見もの・読みもの日記

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朝鮮戦争という時代/悪の三国志

2004-06-13 22:39:12 | 読んだもの(書籍)
○芹沢勤『悪の三国志:スターリン・毛沢東・金日成』(講談社+α新書)200.5

 「朝鮮戦争の『真実』を、旧ソ連、中国の極秘資料をもとに炙り出す」というのがオビのキャッチコピー。スターリンのソ連、毛沢東の新生中国、そして金日成の北朝鮮を三国志に見立てるというのは、ちょっとネライすぎじゃないか?と思いながら読み始めた。「プロローグ」は、北朝鮮の南侵開始の知らせを受けた毛沢東が「なにっ!?」とあわててみたり、下手に芝居がかった文体でいただけない。いまどき、高校生のウェブ小説だってもう少しうまい。

 第1章以降は、ときどき小説ふうな描写を取り混ぜながら、基本的には資料にのっとった記述が続き、安心した。私は、中国の近現代史は比較的よく読んでいると思う。しかし、よく考えてみると、中華人民共和国成立以前の抗日運動に関するものと、それから大躍進~文化大革命に至る毛沢東の失政と晩年の私生活に関する暴露本がほとんどで、朝鮮戦争の時代(1950年代初頭)というのは、これまでポッカリ抜け落ちていた。

 なので、非常におもしろかった。これまで、朝鮮戦争というのは、米ソ2大陣営の代理戦争であり、国連軍(実質的にはアメリカ軍)の参戦で戦況が韓国優勢に傾いた後、ソ連・北朝鮮と同じ社会主義陣営に立つ中国は、当然、自主的に北側に援軍を投入したものと思っていた。

 しかし、どうもそうではなく、周恩来や林彪は、内政重視の立場から出兵に反対しており、毛沢東でさえ最後までためらったらしい。その中国に参戦を促したのは老獪なスターリンの戦略である。

 本書は「悪の三国志」(このタイトルなんだかなー。別に三国とも”悪”じゃないと思うんだが)と名うっているが、読んでみると、実は三国とも、アメリカという巨大なプレゼンスに、がんじがらめに縛られているように思える。

 スターリンは、アメリカとの正面衝突を避けるため、ソ連軍の参戦を承諾せず、そのかわり、毛沢東を動かして中国軍を北朝鮮に差し向けた。毛沢東が出兵をためらった最大の理由は、ソ連の援軍なしにアメリカと戦うことを恐れたのだ。しかし、北朝鮮が消滅すれば、それに代わる親米政権と国境を接しなければならないことが参戦を決意させた。

 出兵によって国力を削がれた中国が、今後もソ連に頼り続けるということは、もちろんスターリンの計算のうちだった。また、毛沢東は台湾解放(侵攻)に向けて、ソ連軍の支援を要請していたが、スターリンはこれを拒絶し、親米的な蒋介石政権を温存することで、アメリカと中国の分断をねらった。

 こうして見ると、現在の東アジアの2つの分断国家(朝鮮半島、中国/台湾)は、スターリンが作ったとも言える。また、スターリンがそういう布石を打った前提として、中国という国は、共産主義国家ではあるけれど、地政学的には、アメリカと組もうとする潜在的な必然性があるんじゃないかな、と思う。

 現在の北朝鮮をめぐる中国の立場というのは分かりにくい。世界で唯一、金正日体制を受け入れている国のように見えるんだけれど、どうも実際は違うんじゃないか...というようなことも考えた。

コメント
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