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もし、相続放棄をしなかったら?

2007年03月05日 | 民法(親族、相続)
 今回も某MLで、鹿児島県の方の質問に私が答えたものです(質問、回答とともに一部改変しています。)。

 1 質問

 未婚状態で出産をし、夫となる男性はその子供を認知したものの、自らの借金を苦に自殺をしました。
 この場合、法定代理人の母親が、相続放棄の手続きを子供の代わりにすれば済むことなのでしょうが、もし、相続放棄をしなかった場合には、当然、支払能力のない子供は、どのようになるのでしょうか?

 2 回答

 差し当たり不都合なことはないと思います。相続から10年間が経過することによって、ほとんどの相続債務は時効により消滅します(民法167条1項)。

 また、もし相続債権者が、相続人である子供に対して訴えを提起したと仮定します。その裁判は当然に相続債権があるため、全部認容の確定判決を得ることがでるでしょう。

 しかし、財産のない子供に対して、どのようにしてその確定判決を強制執行することができるのでしょうか? 結局、裁判は無駄骨となり、確定判決後、10年間が経過することで時効が成立して、相続債務は完全に消滅します(同法174条の2第1項前段)。

 それから、子供が相続債務を相続すれば、その親権者が監督責任者として何らかの責任があるのではないか、と考える方もおられるでしょう。

 しかし、あくまでも相続という制度によって生じた債務ですから、親権者はその債務の履行について、相続債権者から何ら責任を問われないと思います。

 以上は、もしも相続放棄をしなかった場合です。現実には、亡くなった実父の両親から子供が、代襲相続(同法887条2項本文)を受ける可能性がありますので、必ず、相続放棄の手続きをしてください。

株券不所持制度について

2007年03月04日 | 商法、会社法
 みなさん、こんばんは。

 私が参加しているMLで、新潟県の方が次のような質問をされました(回答も含めて、一部、加筆・訂正しています)。
 ここで、株券不所持制度とは、株主の申出にもとづいて、会社が株券を発行せず(株券の不発行)、株主名簿に氏名、住所が記載または記録され、株券がなくても権利行使ができる制度です(会社法217条)。

 1 質問
 株券発行会社において、株主の不所持の申出をする権利を剥奪することは可能なのでしょうか?

 
 2 回答
 旧商法226条ノ2第1項では、株式会社(株主総会)の裁量で、定款にその旨を規定すれば、株券不所持制度を採用しないことができました。

 しかし、会社法217条1項では、旧商法226条ノ2第1項にあった「定款ニ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外」という文言が削除され、「申し出ることができる。」と規定されました。

 さらには、同条3項で「記録しなければならない。」と規定されていますから、明らかに217条は強行規定と思われます。ですから、定款で「株券不所持制度を採用しない」旨を規定したとしても、その規定は効力を有しない無効な規定だと思います。

 次は、あくまでも私の推測ですが、旧商法時では、「株券発行が原則で、不発行が例外」で、逆に、現行の会社法では、「株券の不発行が原則で、発行が例外」というように、株券発行に係る原則と例外が逆転したためではないでしょうか?

 その原則と例外の逆転が、株券不所持制度の存在理由を百八十度の転換させ、上記のような規定の仕方に変更させたのではないでしょうか?

群馬司法書士会事件について

2007年03月02日 | 民法(総則)
 みなさん、こんばんは。

 今日は、私が以前から書込みをしたいと考えていた「群馬司法書士会事件」についてです。

 群馬司法書士会事件の事実の概要は、次のとおりです(古野豊明執筆「司法書士会の総会決議と思想・信条」(『ジュリスト 平成14年度重要判例解説』有斐閣、2003年6月10日発行))。
http://www.yuhikaku.co.jp/bookhtml/012/012016.html

 「群馬司法書士Y(被告・控訴人・被上告人)は、阪神・淡路大震災により被災した兵庫県司法書士会に3000万円の復興支援拠出金を寄付するとして、その資金の一部を会員から登記申請事件1件あたり50円の復興支援特別負担金の徴収による収入をもって充てる旨の総会決議を行った。
 
 これに対して、会員のXら(原告・披控訴人・上告人)は、この決議が会員の思想・信条等を侵害し、公序良俗に反し無効であるとして、債務不存在の確認を前橋地方裁判所に求めた。

 1審の前橋地方裁判所は、Xらの主張を認めた(前橋地判平成8・12・3判時1625号80頁)が、2審の東京高等裁判所は、拠出金の寄付は本件司法書士会の目的の範囲内であるとするYの主張を認めた(東京高判平成11・3・10判時1677号22頁)。そこで、Xらが、最高裁判所に上告した。」

 そして、最高裁は上告を棄却しました。

 1審の前橋地裁と東京高裁・最高裁との結論が異なった理由は、群馬司法書士会が、兵庫県司法書士会への拠出金の寄付金として、所属会員に対して強制的に寄付を求めることが「目的の範囲内」かどうかという権利能力の有無の判断です。前橋地裁は、目的の範囲外の行為だと判断しましたが、東京高裁や最高裁は範囲内の行為だと判断しました。

 私は、群馬司法書士会は、群馬県内の登記申請手続きに対して適切な対応がなされることを法(司法書士法)により期待されているのであって、兵庫県内のそれについてまでは期待されていないと思います。ですから、拠出金の寄付は「目的の範囲外」だと考えます。

 しかしながら、法人(群馬司法書士会)は現実に実在している訳ですから、様々な団体や個人との接触は不可避でしょう。言い換えれば、その法人の設立目的から考えて、政界、官界、経済界等の各種団体や個人との一定の“お付き合い”を否定することはできないと思います。この“お付き合い”は、法人自身に内在する権利能力だと考えるのです。

 このことから考えれば、最高裁は、原審(東京高裁)の判決を破棄して、

① 群馬司法書士会は、
② 未曾有の大震災を蒙った兵庫県司法書士会に対して、
③ 他に、強制的に徴収している金員があるのかどうかを判断に含めつつ、
④ “お付き合い”から考えて、
⑤ どの程度の金額までならば、所属会員に対して拠出金としての寄付金を強制的に徴収することができるかを、

 原審に差し戻して(民事訴訟法308条1項)、審理をやり直しさせるべきでだったと思います。 

 (参考)
 1 内田貴著『民法Ⅰ 第3版 総則・物権総論』240頁(財団法人東京大学出版会、2005年8月2日)
http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-032333-8.html

 「阪神大震災復興支援

  では、同じ論理[南九州税理士会における会員の政治献金納入義務を否定したこと(最判平成8年3月19日民集50-3-615)・・・筆者注]は, 政治献金に限らず, 災害被災者への寄付についても妥当するだろうか。

やはり強制加入団体である群馬司法書士会が, 阪神淡路大震災で被災した兵庫県司法書士会に対する復興支援のための特別負担金の徴収を決議したところ, 会員の司法書士から本件寄付が目的の範囲を超えるとの訴えが提起された事件で, 最高裁は, 司法書士会の「目的を遂行する上で直接又は間接に必要な範囲で, 他の司法書士会との業務その他について提携, 協力, 援助等をすることもその活動の範囲に含まれる」との理由で目的の範囲内であるとした(最判平成14年4月25日判時1785-31)。

しかし, 金額が高額に過ぎることなどを理由とする反対意見が付され, 判決は3対2のきわどいものだった。強制加入団体における目的の範囲の判断の難しさが示されている。」

 2 河内宏執筆『民法ー総則(第三版)』76頁(有斐閣Sシリーズ、2005年4月25日発行)
http://www.yuhikaku.co.jp/bookhtml/012/012471.html

「群馬司法書士会が阪神・淡路大震災の復興支援のために会員から寄付を徴収することが司法書士会の目的の範囲内の行為といえるかが問題となり、最高裁はこれを目的の範囲内の行為であるとした(最判平14・4・25判タ1091号215頁)。

しかし、災害があったときに寄付をするか否かは、法人の目的達成とは関係がない事柄であるから、そのような事柄について法人が決議しても、構成員は決議に拘束されないと考えるべきではあるまいか。最高裁判決は3対2の多数決で目的の範囲内としたのであるが、目的の範囲外とする少数意見にも十分根拠があると考える。」