--Katabatic Wind-- ずっと南の、白い大地をわたる風

応援していた第47次南極地域観測隊は、すべての活動を終了しました。
本当にお疲れさまでした。

CO計トラブル

2007-01-25 | 南極だより・観測
昭和基地では1月21日から日が沈むようになりました。
日の出日の入りを知るために、海上保安庁海洋情報部の計算サービスで計算してもらったところ、21日の日の入り(今年初の日の入り)は21日になってすぐの00:19で、日の出は日の入りから28分後の00:47でした。
本来であれば「前日」沈んだ日が「翌日」昇るのだけれど、一番太陽が低くなる時刻が0時ではないので、日の入りが「翌日」にずれ込んだのですね。
ということで、この日はもう一度日の入りがあるはず。
計算サービスを行っている、海洋情報部海洋調査課航法測地室にメールをして2度目の日の入りをたずねたところ、別途計算してくださって23:56であることを教えてくださいました。
こんなことを聞く人もなかなかいないとは思うのですが、丁寧に対応してくださってうれしかったです。
内容が理解できなくて書きかけになっていた「日独共同航空機観測 (3)温室効果気体濃度測定用大気採取」をアップしました。
題名に即した内容にはならず、小さな部品「フェルール」のことばかり(渡井さんにもフェルールっていう題名にしてもいいんじゃない?と言われた)になってしまい、ほとんど趣味の世界のようですが、渡井さんとのメールのやり取りも紹介しながらどうやって理解していったかが分かると思いますので、興味のある方はお読みください。
それでは、渡井さんからの南極だよりです。
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2007年1月24日(水)晴れ CO計トラブル

トラブルは立て続けにやってくる。
放っておけばなんともないが、大抵はなにかしら触った時に起こる。
しかも触る必要がある時は大抵忙しい時期だ。

CO計を47次隊で使用していたガスクロマトグラフィー(GC)から、48次隊で調整し、持ち込んだGCに交換する必要があった。
ところが交換して機材の調子を見るために、何も分析しない状態で出力を描かせていると、どうもその変動が大きい。

日本で機材を梱包してから、再び紐解くまで時間がかかっているので、空気の流路が汚れていることもままある。
高温で一晩焼き、汚れた成分を焼きだしてしまおうという作戦をとる。
が、焼きだしてもまだ出力が安定しない。
ためしにシリンダーから直接綺麗な空気を流しても安定しない。

ということは配管が問題なのではなく、検知器の部分がおかしいのだ。
検知器に接続している配管の部分を増し締めし、シールテープが巻いてあるところは新たに巻きなおした。
隊員向けのマニュアルには掲載されていない、何もなければ決して分解することのない箇所だ。
すると処置後の出力はなかなか出力が安定するではないか。
増し締めした箇所から空気が漏れていたのかもしれない。

ところが先日の停電の後、再び立ち上げると出力はまた安定しなくなってしまった。
怪訝だがもう一度チェックする。
サンプル空気を反応させて、直径1mmほどの穴を介して検知器に空気を導入する大事な箇所の、シールテープを巻きなおして、何気なく取り付け部を見た。
とすると、取り付け部の穴には沢山の燃えカスのようなごみ。
ここには決してあってはならないものだ。
察するにこれらのごみが穴を塞ぎ、空気の流れによって微妙に位置が変わることによって出力が変動していたのであろう。

ピンセットでごみを穴の中に落とさないように取り除き、キムワイプで取り付け部を綺麗にふきあげる。
日本で大丈夫でもこちらで調子が悪かったのは、輸送途中にごみの位置が変わったからに違いない。
この分だと検知器の中にも小さなごみが入っているだろうが、大きく動かさなければまぁ安定した信号が得られるだろう。

ここで調整できなければ、せっかく新たに持ってきた機材を持ち帰らなくてはならないところであった。
数日、連続観測に穴を開けてしまったが、不安要素なく48次隊に引き継ぎできて一安心だ。


#悪い出力

#ごみが詰まっていたところ(ごみは取り出し済み)

#取り出したゴミ

#良い出力(スパイクは調整時のもの)
-----1月24日本日の作業など-----
・一般物資空輸
・HVSマニュアル作成
・大気サンプル送り出し準備
・HVS引継ぎ
・CO計ダイアフラムポンプ、冷却用エタノール、フィルター交換
・生活廃棄物集積
・CO2, CH4, CO, O3濃度分析システムチェック

<日の出日の入>
日の出  01:37
日の入   23:22
<気象情報>
平均気温2.4℃
最高気温5.9℃(1136) 最低気温-2.0℃(2222)
平均風速1.9m/s
最大平均風速3.9m/s風向E(0250) 最大瞬間風速4.6m/s風向E(0249)
日照時間 14.7時間

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細かいチリでも装置がおかしくなることがあるのですね。
しかも輸送によってゴミの位置が変わることで、正常に動かなくなるなんて。
微量気体だけに小さなものでも、影響を受けてしまうのですね。
そういえば、チューブなどに使用する材質によっても影響を受けるというのも聞いたことがあり、繊細な観測なのだということを思い知らされます。
装置の仕組みや細部にわたる役割を知らないと、その原因にたどり着くことさえ難しいように感じます。
機械がいじれればいいということではなく、観測の内容や意味も理解していないとならないのですね。

さて、南極だよりには「今日の作業など」という項目があります。
南極だよりは、徒然ではなくテーマを決めて書いてくれるので、その日の出来事はそちらで知ることができます(渡井さんにとっては覚書らしい)。
CO計のトラブルは、その一端が「今日の作業など」に書いてありました。
1月11日CO計入れ替え
1月12日CO計入れ替え
1月13日CO計メンテナンス
1月14日CO計メンテナンス
1月15日CO計メンテナンス
1月16日CO計メンテナンス(HgOベッドベイ清掃、その後ウォーミングアップ)
1月17日CO計通常観測開始!
 どうやらベースラインが落ち着いた。
 やはりHgOベッドの付くインレットまわりのごみが原因だったようだ。


CO計のオーバーホールのときにも調子が悪くなったように、やっぱり触ったときにトラブルは起こったのですね。
そしてCO計を入れ替えてから通常観測を開始できるまで1週間もかかっています。
思い当たることを一つ一つ確かめながら、試行錯誤を繰り返しているのを読んで、大変だと思うと同時に、直せたときの喜びは大きいのだろうなぁと思いました。
どこがおかしいのか分からないものに毎日毎日向かい合うことが、どれだけ大変なことか。
もちろん日本で仕事していても、毎日向かい合うことはあるのでしょうけれど、南極では特に代わりをすぐに用意できないため、向かい方が違うのかな、と思うのです。

そういえばふと思い出したのですが、渡井さんが南極に発つ前に、「南極観測隊のいろはかるた」という記事を書きました。
「わ」 わからない ど こ が こしょうしたのかな
というのを見て、どうしてこの一文がカルタに採用されたのか、分からなかったのですが、これは南極ならではの一文だったのですね!

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