見もの・読みもの日記

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天下人の質素と洗練/徳川家康の遺愛品(三井記念美術館)

2010-04-19 23:48:10 | 行ったもの(美術館・見仏)
三井記念美術館 特別展『江戸を開いた天下人 徳川家康の遺愛品』(2010年4月10日~6月20日)

 三井家が300年以上拠点とした江戸城のお膝元である日本橋にちなみ、江戸を開いた天下人徳川家康を紹介する展覧会(取ってつけたような理由だが)。展示品の大半は、久能山、日光東照宮、徳川美術館などからの借りものである。

 解説によれば、家康の遺品のうち、「駿府御分物(すんぷおわけもの)」として尾張・紀州・水戸の御三家に譲られたものには、名物茶道具などの名品が多いが、家康が日常的に使っていた実用品(手沢品)は、久能山東照宮に御神宝として伝わった。両者の違いを鮮やかに見せてくれるのが、冒頭の茶道具である。徳川美術館所蔵の『唐物茶壺 銘・松花』や『曜変天目(油滴天目)』が、洗練と雅味を存分に感じさせるのに対して、手沢品である黒い『天目茶碗』の素っ気なさ。家康は、名物茶道具にも、政治的・経済的な見地から割り切った態度で接していたようだ。性格なのか、それとも茶の湯に淫した秀吉の失敗を、戒めとしていたのかもしれないなあ。

 そのかわり、家康の手沢品には、コンパスとか鉛筆とか、乳鉢に硝子(びいどろ)の薬壺とか、ヘンなものがたくさんあって、楽しい(2007年の『大徳川展』でも見た)。美術より実用に熱くなる、理系オタクの風貌が彷彿とする。加えて、時計好きのメカニックマニアでもあったようだ。

 素晴らしいのは武具。「実用」にかける情熱が、質実な中に男性的な色気を醸し出している。黒一色の甲冑に金無地の陣羽織(金唐革陣羽織)ってダンディだなあ。たまたまだが、脇差、鞍のしつらえも黒と金だった。「日本之衣裳結構になり候事、家康公よりはじまり申候」という同時代人の評があるそうだ。信長や秀吉の、お金をかけた個性派ファッションと違って、誰でも真似ができて、それなりにサマになる、スタンダードな着こなしを作り上げたということになろうか。

 久しぶりに見る巨大な『金扇馬印』は久能山所蔵。解説によれば「金扇馬印は複数あったとされ、久能山東照宮に伝わるものはその一つ」だそうだが、今日まで複数が伝わっているのかな? 野口武彦さんが『鳥羽伏見の戦い』に書いていたように、慶喜が大坂城に見捨てていった金扇馬印はこれなのかな?

 絵画では、大阪歴史博物館所蔵の『関ヶ原合戦図』が見もの。前期(~5/16)は左隻、後期は右隻の展示で、片方ずつしか見られないのはちょっと残念。様式化された緑の山に金色の雲がたなびき、遠目には、天上界を描いたようなきわめて美しい屏風だが、よく見ると、手足を切り落とされた武士の姿もある。家康の養女満天姫(まてひめ)が津軽藩主に嫁ぐ際、家康に懇願してこの屏風を貰い受け、同藩に伝来したため、「津軽屏風」とも呼ばれるそうだ。彼女は、小さい頃からこの屏風を見て育ったのだろうか。女の子が、この美しさに愛着した気持ちはよく分かる。

 狩野探幽筆の家康像も数幅あり。祖父を崇拝していた家光は、家康の夢を見るたびに、探幽に家康像を描かせたのだそうだ。お抱え絵師も大変だなあ、と苦笑してしまった。

※参考:情報・デザインミュージアム:関ヶ原合戦400年記念「戦国博」
→コンテンツに「関ヶ原大合戦」展→「絵画に描かれた関ヶ原合戦」など。

コメント (2)
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