第2巻冒頭が、絵画的にベストショットなんじゃないかな。見たい方はお急ぎください。

 もうひとつ、どうしても語っておきたいのは、17世紀に作られた『日本航海図』(重文)。ポルトラーノ式という図法を用いて、かなり正確に本州・四国・九州を写している。この時期の航海図の現存例は極めて珍しく、特に羊皮紙に描かれたものは本図ともう1点しかないという。

 その、もう1点に当たるのか、定かでないが(調べ始めたら分からなくなってしまった)、伊勢の神宮徴古館に『アジア航海図』(羊皮紙着色)が伝わっており、これを紙に写したものも展示されていた。こちらは、右上隅に小さく日本を描き、マレー半島、ルソン、ボルネオ、その先の南太平洋までを収めている。原本は、御朱印貿易にかかわった伊勢の豪商・角屋(かどや)に伝来したもので、同じ伊勢松阪出身の三井家は、その縁で、筆写させてもらったのではないかという。

 角屋七郎兵衛は、江戸時代初期、安南(ベトナム)との交易に活躍し、ホイアンに日本人町を造営して長となったが、そののち、鎖国令によって帰国を禁じられ、現地で没した。ホイアンか~! 年末年始のベトナム旅行がよみがえって、懐かしい。松阪も、むかし訪ねたことがあるが、ベトナムとつながりがあるなんて、思ってもいなかった。先月、九州国立博物館で見た立派な船の埴輪が、「松阪市出土」だったのも気になっている。また松阪に行ってみようかしら。というわけで、新たな旅心を刺激される展覧会だった。

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