「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

南スコットランドの粋人「ウマさん」便り

2024年04月14日 | ウマさん便り

南スコットランド在住の「ウマさん」からときどきメールをいただく。

いずれもが、気の利いた洒落に思わずにっこりするような微笑ましい内容なので、こういう人こそ「粋人(風雅を好む人)なんだよなあ・・」といつも思う。

幾つか紹介してみよう。

昨日(13日)の「ボーカルの再生」について

「小さな口を小さく説明しようとしましたが長くなりました」…笑っちゃった。こんな方には会って見たいなあ。
ご本人さんに言っといてください。スコットランドの田舎で、おっさんが笑ってます。

さて、ヴォーカルの口のサイズには、常々、かなり気になっています。やはり同軸ですかね。
僕の理想の口のサイズは、まさに、キッスしたくなるような臨場感を感じるサイズです。
そう、目の前に唇が見えるような…

音量にもよるけど、唇が3メートル先にあるか? 1メートル先にあるか?
キッスしたくなるような唇と声には、思わず…「も、もっと、寄ってぇ〜」

次に~「名盤サキソフォン コロッサスの呪縛」(11日付)から

…いわく言い難いような ” 微妙な感情の揺れ ” が訪れてくる…

まさに同感です。いい音楽にはこれがありますよね。その「揺れ」の瞬間に感動を覚えます。

かなり昔ですがNYCでロリンズ氏と握手したことがあります。
彼のアルバムはほぼすべて所有していますが、聴くたびに彼の手の温もりを感じてニヤッとしています。

コンテポラリー盤「WAY OUT WEST」に、カルフォルニアの抜ける空のような録音の良さを感じますが、「SAXOPHONE COLOSSUS」は、ニューヨークを感じさせるモダンジャズ史上の金字塔ですね。

次いで「ヒューマンエラーを防ぐ知恵」(9日付)について

いい本を紹介してくださった。



これ、久しぶりに「読まなければ」と思わせる本です。
ハルバースタム氏の著書、早速注文しました。ありがとうございます。
頭の良い偉い方が間違いを起こす事実は、歴史上、何度もありましたよね。

大学同期で外務省など国の機関に就職した優秀な友人が何人かいます。
僕がアフリカのタンザニアに所用で滞在していた時、日本政府のODA基金が正しく使われていない現実を見ました。大臣クラスの官僚が自分のポケットに入れてるんです。

「日本政府はありがたい」と、平然と僕に云うのには呆れてしまいました。こんな程度の低い人間が政治家をしている国から難民が先進国に押し寄せるのも無理はないとつくづく思いました。

で、そのODAの件を外務省にいる友人に伝えたけど、その返事にも呆れてしまったんです。「ODAを送ったら我々の仕事はおしまい。その先のことは関知しない」。で、思わず「人間としてどう思ってるのか?」と言ってやりましたね。

そして最後に「夜想曲集」について。

「いつも映画の最後のタイトルバックに注目する。まず監督、それからプロデューサーをチェックする。次いで音楽かな。魅力的な女優さんが出てる場合はその名前をメモしておく。

かなり昔の話だけど、映画「日の名残り(ひのなごり、The Remains of the Day)」を観た理由は、怪優?のアンソニー・ホプキンスと、英国の名女優エマ・トンプソンの共演という、この二人の組み合わせに興味を持ったからです。

貴族階級の豪奢な屋敷に仕える執事と女中頭との心の葛藤を描いた映画で、英国の上流階級の様子などもかなり描かれていた。スリラーやサスペンス、そして、アクション物が好きな僕にはかなり地味な映画だったが、しみじみとした余韻が残る良い映画だと判断した。

因みに、僕が今住む家は、中世の貴族が住んだ大きな邸宅だけど、僕ら家族が住んでいるのは、かつて執事やメイドたちが住んでいたテリトリーで、貴族たちが住んだ部分とははっきり分かれている。当時は豪勢な庭園があったけど、庭師の家は別にあり今でも残っている。

で、例の如く「日の名残り」のタイトルバックを見た。そして、まあ驚いた。その原作者の名前にびっくりしたんや。カズオ・イシグロ…誰や?これ?

日系人のようなので驚いたわけやけど、調べてみたら、なんと生粋の日本人や。七歳の時に家族と共に渡英している。さらに、原作の「日の名残り」が、英国最高の文学賞であるブッカー賞を受賞しているのにも驚いた。

シェークスピアやディッケンズを生んだ文学の故郷と言っていい英国では、ブッカー賞にノミネートされるだけでも凄いことやって聞いたことがある。じゃあ、とんでもない人じゃないか、カズオ・イシグロって。

余談だけど、ラグビー仲間だった山下夫妻と改発がうちに来たとき、一緒に寿司を食べた英国最高のラップ・ミュージシャン、ケイト・テンペストも、初めて書いた小説がブッカー賞にノミネートされた。彼女も、とんでもない才女です。

ま、そんなわけで、映画のタイトルバックで、カズオ・イシグロの存在を知ったわけやけど、その作品をいくつか読んでみた。

面白い。不思議なプロットで退屈しない。この先、どうなるのやら?とページをめくって、一気に読み終える。何か浮遊感を覚える作風だとも感じた。のちに、イシグロ氏が音楽に深い憧憬を抱いていることを知り、その作品の通底に音楽の流れを感じたりもした。

彼は、ボブ・ディランの影響を大きく受け、シンガー・ソングライターを目指し、デモテープを音楽会社に送ったこともあるらしい。ボブ・ディランがノーベル賞を受賞した翌年、カズオ・イシグロ氏もノーベル賞を受賞した。憧れの人の次に受賞したことに、本人はとても驚いたと言う。

そんなカズオ・イシグロ氏の初の短編集が「夜想曲集」です。
こんなにしみじみとする読後感の小説はあまりないと思う。プロットの設定が、ありそうでない、或いは、なさそうで実はある…とでも云えばいいのか? 絶妙としか言えない舞台設定なんです。その場にいるような臨場感さえ感じるイシグロ氏の巧みな描写力に驚嘆する。

ほら、覚えてる? 作家・丸谷才一氏の「星のあひびき」…その中に「短編小説は音楽と夕暮れによく似合ふ」と題した一項があり、イシグロ氏の「夜想曲集」が紹介されている。僕がもっとも信頼する書評家でもある彼の批評を一部紹介させていただく。

…このカズオ・イシグロ最初の短編集は、ミュージシャンが語り手の、音楽にゆかりのある話を並べる作り。

「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」といふ副題の通り、哀愁と抒情が基調だが、イギリス小説の伝統に従って喜劇性とユーモアを忘れず、むしろそのことによって憂愁の味を深める。その作風はなんとなくあの「もののあはれ」を連想させ、この日系イギリス作家の血にはやはり日本文学が流れていると思ひたくなる…

名翻訳家・土屋政雄氏の翻訳も素晴らしい。この「夜想曲集」のレビューをアマゾンで見た。概ね評価が高かったけど、この短編集の最初のストーリー「Crooner(クルーナー)」を、土屋氏が「老歌手」と翻訳していることに対し「クルーナーに老歌手の意味はない」と抗議している方がいた。

確かにその通りだけど、この物語を読み「老歌手」以外の適訳はないと僕は思った。ちなみに「クルーナー」というのは、男性歌手でクールな声でクールな唄い方をする歌手のこと。

フランク・シナトラをクルーナーの代表とする音楽評論家が多いけど、僕は、ジョニー・ハートマン(Johnny Hartman)こそ最高のクルーナーだと思っている。サブスクで聴いてみてください。納得してもらえると思う。

「老歌手」の舞台はベニスです。ラグビー仲間だった山下が「海外旅行で一番気に入ったのがベニスやった」とコメントしてたのを思い出した。

ぜひ、ベニスに行って「老歌手」の面影を探してみたい。イシグロ氏の巧みな表現で「老歌手」が狭い運河のどこで歌を唄ったか、大体のイメージは出来ている。

イシグロ氏の奥さんは、僕の女房と同じグラスゴー出身です。彼は、ギターを抱えて、ちょくちょくロンドンから電車に乗り、スコットランド西海岸沿いにある自分のコッテージにやってくるそうですよ。

スコットランドの海を眺めながらギターを奏でる作家っていいよね。柿の種でビールを呑みながらええ加減な文章を書いてる奴とえらい違いや。

カズオ・イシグロ初の短編集「夜想曲」(ハヤカワ文庫)…とても味わい深い五つのストーリー…

脇によく冷えたシャルドネなどをはべらせ、秋の夜長にぜひページを開いてみてください。エッ? 今、春か? ほんだら梅酒でもええなあ。」



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