見もの・読みもの日記

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こういう地図が欲しかった/東京凸凹地形案内(今尾恵介監修)

2012-11-19 23:53:12 | 読んだもの(書籍)
○今尾恵介監修『5mメッシュ・デジタル標高地形図で歩く 東京凸凹地形案内』(別冊太陽 太陽の地図帖_016) 平凡社 2012.11

 町歩きが好きなので、地図はいろいろ使ってきた。今の地図帳は知らないが、私が子どもの頃からなじんだ地図は、山間・森林地帯は、標高線にしたがって薄い緑から濃い緑に塗り分けられているのに、都市部(人口密集地帯)はベタッとピンクか何かで塗りつぶされ、高低差を無視しているのが常だった。いまどきの携帯やパソコンで見る都市部の詳細地図も、その点はあまり変わらないように思う。

 しかし、複雑な高低差を抱え込んだ都市は、たくさんある。東京もそのひとつだ。私の場合、東京の地形に対する関心は、町歩きの実体験に発するが、もっと俯瞰的な「東京の地形」が詳しく知りたい、と思ったのは、中沢新一『アースダイバー』(講談社、2005)の影響によるところが大きい。これは、本書に収録されている、今尾恵介氏と石川初氏の対談で、石川氏が指摘しているとおりである。

 本書が使用している「5mメッシュ・デジタル標高地形図」とは、国土地理院が航空レーザ測量によって作成した「1:25,000デジタル標高地形図」のことである。国の地図取扱書店等で入手可能なほか、リンク先で、一例(皇居付近拡大図)が見られる。本書は、この地図をもとに、「目黒、五反田、品川」「六本木、麻布」「渋谷」など、地形の面白さを実感できる12エリアを写真つきルポで詳しく紹介している。

 標高差の書き込まれていない、のっぺりした地図を見ている限り、なぜ東京の道はこんなに複雑に入り組んでいるのか(なぜ京都のような碁盤の目にならなかったのか)ずっと理由が分からなかったが、標高地図を見ると、たちどころに疑問が氷解する。当たり前だが、道は標高差に従って作られるのだ。

 たとえば「神田、御茶ノ水、本郷」を見ると、微妙に蛇行しながら、つかず離れず並行する三本の道、不忍通り(東京メトロ千代田線)は、上野台地と本郷台地の間の低地を抜けていく。本郷通り(東京メトロ南北線)は本郷台地の上を南北に伸び、春日通り(都営三田線)は本郷台地の西側の低地に沿っていることが分かって、納得する。

 品川の「御殿山」とか五反田の「池田山」が、なるほど「山」だったんだなとか、渋谷が見事なほどに「谷」であることも、地形図を見て実感した。逆に、私は東京下町育ちなのだが、隅田川より東の東京には、地形と呼べるものがない(!)ことも分かった。標高0~-1メートルか、それ以下なのだ。確かに、子どもの頃は自転車で不自由なくどこまででも行けたのに、東京西部に引っ越して、坂の多さに閉口した体験がある。

 雑誌「別冊太陽」のサブカテゴリーらしいが、B5判で薄くて軽い仕上がりなのは、持ち運びの便宜を考慮しているのだろう。でも、寝転がって、眺めているだけでも、十分楽しい1冊である。
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