見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

世話物、中国もの/文楽・天網島時雨炬燵、国性爺合戦、他

2015-03-03 21:55:44 | 行ったもの2(講演・公演)
国立劇場 2月文楽公演(2015年2月28日)

 金曜の夜に札幌を発って、土曜に東京で文楽を見て来た。

・第1部『花競四季寿(はなくらべしきのことぶき)・万才/海女/関寺小町/鷺娘』『天網島時雨炬燵(てんのあみじましぐれのこたつ)・紙屋内の段』

 『花競四季寿』は、1月に大阪の国立文楽劇場で見て来たばかり。でも演者が替わっているのが面白かった。すぐに気づいたのは、三味線の鶴澤清治さん(大阪)がいなくて、鶴澤寛治さん(東京)が床に上っていた。あらためてプログラムを見比べたら、三味線も太夫も人形もほとんど替わっていた。こういう違いが分かるようになると、同時期に同じ演目を続けて見ても楽しめるんだろうな。鷺娘の文雀さんは休演で和生さんが代演。

 『天網島時雨炬燵』は『心中天網島』の改作。原作に比べると、テレビドラマのような気安さ、滑稽さが際立つ。より人間の実像に近いかもしれない。東京では35年ぶりの上演だというので、たぶん初見だと思う。やっぱり(私を含め)東京人はストイックで文学的な原作のほうが好みなのだろう。冒頭のチャリ場、弾けたような「ちょんがれ」を美声にのせる咲甫大夫さん、いいわあ。切は余裕の嶋大夫さん。奥は英大夫さんが熱演。玉女さんの紙屋治兵衛は、なんとなく威厳がありすぎて落ち着かない感じがする。

・第2部『国性爺合戦(こくせんやかっせん)・千里が竹虎狩りの段/楼門の段/甘輝館の段/紅流しより獅子が城の段』

 ずいぶん前(学生時代?)に一度だけ見た記憶がある演目。その頃より、物語の背景が分かるようになって、楽しめた。この日の午前中は東京国立博物館で『南京の書画-仏教の聖地、文人の楽園』という特集陳列を見て、明の遺臣たちのさまざまな生き方を考えていたのも偶然だった。

 冒頭の「千里が竹虎狩りの段」はとにかく楽しい。でも、むかしからあんなモコモコした着ぐるみふうの虎だったっけ? 和藤内と相撲を取ったり、熱演中の三輪大夫さんにちょっかいを出したり、笑わせてくれる。「楼門の段」「甘輝館の段」は、人形の動きが少ないので、舞台だけを見ているとちょっとダレるが、呂勢大夫×清治、千歳大夫×冨助に聞き惚れ、見惚れて飽きなかった。最近、上演中もつねに楽器をメンテしている三味線の様子が気になって、舞台以上に注目してしまう。あと、端役の唐人たちが、ときどき中国語の発音に似せたセリフをしゃべっていて可笑しい。韃靼王はヌルハチのことで、李踏天は李自成のことだろう。甘輝館の城壁に翻る旗の文字が五常軍の「五」だと読めたこともひそかに嬉しかった。

 しかし、考えるとトンデモない物語である。和藤内(鄭成功)と義兄弟の五常軍甘輝が、明の再興に向けて手を結ぶため、和藤内の姉にして甘輝の妻である錦祥女とその母、二人の女性は自ら命を絶つ。どこに義があるんだ?という論法だが、これが大当たりしたというのだから、昔の人の思考回路は分かるようで分からない。
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