経営コンサルタント田上康朗の雑感帳

経営コンサルタント田上康朗が、気ままに本音で記す雑感帳です。書く日もあれば書かないときもあります。

これまた至福

2007年03月14日 | Weblog
企みのない関係を、映画「素晴らしき哉、人生」では「友」に象徴させている。
 
生きるための手段として「夢をもつこと」は重要。しかしそれは目的ではない。では目的は何か。それは、文字どおり「素晴らしき人生を送ること」だ、とこの映画は教えてくれます。ここまで、昨日書きました。
 
では、そのために何が必要なのか。私は、自己矛盾に気づきながら、企みに自分の企みに文章を進めていることに気がつき、ちょっぴり胸が痛いです。

 この「何が」は、人によって異なるのでしょうが、この映画ではそれを妻と友だ、と言っています。後日にでも、この映画における「友」の概念については触れておかねばならない、と思うのですが、その前に、唐突ですが、私の友の一人、Yさん夫婦のことにふれさせてください。

 彼は、小さな婦人衣料品店の店主ですが、経営革新の一環として5年ほど前、私と一緒に考えて、経営理念を「お客様をお友達にしよう」というのに変えました。
 
「どうせたいして売れないのだから、損も得もない。お店は、商売抜きで友達が自由に遊びに来てくれる、そんな空間にしたい。お客様とのお付き合いも、友達とのお付き合いみたいにしてしまおう」とYさんは公言しています。

 が、彼を知る者の一人として断じて誤解して欲しくないのは、それをふてくされや、なげやりで言っているのではない、ということです。
 今までの「私売る人対あなた買う人」、「私、商人対あなた消費者」、近所の顔見知りまで、そうした関係で接する自分たちが、仮面の夫婦にみえて、可笑しく思えた。

それで、私が下手な通訳すると、「そんな構図で、そんな上下(かみしも)つけて生活するより、近所づきあいのよしみで生きよう」とでも、意訳できましょうか

「夫婦でお芝居やることないよね」、それで実際に夫婦でそんな風にやったんです。努力をしてもたいしてあがらないのなら、お客さんを友達にし、楽しくワイワイがやがや楽しく凄そう。どうせ維持費がかかるのなら、お店の損得などに気を回さず、とにかくそうしたことをも意識せず、抜きにして、お客というお友達に喜んでもらい、いっしょに楽しく過ごすこと。自分たちの生き方、人生の中に商いも取り込んでしまった。

 どうもこうしたことの表現になると、私の文章力では空回りをしもどっかしくて、しょうがない。これまで「商業界」という専門誌に何回となく書きましたし、いきさつはYさんの心、心情の変化によるものですから、ここでは飛ばすことにし、Yさんご夫婦からのお便りを、を添えておきます。
 まず奥方のFさん。

 9月1日、学校の始業式の日、小学校3年生の女の子が店に遊びに来ました。
 お客様の子供さんなので最初はあまり気にしていませんでしたが、2時間経ても帰ろう、としないのです。おしゃべりしたり、おやつを食べたり、掃除の手伝いをしたり目一杯楽しんで行きました。後でお母さんから聞くと親子喧嘩して「家出」をして駆け込んだのが「○▲□(Yさんのお店の屋号)」だったわけです。
・奥さんたちの憂さばらしの場でもあります。子供のこと、ご主人のこと、姑のこと、嫁のこと一杯「グチ」をこぼしていかれます。「まるで、カウンセリングをしているみたいだね。」と夫婦で笑っています。
・もちろん、物を売るのが「店」なんですが、おしゃれを通して生活のあれこれを一緒に考えて行ければいいなあと考えるこの頃です。
・女性にとって「おしゃれ」は生活そのものです。葬式ですら、着るもの、持つもの、履くものが気になります。
・そんな女性に其の場其の場の「おしゃれ」を一緒に考えることが私達のつとめだろうと考えています。
・売るのではなく、一緒に生活や、人生を考える、そのことが「お客様という名の友達をつくる」という自分たちのつとめ(理念)を果たすことになると考えています。

 次は、旦那Kさんのお便り。
 田上先生のおかげで、沢山の方々との交流が出来、そのことによって「商人」のつとめ
は何かをおぼろげならつかむことが出来るようになりました。
 難しく言えば、戦略(目的)のたてかたと、戦術(道具)の使い方でしょうか。話局は自分さがし、自分みつけ、「私という人間」が自分の人生をいかに生きていくかということにつながって来るようです。商売という職業を通して。
 私にとって、商売も自分を生きるための一つの戦術なのですね。
 ご緑とご指導、アドバイスに心より感謝申し上げます。
 時節柄、ご自愛くださいまして、お健やかにお過ごし下さいませ。

 映画に戻します。このジョージの住む町の人たちは、彼を友達に思っていたのです。彼が、「私売る人、あなた買う人」、といった関係を超えて、いわゆる損得なしに付き合ってきた積み重ねの結果です。Yさんご夫婦とまったく同じです。

 だから、皆さんも、同じようにやればうまくいきますよ、とか、そうしなければいけませんよ、などと言うつもりはまったくありません。
 時には人智より天智、神よりかみさん、自得より他得、おおよそ損得、利害、あるいは経営学などを意識しないありかたに人生があるかも、といったことにもときには思いを寄せて、選択肢の多いことを楽しむのも悪くない、と思うのです。
 選択肢のない人生を思うと、これまさに至福。
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 ※ちなみにこの映画のDVD。書店にて500円で買えます。